救世の塔(ぐぜのとう)
このシナリオは「クトゥルフ神話TRPG(第6版)」に対応したシナリオです。
推奨人数 | 3~4人 |
---|---|
推奨技能 | 目星、図書館、隠れるまたは忍び歩き |
準推奨技能 | 精神分析、機械修理または電気修理、回避、投擲 |
戦闘有無 | あり(倒す必要はない) |
所要時間 | 約12~14時間(オンラインによるテキストセッション) |
複数回使用する機会がある、または生還やある程度の情報取得に必要な技能を「推奨技能」、1回は使用する機会がある、またはさらなる情報を得るために必要な技能を「準推奨技能」と区分しています。
なお、所用時間はテストプレイを行った際にかかった時間です。
KPもPLも茶番好きかつ慎重なプレイスタイルのため、進行の仕方によっては所用時間が前後します。あくまで目安程度でどうぞ。
記法
シナリオの見方をご確認ください。
Copyright
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright (C)1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION
01.あらすじ
ある日、探索者達は共通の知人である「小山 正弘(こやま まさひろ)」から連絡を受ける。
その内容は「刈海村(かりうみむら)という妙な廃村があるらしい。今度見に行ってみないか」というもの。
探索者達はその誘いを受けて、村民全員が行方不明になった謎の廃村「刈海村」を訪ねることとなる……。
02.索引
概要
01.あらすじ
02.索引
03.背景
04.導入
05.刈海村
06.接触
07.村長の家
08.クライマックス
09.エンディング
10.報酬
11.補足
12.利用規約・更新履歴
03.背景
シナリオ概要
一言で言えば廃村探索シナリオ。
探索者達は「刈海村」を探索し、廃村に潜む脅威に襲われ、変化していく己の身体に恐怖しながら解決策を求めて行くこととなる。
シナリオ上で直接的にロストになる確率は低めだが大きな正気度喪失が入るため、正気度の低い探索者はあまり推奨しない。
探索者はNPC「小山 正弘」と既知関係にある必要があるが、探索者同士が既知関係である必要はない。
互いに繋がりのない探索者であっても、小山は廃村探索メンバーとして全員を引き合わせるだろう。
また逆に、小山と面識はないが他の探索者と面識があり、その探索者に誘われて廃村探索に参加する形でもよい。
身体の分離・欠損描写、恐怖、人形、従者化
このシナリオには上記の要素が含まれているが、事前にPLに知らせるかどうかはKPの任意。
要素としての度合いが薄いもの、行動によっては発生しないものも存在するため、PLから相談があった場合はシナリオ本文を見て適宜対応すること。
また、これはシナリオ作者の主観で要素をリストアップしたものだ。ここにはないがPLに知らせたい要素があれば自由に付け加えて良い。
背景情報
今から遥か昔、惑星ムトゥーラに住まう神話生物「キーザ」が刈海村に顕現した。
ある時期の晴れた日のみという限られた条件下での顕現だったが、キーザを目の当たりにした村人が狂信者となり、自ら進んでキーザの肉体として結晶化する。
人間1人分というわずかな質量だが時期に左右されない肉体を得たキーザは、己の肉体を拡張すべく他の村人への接触を試みる。
しかし十数人の犠牲の末に村人はキーザの企みを見破り、キーザの肉体を破壊して、海に捨てた。
キーザの肉体の大部分は光の届かない海底に沈み、その機能を失った。
しかしその一部は海流に乗り、刈海村の地下に存在する大空洞に流れ着いた。
肉体の元となる人間が訪ねることのない場所で封印されたような形になるが、海底を反射し地下空洞まで届く太陽光を受け、かろうじて機能を維持し続けていた。
それから時は経ち、刈海村の村長の息子「堀田 信司(ほった しんじ)」は考古学者となるため都心の大学に通っていた。
彼は前々から刈海村の大空洞に興味を抱いており、演習の一環として大空洞の捜索を提案し、実行した。
海路での侵入は不可能だったが、調査の末に陸から大空洞に繋がる道を見つけ出す。
そしてその先で、堀田をはじめとした調査メンバーはキーザの破片と遭遇する。
キーザの破片に触れたメンバーが結晶化し、恐慌状態に陥る中、堀田だけはキーザの声を聞き、洗脳され従者と化した。
堀田はメンバー全員をキーザの破片に無理矢理触れさせることで結晶化させ、キーザの肉体として捧げた。
キーザの目的が「より大きな肉体を得てこの地球を覆い尽くすこと」と理解した堀田は、まずは村人達をキーザの肉体にすることを決断した。
堀田は村長の息子という立場を利用して村人全員を結晶化させ、キーザの肉体の一部とした。
以降、この村は「全員が行方不明となった廃村」として一部のオカルト好きの間で噂になり、その噂を聞きつけて小山と探索者達は刈海村を訪れることとなる。
刈海村(かりうみむら)
日本海側の沿岸部に位置する小さな村。
村民の数は少なく、また高齢者ばかりの限界集落だったが、いつの間にか村民全員が行方不明となっていた。
