十年の答え

(※しこんさん宅猿野君お借りしました)

 どうしたんですか、そわそわして。心配しなくてもお金はわたしが出しますから。個室とはいえ堂々としていないと、かえってみっともないですよ。あなたのことだから、テーブルマナーもちゃんと勉強したんでしょう?
 ……髪? ああ、これですか。明るい色も好きなんですが、そろそろ見た目も落ち着こうかと思いまして。高校の時以来ですね。なんだか不思議な感じです。

 ワインは何にしますか? ……分かりました。ではわたしと同じものでお願いします。
 お仕事の調子はどうですか。いえ、最近は空いた時間ずっと勉強をしているものですから、今のお仕事に支障が出ていないかと思いまして。あなたのそういう努力家な所は美点ですが、勉強にかまけて仕事の精度を欠いては困ります。
 あら、百合江さんがなんだか幸せそうなのですか。それはよかった。あの人、ちょっと頼りないところはあるけれど良い人ですから、幸せになってほしいものですね。
 ……ワインが来ましたね。それじゃあ、乾杯。

 今回この席を設けたのは、言っておきたいことがありまして。
 ああ、そんなに構えなくていいです。あなたを叱るとかそういう話じゃありません。世の中何が起こるか分かりませんから、言いたいことは言える時に言っておこうと思っただけです。
 ふふ。大丈夫ですよ。確かに色々とありましたが、この通りわたしは元気です。
 ただ、今回はたまたま上手くいったからこうして無事なだけで、運が悪ければわたしはここにいなかったかもしれません。そういう事態を避けるのが一番ですけれど、巻き込まれるときは巻き込まれるものです。シャボン玉の夢、天花薔薇園、サーカスの舞台。それ以外にも、あなたとわたし、それぞれ覚えがあるでしょう?
 今後もそういう事態が起こる可能性はあります。そして、万が一上手くいかなかったら。言いたいことも言えないまま帰れなくなったら。
 そう思うと、妙な意地は張っているだけ無駄だと思いました。

 高校の時からですし、あなたとは十年以上の付き合いになりますね。当時から腰巾着みたいだと思っていましたが、大学までついてきて、今もこうして交流が続いているのですから大したものです。
 長い間わたしを大事にしてくれて、わたしに尽くしてくれた。……それに甘えていたところも、あります。
 サーカスの舞台であなたにああ言われる前から、あなたの気持ちは知っていた。知っていた上で、わたしは何もしなかった。あなたの好意を受け取るだけだった。
 わたしは、高校の時から今に至るまで、人生の中でとても大事な時期をあなたから貰いました。何も言わないことで、中途半端な状態であなたを縛り付けていました。
 今更だとか照れくさいとか、わたしの無駄に高いプライドが邪魔でしたけれど、それも今日ばかりはやめます。言うべきことは言わなければなりません。それが、あなたがくれた時間に応えるということだと思うから。

 好きです。猿野。結婚してください。