集う使徒達

 アイオリスの都は世界樹の麓に位置する。天高くそびえる世界樹の威容は人々の信仰を集めるに足るものだ。
「……間近で見ると、圧倒されてしまうものだな」
 都を見下ろすことが出来る小高い丘の上で、アイギスは世界樹の姿に見惚れていた。燃えるような赤の長髪がそよ風に揺れ、傷一つない鎧は太陽の光に照らされる。
「流石は我らが神を擁する聖樹。心が安寧で満たされるようだ」
 サルヴェイはアイギスの隣に立ち、フードを少し持ち上げて世界樹を見上げた。フードの下から覗く肌と長髪は病的に白く、その瞳は血を透かした赤色だ。背負った棺は太陽の光を一身に浴び、サルヴェイ本人に暗い影を落とす。
 アイギスは隣に立つ男を一瞥し、小高い丘を下りて行く。
「改めて言っておく。樹海踏破にあたり、私は貴様の手を借りん。面倒を見るつもりもない。騒ぎを起こさず、静かに過ごしていろ」
 アイギスの言葉にサルヴェイは肩をすくめ、彼女に続いて丘を下りる。
「司教殿の好意を無碍にするつもりか?」
「私がこうして貴様をここまで連れてくるのが最大限の譲歩だ! 貴様のような異教徒の力を借りる気は毛頭ない!」
「異教徒ではない。我々はあくまで同じ神を崇め、神の教えに従って生きている同胞ではないか」
「死体を冒涜することが神の教えか? 貴様の経典は乱丁どころの騒ぎではないな」
「冒涜ではなく救いのつもりだがね」
 アイオリスの都に近付くにつれ、行商人や旅人と思しき者の姿が見受けられるようになってくる。アイギスとサルヴェイもまた、旅人と見られているのだろう。
「……まあいい。あなたがそう言うのなら、私はそれに従おう。何しろあなたは私の命を握っているお人だ」
「そうだな。貴様が何かやらかしたら、その時が猶予期間の終わりだ。即座に刑を執行する」
「気を付けることにするよ」
 アイギスとサルヴェイはアイオリスの都の門をくぐった。

 * * *

 アイオリスの都は良く整えられ、人の活気に満ちていた。七つの丘の都と呼ばれる中心部には、宿屋に市場、酒場にギルドと必要な施設が一通り揃っている。二人は人の流れに乗りながら街の地形を把握し、そして冒険者ギルドに足を踏み入れた。
「最近、この街の連中は忘れたようだ。冒険者が冒険者たる所以ってヤツを……」
 そう呟きながらも二人を出迎えたのは、エドガーと名乗る鎧姿の男だった。
「私の名はアイギス。ギルドの立ち上げ申請を行いたい」
「……そうか。世界樹は未知なる樹海。数多の試練が待ち受ける場だ。それに挑む覚悟はあるか?」
「なければここに来ない」
 アイギスの間髪を置かない回答にエドガーは満足げに頷いた。
「ならば、ギルド名を決めてもらおうか」
 エドガーから申請用紙を受け取り、アイギスはさらさらとギルド名を書き記す。自らの旅の目的、世界樹の踏破で何を為すかを考えればギルド名など自明の理だ。
 申請用紙に記されたギルド名を確認して、エドガーは説明を続ける。
「ミネルヴァの使徒よ。お前たちが樹海を踏破する為には仲間となる冒険者を集める必要がある。樹海の踏破にあたっては五名でのチーム編成を推奨している。……お前たちの場合は、あと三人だな」
「いや、四人だ。こいつの力には頼らない」
 アイギスが釘を刺し、サルヴェイは「だそうだ」と同調する。
「……五人での編成はあくまで推奨だ。少人数の探索は危険が多い。お前に覚悟があるのなら、お前が望む形で樹海に臨め」
 エドガーは申請用紙を回収し、代わりに一通の封書をアイギスに渡した。
「冒険者として認められるには、アルカディア評議会で課されるミッションをやり遂げる必要がある。まずは評議会でミッションの内容を聞き、それから冒険者を集めると良いだろう」
「承知した」
 エドガーに一礼を返し、二人は冒険者ギルドを後にした。