外部との交流も少なかったため、行方不明となった具体的な日時は不明。
NPC:キーザ
惑星ムトゥーラに住まう神話生物。
ある時期の晴れた日のみという限られた条件下で地球に顕現する。
本シナリオでは刈海村で顕現した際に村人を結晶化させ、それを肉体として活用している。
それに伴い、本シナリオのキーザは本来のキーザと比べて以下の差異がある。
・刈海村に存在するキーザは、結晶化した人間で作り上げた外部端末のようなもの
・時期の制約を受けず、地球に顕現し続けることが可能
・太陽光を浴びなければ活動できず、長期間太陽光から遮断されると無力化する
・肉体として使えるのは結晶化した人間のみ。他の生物や無機物では代用できない
・ヒトをかたどった人形を結晶で作り上げ、簡単な思考を持たせて自律移動させることができる
・肉体と思考の精度は低く、大抵は薄ら笑いを浮かべて歩き回る等身大フィギュアのようになる
(※堀田の思考を載せた人形は例外的に高い思考精度を持つ)
それ以外は本来のキーザと同様。ステータスや正気度喪失の減少量は変わらない。
NPC:堀田 信司(ほった しんじ)
刈海村の村長の息子。考古学者を目指す大学院生。
生まれつき感受性が強く、不思議な物事を見聞きした経験が多い。
元々は内向的で心根の良い青年だったが、その感受性の強さゆえにキーザの洗脳を受けて従者となる。
村人達を結晶化させていた頃は人間としての肉体を持っていたが、それが終わった後は堀田自身も結晶となりキーザにその身を捧げた。
「堀田の肉体」は結晶となり捧げられたが、「堀田の思考」はキーザの中に保持され続けた。
以降、刈海村に何者かが訪れる度にキーザは「堀田の思考」を載せた人形を作り、人形を通じて来訪者を自身の元に誘導し、吸収している。
探索者が遭遇するのも「堀田の思考を載せた人形」に過ぎず、会話は出来ても話し合いは不可能な存在。
NPC:小山 正弘(こやま まさひろ)
STR | 14 | CON | 11(9+2) | POW | 14 |
---|---|---|---|---|---|
DEX | 11 | APP | 10 | SIZ | 13 |
INT | 8(9-1) | EDU | 15 | 正気度 | 70 |
耐久 | 12 | MP | 14 | db | +1D4 |
技能 | |||||
アイデア(40) 幸運(70) 知識(75) 回避(22) 隠れる(40) 聞き耳(50) 芸術(ゴマすり)(95) 信用(30) 説得(50) 図書館(50) 値切り(80) 法律(25) 目星(50) 歴史(25) | |||||
特徴 | |||||
君は風邪を引かない(1-1):INT-1、CON+2 |
大学教授ベースで作成。
特徴を適用するかどうか、技能を振るかどうか、正気度喪失を行うかどうか等、全てKPの任意。
導入・同行NPC。22歳の大学4年生の男性。
非常に社交的でノリが軽い。年齢差を気にせず学外にも多数の知り合いを持つ。
来年には大学を卒業するため、その前の思い出作りの一環として刈海村の探索を計画した。
シナリオ内においては誘導や賑やかしの他、イベントの誘発を行う役回り。
裏情報のない一般人のため、KPがやりやすいように扱ってよい。
04.導入
小山が運転する車に乗って刈海村に向かう場面からスタートする。
自己紹介や近況についての雑談で和やかな雰囲気の中、小山は刈海村についての話をする。
「刈海村っていう村は、元々は爺さん婆さんしか住んでねえようなどこにでもあるような村だ」
「ほら、なんつーの。流行りの言葉で言えば限界集落? みたいな?」
「で、今から何か月か前。刈海村の住民が全員行方不明になってるってことが分かったわけ」
「外部との繋がりが薄かったからか、いつそうなったのかは誰も知らねえ。争ったような形跡もなく、住人だけが忽然と消えている」
「……どうだ? ワクワクするだろ? すんげえミステリーだよなー!」
「オレも来年からは社会人だしさ、今のうちにめいっぱい見たいものは見ようと思って刈海村を訪れる会を結成したってわけ」
小山の話を聞いた後、刈海村についてスマートフォン等を用いて〈図書館〉で調べることができる。
〈図書館〉
刈海村の住民が行方不明になる前の時期に絞って検索をすると、あるダイバーのブログを発見する。
ブログには以下の内容が書かれている。
刈海村についてのブログ
刈海村は断崖絶壁の海岸に位置する村です。
村そのものは特筆するところのない小さな村ですが、崖の下には半没状態の洞窟が広がっており、いわゆる青の洞窟になっている可能性があると界隈で少しだけ噂になっていました。
そこで実際に訪れてみたところ、海は常に荒れていて洞窟に入ることは不可能でした。
村人の話によると、海側から洞窟に入ることはできないが、陸地側から洞窟に入ることはできるらしい。
けれどもそれは昔の話で、今はもう洞窟への道がどこにあるか覚えている者はいないとのこと。
勿体ない話ですが、誰も使わない洞窟なんてそんなものなのかもしれませんね。
この情報を獲得した後、追加で〈知識〉を振ることができる。
〈知識〉
