アルケミストの手記
皇帝ノ月 六日
さて、筆を取ったは良いが、書き出しとはいつも迷うものである。一旦調子付けばいくらでも書けるものだが、調子付くまでが果てしなく長い。
何となく始めた日記であるが、この調子では三日も持たず飽きてしまう予感がする。まあそれはそれで良いか。気が向いたときにその日の出来事を走り書きする程度のものでいい。幸いにも今日は比較的気合が入っている。冒険を共にする面子のことぐらいは書いておこうと思う。
私はエトリアを拠点に活動する冒険者である。もちろん一人で迷宮を探索するような無茶はせず、私を含めて五人でギルドを組んで探索を行っている。
実力としては、そうだな、期待の新生と呼ばれている程度だ。第一階層の探索を終え、狼の親玉を仕留めたのが今日の事で、この日記は討伐記念の宴を終えて皆が寝静まった時分に書いている。
まずは私について。
私の名はルージュ。アルケミストと呼ばれる職に就いている。特技は術式であり、どの属性も満遍なく扱える。
ギルド「秘色」のリーダーであり、担当色はレッド。戦隊の花形らしく術式で派手に暴れるのが私の仕事だ。余談であるが秘色はヒショクではなくヒソクと読む。書面上で間違われる事が多く非常に遺憾である。ちょっと珍しい名前をつけるとこれだから困る。私をヒーロー扱いするならヒショクレッドではなくヒソクレッドだ。間違えてくれるな。
次……そうだな、色の順番的に妥当と思われる奴から言っていこう。
黄色を担当するのがフラウスという青年だ。パラディンとして前衛を務めている。彼の支援は未だ頼りない所があるが、いずれ強敵との戦いに欠かせない壁役となるだろう。
性格は一言で言えば助平丸出しのアホである。女人を見かければ胸元を凝視して鼻の下を伸ばし下心丸出しのアプローチをする。勿論そんな誘いに応じる女性はおらず、連戦連敗の童貞街道邁進中である。シリカ商店の娘を迷宮に連れていった時もアホ丸出しでエロいエロい言っていたものだから蹴り飛ばした。
酔えば私に対して「磨けば光るのに勿体無い」と絡んでくる事もある。余計なお世話だ。女性である事が疎ましくて仕方ない。出来る事ならこいつの男性たる象徴をもぎ取って移植したいものだ。
次、緑を担当するのがヴェルデという青年だ。フラウスの弟に当たる。
兄の尻拭いの為まともな常識を持ち合わせている……かと思いきやこいつもアホである。一見すると寡黙で根暗そうな奴だがフラウスに負けず劣らずのエロ野郎である。探索中はレンジャーとしての俊敏さ、勘の良さを遺憾なく発揮し危機管理に貢献しているのだが、エトリアにおいてはその俊敏さ、勘の良さを覗き見を始めとした不埒な行為に惜しみなく注いでいる。表面上は性に興味がないように振る舞い、その裏では決して気付かれない狡猾な猥褻行為に励む。フラウスがオープンな変態ならばヴェルデは陰湿な変態である。
いま、見計らったかのように彼が「おっぱいミサイル」と寝言を呟いたので記念にここにメモしておこう。
次、ピンクを担当するはフェンホンというブシドーの少女。
遠く離れた国の出身だからか言葉遣いはやや片言気味だが、根は善良な少女である。問題があるとすればやや自制心が弱く食に貪欲である所だろう。迷宮で見かけた怪しげな果物は率先して口に運び、舌鼓を打ったり吐き戻したりする。酒場での食糧消費量も相当なものであり、我々の生活費におけるエンゲル係数の半分くらいは彼女のものだろう。
当然の結果として、彼女はややふくよかである。キモノでそれをごまかしている節はあるが、迷宮にて泥に足を突っ込んで身動きが取れなくなった際のやりとりで彼女の体重は露見してしまった。気にしてはいるようだが、頑張った自分へのご褒美と称して肉料理を大量に頼む辺り彼女の自制心の弱さがよく分かる。
十分な食事に裏打ちされた膂力は前衛として十分なものであり、私としてはこのままで問題はないと思う。……流石に目に見えるほど贅肉がたぷたぷしてくれば何らかの対策は講じるが。肉禁止とか。
最後、五人目はニゲルという少女。ブラック担当で一番若い。
ヴェルデ以上に無口な奴で何を考えているのか未だによく分からない。カースメーカーとしての腕はそれなりのもので、魔物に対する呪いは有用。粗相をした金髪バカ兄弟への制裁も勝手にやってくれている。もしかしたらサディストなのかもしれない。
さる貴族の館で先人から譲り受けたグリモアのうち、最も回復術に長けたグリモアを装備しているのもニゲルである。それ故に彼女は支援の要であるのだが、前述のサディスト疑惑を思うと一抹の不安がある。
あと、運動神経が若干鈍くドジっ子の疑いもあり。熊と遭遇した時はすっ転んで顔面から地面に派手にぶつけていた。いずれにせよ、彼女の事はより深く観察する必要がある。
以上、五人揃って秘色レンジャーである。
メンバー紹介を書き連ねていたら眠くなってきた。もう寝る。
あ、でもその前に一つだけ。
酒場の連中に「戦隊とかガキかよ」と言われる事は多々ある。しかし、戦隊とは男のロマンであり男ならば必ず目指すものではないのだろうか? 戦隊カッコいいだろ。五人で力を合わせて魔物と戦うとか最高だろ。ガキの趣味とか笑う奴は何がかっこいいと思うのだ。
全く持ってよく分からん。私のロマンを理解しようとしない輩は全員服が燃え尽きたら良いのに。ねる。