再会

 医務室の消毒液の臭いを嗅ぐのは久しぶりの事だった。生まれた直後、己の実力もよく分からないままに戦いに出て怪我を負った時以来だ。あの時はハチのサポートもあって軽傷で済んだが、今回はそうもいかなかった。
 ベッドから身を起こすと全身に鈍い痛みが走る。腕や足に巻かれた包帯は窮屈で鬱陶しく、麻酔の痺れが未だに体から抜けきっていない不快感が気分を害する。
「……畜生……」
 確実に勝つためにバリアを張って手加減なしで戦った。バリアさえあれば誰にでも勝てる。そう考えていたのだが、戦いの相手はよりによって唯一バリアを破れる能力――コピー能力の使い手だった。おまけに性格もふざけたものだった。
「わーお、服がいろいろ変わるんだね、ミラコレって感じ?」
 戦闘中にも関わらず呑気にこのような台詞を吐いたり、笑顔を浮かべたりする。戦闘中にそんな事をする馬鹿はハチぐらいだと思っていたから、動揺した。冷静に考えれば、これが一番大きな敗因だったかもしれない。
 動揺の原因は彼のふざけた性格だけではない。何故だか分からないが、彼を見た瞬間懐かしさと嬉しさがこみあげたからだ。全くの初対面のはずなのに、胸の内は涙を流しかねない程の感動が生まれていた。懐かしいと、久しぶりだと、言いたくてたまらなかった。
 彼の方も少し驚いた表情をしていたが、「似てるなあ」と一言言っただけで特に何の感慨もないようだった。その態度がまた、何故か動揺を煽った。
「似てるで済ますだなんて、きつい冗談ですね」
 自分の中の何かがそう言っていた。一連の訳の分からない現象に止めを刺すかのようなその声で、完全に平静さを失っていた。だから、負けた。
「なんだってんだよ……」
 いくら考えても分からない。苛立ちが募る。その苛立ちに身を任せてベッドから降り、全身の痛みを無視して医務室を後にした。
 頼りない足取りで当てもなく歩く。その間ずっと、カービィと名乗った桃色の髪の少年の顔が脳裏に浮かんでいた。理由もなく涙が一粒こぼれ落ちた。
「何で会いたいだなんて思うんだよ……!」
 もう一度会って、話をしたい。理解しがたいその思いをミラはねじ伏せ、涙を拭った。