「青の洞窟」についての詳細を思い出す。
〈知識〉判定を行わず、RPでそれなりに説明した場合もこの情報は提示してよい。
「青の洞窟」について
「青の洞窟」とは世界各地に存在する洞窟の名称。
その多くは半没状態の海に面した洞窟で、太陽光線が海底に反射して海中を通過し、
海水の青さを照らして海面が青く輝くことからそう呼ばれている。
イタリアのカプリ島のものが有名で、日本でも恩納村や陸中海岸に存在する。
一連の処理が終わった辺りで刈海村に到着し、【05.刈海村】に移行する。
05.刈海村
「刈海村」と書かれた木製の立て看板の傍に車は停まる。
車から降りれば柔らかな日差しが探索者達に降り注ぎ、土と緑のにおいが鼻腔をくすぐった。
起伏の少ない地形に広がる枯れた田畑、木製の古い民家。
それらを縫うように土で固めただけの簡素な道が伸びている。
人影がないことを除けば、絵に描いたような田舎の景色が目の前に広がっていた。
車から降りて刈海村の探索を開始する。
刈海村の探索ポイントは【ワゴン車】【民家】【納屋】【食堂】【神社】【村長の家】の6か所。
探索にあたり、「ここにあってもおかしくない」と思える道具であれば、判定なしで見つけ、持ち出させて良い。
探索順は指定しないが、いずれか2か所の調査が終わった時点で【06.接触/イベント:感染】が発生する。
刈海村を出る場合
これ以降どのタイミングでも刈海村から帰ることは可能だが、小山は探索を続けたがり帰ることを渋るだろう。
〈言いくるめ〉〈説得〉で小山の意見を変えさせる、〈小山のSIZと探索者のSTRでの抵抗表ロール〉で無理矢理連れて行く、ノックアウト攻撃で気絶させる、などの手段を取れば小山と共に刈海村から帰ることができる。
そういった説得をしない場合、半ば喧嘩別れのような形で探索者は小山を残して刈海村を去る。
刈海村を去った場合、探索者たちは特に何事もなく日常に戻る。
【エンディング/ED1】に移行。場合によってはED2も追加する。
ワゴン車
村の入り口近く、探索者達が車を停めた場所の近くに停まっている青いワゴン車。
誰も乗っておらず、車の鍵はかかっていない。
車の中を調べると、後部座席に紙袋やビニール袋が雑然と積まれていることが分かる。
また、助手席には「○○大学映画サークル 定期発表会用作品」と書かれた手製の冊子があり、中身を見ると田舎の村を舞台にしたゾンビ映画の脚本と分かるだろう。
このワゴン車はどこかの大学の映画サークルのもの。
自主制作の映画撮影のために数日前に刈海村を訪ね、全員がキーザの手に落ちている。
後部座席に〈目星〉
雑然とした荷物の山から「活動記録」と書かれたノートを見つける。
XX月XX日
ロケ地は刈海村に決定。明日はメンバー全員バイトが入っていないので明日撮影。
機材と小道具の積み込みは済ませたので、帰宅後にルート確認でもしておく。
XX月XX日(※現在から数日前)
刈海村に到着。噂通りの田舎の廃村で、取りたい画の理想に近い。
さっき車で村を一通り回った時、窓ガラス越しに誰かがいたような気がするけど、
ホームレスでも住み着いているのだろうか。
有り得なくはないし、エキストラ役で協力してもらうのもアリ。
今日は日が暮れるまで撮れるだけ撮って、帰りにファミレスで次回撮影の日程調整をする。
〈アイデア〉で「数日前の日付で日帰りのような記述なのに、車がここに残っているのはおかしい」と気付く。
RPで気付いていればアイデアなしで違和感に気付いて良い。
民家
鍵が壊れて扉が開きっぱなしになっている民家。 家の中は取り立てて変わったところのない和風の一般家庭。
〈目星〉
居間の棚から町内会の冊子を発見する。
冊子の最初の方に名簿があるが、名前の部分は筆で取り消し線が引かれており、その横に日付と短い文言が書かれている。
町内会の名簿
木村 和夫 2019/02/18 脅迫
佐々木 進 2019/04/03 中傷
佐藤 清 2019/01/12 暴行
高橋 節子 2019/04/09 不敬
高橋 洋子 2019/05/05 寝坊
中村 勝利 2019/04/16 侵入
林 美代子 2019/04/27 欠席
堀田 弘信 2019/05/11 逃亡
渡辺 博 2019/03/20 窃盗
渡辺 恵子 2019/03/20 窃盗
名簿に対して〈アイデア〉
名簿を日付順に並び変えると以下のようになる。
佐藤 清 2019/01/12 暴行
木村 和夫 2019/02/18 脅迫
渡辺 博 2019/03/20 窃盗
渡辺 恵子 2019/03/20 窃盗
佐々木 進 2019/04/03 中傷
高橋 節子 2019/04/09 不敬
中村 勝利 2019/04/16 侵入
林 美代子 2019/04/27 欠席
高橋 洋子 2019/05/05 寝坊
堀田 弘信 2019/05/11 逃亡
日付の横に書かれている文言は最初は物騒なものだが、徐々に些細なことに変わっていることが察せられるだろう。
(日付情報はテストプレイ時のものをそのまま記載しているが、プレイ日時の2~3か月前程度になるよう記載を修正すること)
納屋
