カメレオン・アクター

「カメレオン・アクター」
 カイゼルの口から不意に投げられた言葉は、神経質なまでに整えられた部屋の中を舞った。
「何それ」
 それまで休ませることなく口を動かしていたジョーカーは首を傾げた。聞いたこともない単語だが、先ほどまで一方的に話していた内容とは縁のないものだろう。世界が滅ぶ様を見る為に干渉したがあえなく失敗に終わった話とカメレオンは結び付けようがない。
「ジョーカー君はいつでも笑顔で口数が多い」
 カイゼルは単語の意味を解説しようともせず、言葉を続ける。
「性格だから仕方ないじゃん」
「しかし、時に驚くほど冷徹な一面も見せる」
「それも僕の性格の一部だね」
 カイゼルが何を言いたいのか分からない。ジョーカーは内心で首を傾げつつも話を合わせる。
「それ以外にも、君にはいろいろな顔があるように思えます」
「愛しの両親から貰った顔にバリエーションなんてないよ」
「どれが本当のジョーカー君なんでしょうね?」
 カイゼルは挑むようにジョーカーの瞳を見据える。ジョーカーも目を逸らさずにカイゼルの表情を観察する。彼の顔にはただ一色――好奇心の色だけがある。
「どの表情も演技で、その仮面の下に顔など無いのでしょうか?」
「さあ」
「……カメレオンは周囲の環境に合わせて体色を変える。ジョーカー君は周囲の環境に合わせて表情を変える。君はカメレオンとよく似ています」
「それって褒めてるの?」
 褒めても貶してもいません、とカイゼルは薄く笑う。
「カメレオンには元々の体色がある。……そして、気が遠くなる程の年月を生きた『カメレオン』にも体色はあるのでしょうか? それとも、空っぽの透明になってしまいましたか?」
 カイゼルの挑戦的な声色に対し、ジョーカーは肩をすくめた。確かに長い年月を生きてきたが、自身が「透明」かどうかなんて分からない。
「昔の体色が分かる写真も、今の体色を知る鏡もないんだから、確かめようがないね」