悠久の英雄の名

 長い道のりを、ひたすら歩いてきた。彼が住んでいた星は既に遥か遠く、失ったものは数え切れない。今、彼に残されているのは、たった一人の部下と、星に残してきた娘といえる少女だけだった。
 眼前に広がる景色を見やる。生物の気配は一つもないが、ぴりぴりとした空気が辺りに充満している。進めば進むほどその空気は濃厚になり、最も空気が強い場所が彼が目指す場所だった。
「……もう、少しだな」
 そう呟いて一歩踏み出す。足に力が入らずに倒れそうになるが、傍を歩く一号が肩を貸してくれた。
「着く前に倒れないでくださいよ」
 にこりと笑う一号の体も満身創痍で、彼は少し罪悪感を覚えた。一号がいなければここまで来ることはできなかったが、何故一号はここまでして自分に付き合ってくれるのだ。
「……もうすぐ、終わりなんですね」
 一号は彼に対してではなく、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
「皆、いなくなっちゃいましたし」
「…………」
「いつか絶対来るものだと思ってましたけど、やっぱり辛いですね」
 皆、彼の為についてきてくれた。長い旅路を歩む間に少しずつ、彼らはいなくなっていった。喪失感は日ごとに重くなっていった。
 それでも、彼は振り返らずに進んだ。彼が生まれた意味はこのためにあるのだから。
「……私」
 一号が何かを言おうとした。
 その言葉を遮ったのは、空から降ってきた鋭い風の音だった。

 一号は咄嗟に彼を突き飛ばし、空から降ってきたそれを両腕で受け止めた。彼は突き飛ばされながらも、一号の両腕が氷に覆われる様子を見た。
「一号!」
「来ないでください!」
 彼が駆け寄ろうとするのを、一号の強い声が切り捨てた。凍った腕に顔をしかめるが、すぐに目線は目の前に移動する。
 そこには、一人の少年の姿があった。昔会った少年とよく似た、桃色の髪をしていた。
「……あなた方が、例の人達ですか」
 少年は感情のこもっていない口調で、彼と一号にではなく宙に言葉を投げた。その目も二人を、というよりその辺りの空間全体をぼんやりと見ているといった雰囲気がした。
「あなたは、どなたですか」
 一号が明らかな敵意をこめて少年を睨む。それに対して少年は敵意も何も無く、ただ一号がいる辺りの空間を見ていた。
「僕はカービィ」
 彼も一号も少し驚いた。何しろ、昔全く同じ名前の少年といざこざのようなものがあったからだ。
 二人の驚きをよそに、少年は淡々と言葉を続けた。
「世界のために、あなた方を殺します」