農作業用の機械や小物、雑多なゴミが雑然と積まれている。
〈目星〉で周囲を探すほか、〈STR*5〉で機械を動かして奥の方に行くことができる。
〈目星〉
作物の出荷量を書き留めたノートを見つける。
大半は出荷日と品目と数量を書いただけのものだが、最後のページには以下のような内容が書かれている。
ノートの内容
★大まかな流れ
・進の通帳を盗んだのは恵子。恵子が自分に罪を着せようと鞄の中に進の通帳を入れた
・恵子が自分の鞄の中に通帳を入れたところを洋子が目撃している。これは間違いのないことだ
・自分は盗みなどしておらず、清廉潔白である。罪人は恵子であり、裁定は恵子にのみ下されるべき
上記の主張をし、洋子の証言で補強することで、全ての罪を恵子に背負わせる。
※裁定後、洋子には5万円を渡す。誰にも見られてはならない。
窃盗の罪を逃れたのに買収の罪で裁定を受けては本末転倒だ。
村民である渡辺博が、夫婦で行った窃盗の罪を妻である恵子に全てなすりつけるための脚本。
協力者として高橋洋子を買収しており、彼女が偽の証言をして恵子に罪を着せる流れだった。
実際のところ、怖気づいた洋子は偽の証言をせず渡辺博を告発し、渡辺博と恵子は窃盗の罪で裁定を受けた。
高橋洋子はその後、別件で裁定を受けている(民家のリスト参照)。
〈STR*5〉
納屋の奥の方に比較的新しい非常用の持ち運び発電機を見つける。
現在は燃料であるガソリンが入っていないため動かず、給油の方法も一見しただけでは分からない。
非常用発電機に〈機械修理または電気修理〉
発電機の構造を理解し、他の農作業用の機械からガソリンを移し替えて起動できるようになる。
やや重いが持ち運びも可能なため、納屋から持ち出せる。
発電機そのものに情報はなく、【食堂】のテレビを動かすためのツールとして扱う。
それ以外に動かしたい電化製品があれば1~2個は動かしてもよい。
食堂
古い木造の食堂。風雨の影響で看板の文字は読めず、ガラス戸は割れている。
中に入ると木製の四人掛けテーブルが並び、奥の厨房に沿うようにカウンター席がいくつか設置されている。
天井近くの角にはブラウン管でビデオ再生機能が付いた小さなテレビが置かれているが、そこには何も映っていない。
食堂部分はこれといって目立つものはなく、厨房を探すと調理器具を保管している棚の奥の方にビデオがあることに気付く(これは技能不要)。
ブラウン管テレビでビデオを再生を試みても、テレビに電源が入らず確認することはできない。
【納屋】で非常用発電機を見つけて使用可能な状態にし、テレビに繋げることでビデオの内容を確認できる。
非常用発電機をテレビに使う
ビデオの内容を確認することができる。どうやらビデオレターのようで、老人の姿が映る。
ビデオレター
――ああ、もう映っているかな。
このビデオを誰かが見ているということは、もう私は裁定を受けてしまったのでしょう。
私の名前は中村勝利(なかむら かつとし)。この食堂を切り盛りしています。
時間も惜しいですし、単刀直入に言いましょう。
刈海村はもう終わりです。
坊ちゃんが発掘作業から帰ってきてから、全てが変わってしまいました。
村人は互いに悪事を行っていないか相互監視を行い、定例会で1人を吊るし上げて裁定を受けさせる。
誰も悪事を行っていなければ、些末なことをあげつらって大悪人のように仕立て上げる。
それを、坊ちゃんではなく我々が、我々の意思で行っているのです。
もし刈海村にもう誰の姿もないのなら、それは、そういうことです。
全員が裁定を受けた。全員が裁きの後に救われた。全員が神となった。
……このビデオを見たからといって、あなたが何かをする必要はありません。
私は私として生きていた頃のことを、こうして誰かに話す体で残したかった。
それだけのことなのです。私のわがままに巻き込んでしまい、申し訳ない。
では、そろそろ録画を終わりにします。
あまり長々と話して誰かに見つかると、どんな罪に仕立て上げられるか分かったものではありませんから。
神社
雑草が生え荒れ放題になっている小さな神社。
入口の辺りには「岩神神社(いわがみじんじゃ)」と書かれた石柱が建っている。
神社を捜索すると、技能ロールなしで革の手帳を見つける。
中身を見る限り警察関係者のようだが、名前や所属など詳しいことは書かれていない。
神社の中は特に乱れた様子もなく、埃だけがうっすらと積もっている。
拝殿に入ると祈祷のための空間が広がっており、拝殿の入口傍には小さな本棚がある。
本棚には古い本が詰め込まれているが、どれもが難解あるいは難読であり、一目見るだけでは本の概要を理解することすら難しいだろう。
革の手帳を読む
傷口からの結晶化は日毎に進行している。
今日は試験的にこの神社に身を潜め、全体の進行は前日より遅くなっていることと、急ごしらえの暗所に入れ続けていた箇所は少しだけ進行が戻っていることを確認。
記録を見る限り、晴れた日の日中にしか「裁定」が行われていないことからもしやと思ったが、やはりこの村にいる「何か」とそれがもたらす現象は、日光の下で活発になるようだ。
……ここで身を潜めて日光を避け続けても、ほんの気休めにしかならない。