 アルカディア評議会の場所は七つ丘の都のすぐ近くだ。タウンクライヤーと呼ばれる男に道を聞けばすぐに分かった。
「私はこれから評議会へ向かう。貴様は私が言ったことに従って自由にしていろ」
「ボスがそういうのなら従うが、単独で樹海に挑むつもりか?」
「まさか。貴様と違って信頼に足る冒険者を集めるさ」
「そうか。まあ、せいぜい頑張ってくれ。もしあなたが死ぬようなことがあれば、私が救おう」
「それは勘弁願いたいな」
 アイギスはサルヴェイを鋭く睨みつけ、サルヴェイはフードをかぶり直して評議会とは逆の方向へと歩き出す。動向を把握し続ける必要はあるが、これで暫くはサルヴェイの顔を見なくて済むと思うと少し心が軽くなった。

「君は新しい冒険者だね?」
 評議会に訪れたアイギスを出迎えたのは、青髪の若い男だった。彼は名をレムスと名乗り、評議会の一員として働くアースランの王族だと自己紹介をした。
「ミネルヴァの使徒、アイギスだ。ミッションについて話を伺いたい」
「うん、じゃあ説明しよう」
 レムスは丸められた紙を持ってきてアイギスの前で広げて見せた。
「……白紙?」
「ミッションの内容は樹海の調査になる。この紙に樹海の地図を記しながら、世界樹の根の一部、それからとあるポイントの土壌を入手してきてほしい」
 入口をこことしたら土壌はこの辺りだ、とレムスは大雑把な位置を指した。
「地図書きと採取か。地味な作業だが、出来ないことはないだろう」
「このミッションは冒険者の適性を調べるものだ。落ち着けばクリアできるものだから、どうか気を付けて、無事に帰ってきてほしい。それと……」
 レムスはアイギスの様子を見ながら、小さく咳ばらいをした。
「君はどうやら一人のようだけど、仲間を集める伝手はあるのかな?」
「酒場にでも行って集めてみるつもりだ」
「うん、それがいい。そして酒場しか伝手がないのなら、これは一つの提案なのだけれど……」
 レムスはちりんちりんと呼び鈴を鳴らした。すると、奥の部屋から一人の男がおどおどとした様子で現れた。
 不健康そうな男だった。青い髪はある程度整えられているが、目の下の隈は濃く、サルヴェイのそれとは違う肌の白さが目立つ。そわそわと落ち着かない様子で、アイギスと目が合うと即座に視線を逸らした。
「彼はルキオン。元々は評議会の事務員だけど、事情があって辞めることになってしまってね」
「事情?」
「まあなんというか……趣味に没頭しすぎるきらいがあって。仕事にあまり打ちこめていなかったんだ」
「なるほど」
 ルキオンの方を見ると、彼は小声で「ごめんなさい」と呟いた。
「それで、彼の趣味というのは古代魔法の研究なんだ。古代魔法というのは、研究もいいけれど実戦で使う方が遥かに効率よく理解できる。だから、彼を冒険者として君のギルドに加えてみるのはどうだろう?」
「私のギルドにか」
 ルキオンは忙しなく視線を動かしているが、それがアイギスの視線と合うことはない。
「来るか?」
 アイギスの短い問いかけにルキオンは「へあっ」と声を漏らす。
「あ、あの、私は、そのっ。今まで事務仕事でして、樹海はその、足手まといに。あああでも古代魔法はですね、実戦で研究してみたいというか、好奇心はですね」
 わたわたと言葉を紡ぎだすルキオンを手で制した。
「身のこなしに自信はないが、古代魔法は使ってみたい。そういうことだな」
「あ、は、はい。そうです」
「ならば来い。私は盾の扱いに覚えがある。身のこなしに自信がないところは私が補おう」
 アイギスがすっと手を差し出すと、ルキオンは少し迷っていたものの、その手を握った。