結晶化の進行を止めて安全にこの村を脱するには、「何か」を破壊あるいは無力化させる必要がある。
問題は「何か」がどこにいるかだが……やはり固く閉ざされたあの家だろうか。
体調を鑑みると気は進まないが、行くしかない。
手帳は刈海村の調査に来た刑事のもの。
以前「刈海村の住民がいない」と通報を受けて調査を行ったことがあり、その時に感じた不穏な気配を上層部に報告したが、上層部は問題なしと判断した。
その判断に不満を持った刑事が、異変の証拠を掴むために休暇を利用して刈海村を再訪し、キーザの使者からの接触を受けた。
この文章を書いた時点で結晶化から数日が経過しており、調査の末にキーザの元までたどり着くが、キーザの攻撃を受けて完全に結晶化して吸収された。
拝殿の本棚に〈図書館〉
岩神神社で祀っているものについて書かれた紐綴じの冊子を見つける。
毛筆で書かれており読み解くのは困難だったが、ざっくりと以下のような内容だと把握できる。
紐綴じの冊子
その昔、刈海村には「岩神様」と呼ばれるものがいた。
岩神様は巨大な水晶の塔のような姿をしており、晴れた日に姿を見せていた。
その美しい外見は人々を魅了し、多くの者が岩神様に魅せられて行方知れずとなった。
事態を重く見た有志によって岩神様は討伐され、その亡骸は海に沈められた。
岩神様、岩神様に魅せられて行方知れずとなった者、討伐の際に犠牲になった者。
彼らの鎮魂のため、岩神神社は建立され、現在も祈りを捧げている。
村長の家
村の奥の方に位置する最も大きな家。木造の古い家屋だが、他の家よりもしっかりとした造り。
扉は施錠されており、窓には結晶がびっしりと生えていて侵入は不可能。
もし結晶を砕いて侵入しようとしても、結晶で手元を切って進行度が1増加するだけで砕くことはできない。
家は切り立った崖のギリギリに建てられており、家の裏手に回ることもできない。
村長の家に入ることができるのは【06.接触/イベント:堀田の接触】後。
一応〈鍵開け〉で入ることも可能。その場合は【07.村長の家】に移って進行してよい。
【06.接触/イベント:感染】【06.接触/イベント:堀田の接触】が発生する前に【村長の家】に移った場合、彼らが家の中に侵入してくる、あるいは元々家の中にいたという形でイベントを起こすことを推奨する。
06.接触
刈海村を訪れた探索者を捕らえるため、キーザは結晶人形を生み出して村のあちこちに遣わせる。
刈海村にいる限り、結晶人形との接触は不可避のものとなるだろう。
イベント:感染
【05.刈海村】の探索ポイントを2か所調べ終えた時点で発生。
物陰から足音がして、一人の女性を模した結晶人形が姿を現す。
じゃり、と小石を踏みしめる音がする。
音のした方を向くと、そこには黒く長い髪を持つ女性の姿があった。
……いや、女性と形容するには、その出で立ちは異様だった。
風になびかない硬質の髪。
一歩踏み出す度にバランスを崩しそうになる危うげな足取り。
どれだけ体を動かしても変わらない服の皺。
張り付いたような笑顔。
身体も髪も服も、全てが硬質の素材で構成された人形のようであった。
★正気度喪失【1/1D3】
小山は結晶人形に近づいて話しかけることを試みるが、結晶人形は小山の腕を掴んで強引にどこかに連れて行こうとする。
小山はそれに抵抗し、結晶人形の腕はもげてそこからひび割れが広がり、結晶の塊となって瓦解する。
この時小山は結晶の破片で負傷する。また、小山の抵抗に加担した探索者がいれば同様に負傷するだろう。
傷口を見ると血が結晶化することで出血が収まり、結晶化した箇所が少し動かしづらくなったことが分かる。
結晶化を経験した探索者および目撃した探索者は【1/1D6】の正気度喪失。
以降、この状態を「進行度1」とし、小山と探索者達の全員個別で進行度を管理していく。
(進行度の存在自体はPLに明かして良い)
結晶人形のRPについて
結晶人形の知能は低く、探索者の言葉を理解することができない。
「己の身体を砕いて人間を傷つけ、己と近しい存在にしろ」というキーザの命令に従って動いている。
そのため探索者を発見すると接触と自壊を図り、意思疎通を行う意思も能力も持ち合わせていない。
結晶人形であることは多幸感をもたらすのか、結晶人形は絶えず「うふふ」と笑い声をあげている。
RPとしては「穏やかに笑いながら接触を図ってくる、意思疎通ができない人間によく似た何か」といった不気味さが演出できれば良い。
進行度について
【イベント:感染】後、探索者はしばしば結晶人形と遭遇することになる。
〈隠れる〉でやり過ごす、または〈忍び歩き〉で気付かれないように移動することで人形から逃れることができる。
探索者のうち誰か1人が上記の判定に成功すれば、1D<小山を含めた未逃走者の数>を振り、その出目に応じた人数も適切に誘導して逃げたことにして良い。誰を誘導するかは技能成功者の任意。
(例えばPL4人で1人が技能に成功した場合、未逃走者は探索者3人+小山で4人のため1D4を振り、その出目に応じた人数も逃走成功とする)
全員が判定を終えた(または判定せず終えた)後、未逃走者がいる場合、結晶人形は未逃走者に気付いて接近。
結晶人形は未逃走者の抵抗や結晶人形自身の無理な走行で瓦解し、結晶片をまき散らす。
〈回避〉に失敗した探索者は結晶片で負傷し進行度が1段階進む。
進行度は5段階まで存在し、進行度による症状の変化は以下の通り。
1 | 傷口の周囲が少し動かしづらくなる。 |
---|---|
2 | 傷口を中心に結晶が数cmの範囲で広がる。動かしづらい範囲もそれだけ広がる。 |
3 | 体温が非常に低くなる。【1/1D4】の正気度喪失。 |
4 | 満たされた気分になり、気を抜くと笑みがこぼれそうになる。 |
5 | 身体全体が硬質化する。耐久の最大値が2になる。【1/1D10】の正気度喪失。 |
人形からの逃走方法は〈隠れる〉〈忍び歩き〉に限定せず、状況に応じて他の判定を要求してもよい。
〈DEX*5〉で結晶人形から逃げ切る、〈投擲〉で遠くから何かをぶつけて無力化するなど。
この辺りは探索者の技能と状況を見たり、PLの提案に応じて臨機応変に対応する。
進行度に応じたペナルティは進行度5の耐久値減少以外は特に設定しないが、KPの好みで設定してもよい。
進行度5の耐久値減少は、現在の耐久がいくつだろうと強制的に耐久2にする。
耐久2以下になったことによる意識不明は発生せず、耐久1になってもショックロールや意識不明は発生しない。
耐久0になった時点でその探索者の身体は結晶人形のように砕け散り、死からの生還は不可能となる。
進行度5の状態でさらに進行度が深まると、その探索者は完全にキーザの従僕となりロストする。
キーザの従僕となった探索者は、他の探索者の呼びかけには一切応じずキーザの元に向かうだろう。
この時点でその探索者の意思は殺されキーザの操り人形と化しているため、何をしてもその探索者の意思が復活することはない。
その探索者をキーザに吸収させないまま事態を解決したとしても、そこには人形のように硬い遺体が残るのみ。
イベント:堀田信司の接触
刈海村の探索ポイント全て(村長の家は除いて良い)を調べ終わった辺りで堀田信司が姿を現す。
笑顔を浮かべて探索者に話しかけるが、動きがぎこちなくやはり不自然。
堀田は探索者を歓迎し、「この村は楽土の入り口である」といったことを話す。
探索者から問われれば村がこうなった経緯などある程度の背景情報も話す。
堀田のRPについて
これも堀田を模しただけの結晶人形ではあるが、例外的に「堀田信司」の思考が搭載されているため、探索者との会話が可能。
とはいえ互いの言葉が通じるだけで、堀田の意思や行動を変えることはできない。
言動は基本的にキーザの信者。結晶人形となってキーザの一部になり、キーザのために働くことが至上の幸福と考えている。
しかし「キーザ」という名称は知らないためキーザのことは「我が神」と呼び、キーザがいる場所を「楽土」と表現する。
かつて村で起きたことやキーザと接触した経緯などは聞かれれば話すが、キーザの名前や由来、弱点は知らないため答えることはない。
話すことがなくなれば、堀田は「楽土に行く手助けをする」と言って懐に隠し持っていた小さな爆薬を爆破させる。
爆風と共に飛散する結晶片は不可避のものであり、探索者全員及び小山は進行度が1段階進む。
堀田と話さず取り押さえようとした場合も、堀田は即座にその動きを察知して爆薬を爆破させるだろう。
残骸を調べると【古びた鍵】を入手。また、堀田の残骸には〈アイデア〉が可能。
〈アイデア〉
今までの結晶人形が砕けた時と比べると、破片の飛散の仕方が明らかに異なっている。
残骸をさらに注意深く調べると何らかの爆薬が使われた痕跡を見つけ、「探索者達を結晶片で確実に傷つけるために、堀田は自らの身体を爆破した」と察するだろう。
07.村長の家
【05.刈海村/村長の家】にある通り、扉は施錠されており、窓も結晶で塞がれている。
【06.接触/イベント:堀田の接触】で入手した【古びた鍵】を使用することで扉を開け、家に入ることが可能になる。
閉ざされていた引き戸を開け、玄関を通り抜けた先には居間が広がっていた。
まず目を引いたのは部屋の中央に並べられた椅子と、その椅子と向かい合うように設置された祭壇。
祭壇はそれほど豪華な飾りはなく、飾られた花は茶色に枯れている。
祭壇の中央には大きな結晶が鎮座し、結晶が放つ光は部屋全体をほのかに照らしていた。
居間の右手側には台所が、左手側には襖で閉ざされた部屋があった。
また、入口の傍には2階に繋がる階段があるが薄暗く、階段の先に何があるか知ることはできなかった。
1階、2階ともに結晶片が各所に散らばっており、それが明かりを放っているため視界に困ることはない。
ただし結晶片に触れた場合は〈幸運〉をロールし、失敗すると結晶片で傷ついて進行度が1段階進む。
なお、【1F居間】を離れた時点で結晶人形が入ってくるようになる。
一軒家という閉ざされた空間のため、結晶人形との遭遇頻度・判定の難易度は高めにしても良い。
またはもともと家の中に潜んでいて、トラップのように遭遇させても良い。
調査:1F居間
村長の家に入って最初に訪れる場所。
集会のためのスペースが大半であり、堀田家の生活スペースは片隅に追いやられている。