 評議会を出て七つ丘の都に戻り、魔女の黄昏亭という酒場に入った。何軒かある酒場の中でそこを選んだのは、単にルキオンが良く足を運んでいるからだ。
「あら、いらっしゃい」
 褐色肌の女性がアイギスとルキオンを出迎える。
「あなたは新人の冒険者さんかしら? ここは魔女の黄昏亭で、私は店主のメリーナ。冒険者さん相手にいろいろな依頼を仲介している酒場よ」
 メリーナはアイギスにそう説明して、ルキオンの方を見て小首を傾げた。
「あなたが人を連れてくるなんて珍しいわね。道案内?」
「あ、いえ。えっと、その、私も冒険者をすることになりまして。それで」
「私のギルドの一員になってもらったというわけだ」
 二人の説明にメリーナは「なるほどねえ」と得心がいったように頷いた。
「それなら依頼じゃなくて、冒険者探しがお目当てかしら?」
「そうだな。我々に足りないところを埋められる者がいればいいのだが……」
「あなた達はドラグーンとウォーロックね。うーん、丁度いい二人はいるけれど……」
 メリーナの続きの言葉をかき消すように、酒場の扉が荒々しく蹴り開けられた。
「ハロー! 俺様の納品タイム、始まるぜ!」
「扉を蹴り開けない!」
 金髪の青年が店中に響き渡る声を出し、続いて入ってきた紫髪の老婆が青年の背中を蹴り飛ばした。
「ってぇ! 蹴り開けるのはダメで俺を蹴るのはアリかよ!?」
「メリーナ、いつも騒がせてすまないね。今日は獣肉と熟した蓮実が採れたよ」
「無視!?」
「ラージタさんがいると場が賑やかになるからいいのよ。デーヴァさん、今日もありがとう」
 メリーナはデーヴァと呼ばれた紫髪の老婆から麻袋を受け取り、代わりにいくらかの代金を支払う。そのついでといった雰囲気で「そういえばね」と言葉を続けた。
「そこの二人、新人の冒険者なの。あなた達と組めばお互い足りないところを補えると思うんだけれど、どうかしら?」
「二人?」
 金髪の青年ことラージタがセリアン特有の耳をぴくぴくと動かして、アイギスとルキオンの方を見た。
「私の名はアイギス。こちらはルキオン。ミネルヴァの使徒というギルドを先程立ち上げたばかりだ」
「確かにたった二人で樹海踏破を目指すのは無謀だねぇ。それで、アタシらと組もうってわけかい」
「えー。樹海踏破? マジで!? ババア、俺らも一緒にやろうぜ!」
「気軽に言うんじゃないよ!」
 デーヴァはラージタの頭を叩き、アイギスの顔を覗き込んだ。
「……いいかい。アタシらは樹海の一階と二階、魔物が少ないルートを通って毎日狩りをして採集をしてる。簡単だけど気を抜いたら魔物に襲われて死ぬ仕事だ。樹海を隅々まで踏破して行くというのなら、それとは比べ物にならない危険に晒されることになる」
「危険は承知の上だ」
「あんたがドラグーンだからと言って、全員の危機を守り通せるわけじゃない。多寡はあれど、全員が危険な目に遭っちまうんだ。あんたは、その青髪の子やラージタにそういうリスクを負わせてまでして、樹海を踏破したいのかい?」
「そうだ」
 デーヴァの眼光は鋭い。しかし、アイギスはそれを真正面から受け止め、同じ眼光を返した。
「ミネルヴァの使徒として、我が神の尊さを全世界に知らしめなければならない」
「…………」
 二人は暫く睨み合っていたが、デーヴァが気を抜いてふっと微笑みを浮かべた。
「分かったよ。アタシらも協力しよう」
「ババア!」
 ぱっと顔を輝かせるラージタをよそに、デーヴァは「ただし」と人差し指を立てた。
「アンタのその志が折れたり、樹海を舐めて無茶するようならその時点でアタシとラージタは抜ける。それでいいね?」
「ああ」
 アイギスは右手を差し出し、デーヴァはそれに応えて握手を交わした。
「あっ俺も俺も! ウィーアーフレンズ! イェー!」
 ……ついでに、ラージタとも。