ここから【1F客間】【1F台所】につながる他、2階への階段を上ることで【2F堀田の部屋】【2F両親の部屋】にも行くことができる。
祭壇に〈目星〉
祭壇はよく見ると粗雑な造りで、急ごしらえで作られたものと分かる。
結晶の陰で分かりづらい位置に引き出しがあり、中にはノートが入っている。
ノートを確認すると日付と人の名前が書かれており、不定期に会合のようなものが行われ、参加人数は日毎に減っていることが分かる。
調査:1F台所
昔ながらの古くて小さな台所だ。
収納スペースには鍋やフライパンが綺麗に収められ、食器棚には大きさや用途別に食器が並んでいる。
住人の几帳面な性格が窺われる一方、皿には埃がうっすらと積もっており、それなりの間使われていないことも察せられた。
一般的な台所。電気は通っておらず、冷蔵庫の中身は腐ってしまっている。
〈目星〉
収納スペースからレシピ本を発見し、その隅に小さく文章が記載されていることに気付く。
レシピ本の文章
もう嫌だ。
恵子さんも節子さんも死んでしまって、皆の目も変わってしまった。
誰も互いを信じていない。私自身も、誰かを信じることが出来なくなった。
息が詰まる。
信司が怖い。
あの子が何を考えているのか分からない。
発掘作業から一人で帰ってきてから、本当に人が変わってしまった。
怖い。
調査:1F客間
襖を開けると、そこには無秩序な空間が広がっていた。
ボストンバッグにリュックサック、着替えや日用品が散乱し、部屋の奥の方にある本の山は辿り着くこと自体に苦労しそうだった。
それ以外に目に付くものと言えば、部屋の入口傍に置かれているトランクケースくらいだ。
大空洞の調査チームが寝泊まりしていた部屋。
全員が大雑把な気質だったため、部屋は非常に散らかっている。
【本の山】と【トランクケース】が調査可能。
トランクケースを調査
技能ロールなしで情報を入手できる。
ハードタイプの頑丈なスーツケース。鍵はかかっておらず、簡単に開けることができる。
中には様々なサイズの【筒状の爆薬】と説明書が入っている。
【筒状の爆薬】は本来なら〈電気修理〉で判定を行うが、説明書を読んでいれば〈知識〉または〈DEX*5〉での判定も可とする。
また、【筒状の爆薬】は既にいくらか持ち去られた形跡があり、何者かが使っている、あるいは使っていたと察せられるだろう。
なお、この【筒状の爆薬】は生還に必須のアイテムである。
探索者がこれを持ち出そうとしない場合、小山に爆薬の持ち出しを提案させることを推奨する。
元々は調査チームが作業用に用意していたもの。臨機応変に対応するため様々なサイズの爆薬が用意された。
堀田が自爆に用いたのもこの爆弾で、自分1人だけが爆破の衝撃を受けるよう小型のものを用いていた。
これ以降の処理の仕様上、爆薬のダメージロールは必須ではない。
しかし演出の一環として用いる場合、爆薬の大小を問わず1つにつき4d6のダメージロールとする。
本の山に〈図書館〉
技能に失敗しても、本のタイトルやノートの表紙から「ここにいたのはとある大学の考古学チーム」ということは分かる。
技能成功でさらに以下の情報を読み取る。
本の山から読み取れる情報
・堀田は大学の考古学チームの一員
・堀田の提案で刈海村の地下に広がる大空洞の調査に来た
・波が荒く洞窟内の海抜も低いため海路での侵入は不可能
・陸路からの入り口は失われて久しいが、目星をつけて地下に潜り、爆破を行えば大空洞に繋がる可能性がある
・堀田家付近から地下に潜ることが出来ればベスト>
調査:2F堀田の部屋
襖を開けた先には、本の部屋があった。
机と就寝スペース以外は本棚や本の山で埋められていて、古い紙のにおいが鼻孔をくすぐる。
日用品の類は少なく、寝泊まりと読書にしか使われていない、そう感じられた。
堀田の私室。
大学に進学してからは使われていなかったが、発掘作業のために帰ってきてからは改めて私室として使われている。
本棚には高校用の教科書や参考書、辞書の他、ハードカバーのものから文庫本まで多様な本がジャンル別に整理されている。
勉強用のノートや週刊の少年漫画雑誌も並べられており、学生らしさが感じられる本棚になっている。
蔵書のほぼ全てが高校時代の頃のもので、雑誌の刊行年を確認すると数年前であると分かる。
本棚に〈図書館〉
勉強用のノートの中から「刈海村大空洞調査」と書かれたノートを発見する。
日付は今から数か月前で、刈海村に存在する大空洞を捜索することや、参加メンバー、必要物資、調査の経過や聞き取り調査メモなどが細かく記載されている。
しかし、あるページから日付と人名、残り人数の記載が淡々と続くようになっており、残り人数が0となった日の次のページには以下のような記載がある。
ノートの最後のページ
村人全員の同化が完了した。
私の役割も終了し、神の御許に向かう時が来た。
私の存在意義を考えると、こうして文章を残す意味はないのだが、「堀田信司」という個に少々の未練があった。
私という人間がここにいたことを、ここに刻んでおく。
さようなら。
調査:2F両親の部屋
襖を開けた先には、布団を広げたままの部屋があった。