 * * *

 美しい場所だった。
 周囲は見慣れない植物にあふれており、ところどころでは澄んだ湧水が水たまりを作り、太陽の光をきらきらと反射する。アイオリスの都の喧騒とは程遠い空間であり、深く息を吸うと清浄な空気が肺を満たした。
 第一階層、鎮守の樹海の一階。全てはここから始まるのだ。
「……さて」
 アイギスは白紙の地図を広げた。レムスとのやり取りを思い出しながら、入り口にあたるポイントに印を書き込む。
「え、えっと、世界樹の根と、この辺りの土壌ですね。地図を書きながら探していけばいいんですよね」
「そうさね。やることはアタシの若い頃と同じだねぇ。まあ気を付けてたら死ぬこたぁないよ」
「若い頃?」
「昔はアタシも冒険者として樹海の踏破を目指してたんだよ。本当に昔の話だがね」
 樹海の景色は美しいが、似たような眺めが続いている。確かにこれは地図を書いていかないと迷ってしまうなとアイギスは納得した。デーヴァの話を聞きながら樹海を歩き、地図を書き進めて行く。

 少し開けた空間に辿り着く。左右に道が広がっており、左側の道の先には衛兵の姿が見えた。衛兵の傍には数羽の鶏がおり……そのうちの一羽がひょいひょいと広間までやってきてアイギス達の前を横切った。
「待てーっ!」
 そしてそれを追うように、緑色の髪を持つ小柄なブラニー族の少年……いや、声から判断するに少女がぱたぱたと駆けて行った。
 一人と一羽は右側の道の先へと駆けてゆく。樹海とは思えない平和な光景だった。

――が。

「ひゃあっ!?」
 がさりと草むらが揺れる音と、少女の短い悲鳴。
「……魔物だ!」
 ラージタはそう言って音のした方へ駆けてゆく。少し遅れてアイギスとデーヴァ、そしてルキオンが「お、置いてかないで、くださっ」と慌ててついて行った。

 少女は鶏を抱えており、どんぐりのような魔物がその周囲を取り囲んでいた。なんとなく愛嬌のある佇まいだが、その硬質の殻で体当たりをされるとそれなりの怪我を負うのは簡単に予想できる。
「ダンスタイムだ!」
 ラージタは刀を抜き、今にも少女に飛びかかりそうな魔物を刀で切りつけた。
 アイギスは銃を抜いて盾を構え、デーヴァも弓に矢をつがえる。魔物達は少女よりアイギス達を敵と認識したらしく、じりじりと間合いを測っていた。
「あれはお化けドングリだ。ちと数は多いが、そこまで強い相手じゃあない。気張らずに行くよ!」
「わーってるっつーの!」
「アンタに言ったんじゃないよ!」
 デーヴァはそう言いながらも矢を放ち、お化けドングリのうち一体に突き刺さる。突き刺さったところからひび割れが広がっているが活動を止めるには至らず、怒りをあらわにした様子でデーヴァに飛びかかった。
 それを横から弾き飛ばしたのはラージタの刀だ。突くように放たれた刃はデーヴァが作り出したひび割れに入り込み、お化けドングリの殻を完全に壊してしまう。硬質の殻の破片をばらまきながら、そのお化けドングリは動かなくなった。
 アイギスもまた飛びかかってきたお化けドングリを盾で弾き、間髪入れずに銃で追撃を加える。故国からは世界樹の踏破という偉大な目標と比べて随分と粗末な武具を支給されていたが、それでもこの程度の敵ならば十分に相手取れるようだ。
「え、えっと、あ、あ……こだ、古代魔術……」
 ルキオンだけは戦場の後方で何もできずにいた。呪文を唱えて皆のサポートをすべきなのだが、何を言えばいいのか分からない。
 そうこうしている間にも戦いは進み、一匹、また一匹とお化けドングリは動かなくなって行く。
「片づけるぞ!」
 アイギスの勇ましい声と共に銃弾が放たれ、最後の一匹を捕らえる。銃弾によって全身にひびの入ったお化けドングリはくるりと踵を返して逃げ出す……が。
「えっ?」
 その先には鶏を抱える少女がいた。お化けドングリは邪魔だと言わんばかりに体当たりを仕掛け――
「ファ、ファ、ファッ……ファイアボール!」
 ――その寸前で、お化けドングリの体が炎に包まれ、あっという間に燃え尽きた。
 辺りを見渡して警戒しても新たな魔物が来る気配はない。それを悟ったラージタがぐっと拳を高くつき上げる。
「完璧なハーモニーだったぜ!」
 それを契機に、緊迫していた空気が少しずつ緩んで行く。ルキオンはその場にへなへなと座り込んだ。
「……あああ、よかったあ……」
「良い動きだった」
 アイギスはへたり込むルキオンの肩をぽんぽんと叩き、それから鶏を抱える少女の方へと歩み寄った。
「怪我はないか?」
「はい、大丈夫です。私もこの子も」
 ありがとうございました、と少女は頭を下げる。
「あのう……怪我、しちゃいましたよね。手当てしますよ」
 そう言って少女は鶏を小脇に抱え、空いた片手で鞄を開ける。そこには治療用と思しきハーブが大量に詰まっていた。

 手当の間に互いに自己紹介をした。少女はエリトラと名乗り、普段はアイオリスの大市でハーブ屋を営む両親の手伝いをしているが、手が空いた時はここで樹海鶏の世話をしているのだと言う。
「お手伝いをしたら卵やお駄賃が貰えるんです。両親も私もセリクさんみたいに商売上手じゃないから、ちょっとでも手助けになれたらいいなって思って」
 エリトラは手際よく治療を施していく。治療用のハーブの扱いに長けているのは明らかで、ハーブ屋の娘は伊達ではない。
「……あのう、皆さんは冒険者なんですよね」
「そうだな」
「私を仲間に入れて下さいませんか?」
 エリトラはアイギスをじっと見上げる。その表情は真剣そのものだった。
「何故だ?」
「うちの店は商売下手で赤字続きなんです。こうして手伝いはしているんですが、それでも限界があって……。でも、冒険者になれば今より出来ることが増えますし、有名になればお客さんも増えるじゃないですか」
「金と名誉か」
「……そうです。怪我の手当ては得意ですし、皆さんのお役にたてると思いますが」
「良い話だと思うよ。今のメンツに加えて治療担当がいれば大体のバランスは整う」
 デーヴァの言葉にエリトラはぱっと顔を輝かせ、アイギスも頷いた。
「我々は今、冒険者として認められるためのミッションの最中だ。今から探索をしても問題ないか? もし難しければ、今日は一旦退いても良い」
「いえ、今からで大丈夫です! 冒険者になるって言ったら両親は心配するでしょうけど、説得します!」
「まーいけるって。なんなら俺が一緒に挨拶に行ってやろうか?」
「お前が挨拶に行ったら余計にこじれそうだ」
「ひでえ!」
 ラージタのツッコミを流しながら、アイギスは改めて集まったメンバーを眺めた。

 ドラグーンの自分、マスラオのラージタ、ハウンドのデーヴァ、ウォーロックのルキオン、ハーバリストのエリトラ。
 やや搦め手に欠けているが、それでも大抵の状況には対応できそうな布陣だ。
「我らがギルドの名はミネルヴァの使徒。神の威光を世に知らしめる為に樹海の完全踏破を目指している」
 この世界を創造し、今も天上から我々の繁栄を見守る存在。私達は神に感謝し、敬虔な気持ちを持ち続けなければならない。その為にアイギスは世界樹を攻略した英雄となり、改めて神の教えを説かなければならなかった。
「……だが、これは私の目的だ。諸君はそれぞれ別の理由があるだろう。もし、今は特に理由がなくとも、樹海の探索を経てそれぞれの目的を見出してほしい」
 アイギスの言葉にそれぞれが頷く。
「よろしく頼む」
 手のひらを下にしてすっと差し出すと、それにラージタが手を重ね合わせた。続いてデーヴァ、ルキオン、エリトラが手を重ねる。
 重ねた手の確かな温もりを胸に刻むと、この遥かな樹海をどこまでも登って行けそうな気がした。