一組の布団が部屋の片隅に敷かれており、もう一組の布団はその隣で畳まれていた。
タンスや収納棚など日用品があり、よく片付いた部屋だが、それだけに布団の傍にある大きなリュックサックと懐中電灯だけが不自然に見えた。
堀田の両親の私室。堀田の父が「裁定」を受けてからは母だけがこの部屋を使っていた。
大きなリュックサックと懐中電灯を調べる
リュックの中でもかなり大きなもの。
中には懐中電灯が入っているほか、ごく小さな結晶のかけらがいくつか入っている。
また、リュックの内側には無数の小さな傷がついているように見えるだろう。
〈アイデア〉成功で「無数の小さな傷は結晶のかけらでできたもので、このリュックいっぱいに結晶を詰めて運搬していたのではないか。そしてリュックの大きさからして、人間くらいの重さの水晶は砕いて形を調整すれば入りそうだ」と分かる。
複数人が〈アイデア〉を実行したり、〈アイデア〉の出目が良かった場合は上記の情報に加えて「人間が結晶に変化する現象や争った形跡のない村の様子を考えてみると、あちこちの記録にあった"裁定"は人間が結晶に変化することであり、"裁定"を受けた人間をこのリュックを用いてどこかに運んでいたのではないか?」ということに気付く。
リュックと懐中電灯は裁定を受けて結晶化した人を大空洞まで運搬するためのもの。
堀田は両親にキーザの素晴らしさを伝えるために両親を運搬役に任命し、キーザと接触する機会を作っていた。
しかし洗脳には失敗し父は逃亡を試み失敗して裁定を受け、母は生き残り続けたが最後の1人になり裁定を受け、堀田の手でキーザと同化した。
イベント:古井戸の発見
2階の調査が完了した時点で発生。
小山が部屋を漁り、倒れるなどして壁際にあった棚に勢いよくぶつかってしまう。
その際に壁ではなく違うものにぶつかるような音がし、棚をずらすことでそこに窓があったことに気付く。
窓からは家の内庭が見え、そこには古井戸がぽつんと存在し、1階の祭壇の裏辺りに中庭に繋がる通用口があることが分かるだろう。
改めて祭壇を調べるとストッパーのようなものがあり、それを外して動かせば内庭に出る扉が見つかる。
鍵はかかっておらず、扉から内庭に移ると古井戸しかないことが分かる。
古井戸の蓋はずらされており、縄梯子がかけられている。
縄梯子を使って古井戸を下りると【08.クライマックス】へ移行する。
08.クライマックス
古井戸の底はじめじめと湿っており、一人が通れるほどの幅の横穴が空いている。
横穴は洞窟に繋がっているようで、曲がりくねった道が続いている。
洞窟の地面には結晶の破片が散乱しており、それらが淡い輝きを放っているためある程度の視界は保たれる。
調査:洞窟
洞窟内は一人が通れるほどの幅の道が延々と続いており、地面の傾きから少しずつ地下に潜っていると分かるだろう。
進むにつれて道の幅は2人が並んで歩ける程度まで広がり、踏めば壊れる程度の脆い結晶が生えはじめ、ところどころに小さな結晶片の山が出来ている。
結晶片の山に〈目星〉
結晶片の山の中にビデオカメラが埋もれているのを見つける。
ビデオカメラを素手で回収する場合、回収者は〈幸運〉を振る。
失敗すると結晶片で手を傷つけて進行度が1段階進む。
〈幸運〉に成功したり、軍手をつける、道具を使う、足で結晶片を払うなど行えば進行度は増加しない。
ビデオカメラの録画映像を確認すると、最初は自主製作の映画撮影のような映像が流れる。
しかし途中から結晶化しはじめた腕や「うふふ」という声から逃げる映像など、探索者と同じ怪異に巻き込まれている映像が流れだす。
怪異に巻き込まれてからの映像は途切れ途切れだが、録画映像の残り時間が数分になったところで探索者がいる場所と同じ場所を映し出す。
誰の姿も映っていないが、誰かの荒い呼吸音が聞こえる。
はぁっ……はぁっ……くそっ。
なんなんだ……なんなんだよあれは!
遠藤も、吉川も、井上も……!
あんなの、三脚なんかじゃどうしようも……
……ぅう……嫌だ、嫌だよぉ……
あんなのになりたくない……嫌だ……許してください……
…………。
…………。
…………。
……うふふっ。
硬質なものが壊れるような音がして、ビデオカメラの映像は途切れる。
ビデオカメラの主はどこかの大学の映画サークルのカメラマン。ワゴン車に乗っていたグループの一員。
結晶人形から逃げながら洞窟の最深部まで辿り着くがキーザの姿を見て逃げ出し、
この場所で現実逃避をしている間に結晶化が進行してキーザの従僕と化した。
イベント:最深部に潜むもの
さらに洞窟を進むと地面だけでなく壁や天井からも結晶が生え、その密度が増してくる。
地面も壁も天井も全てが結晶で覆われた辺りで通路の終わりが見えてくるが、そこを塞ぐように人影が立っている。
通路の向こう側は青い光で照らされており、塞ぐ人物は逆光で顔が見えづらいが堀田だと分かるだろう。
堀田は最初に探索者達と接触した時と変わらない様子で語りかけ、洞窟の最深部へ誘って行く。
「よくぞここまでいらして下さいました」
「我らが神は喜ばれております。我らが神は等しく救いの手を差し伸べております」
「救世の光は我らを照らし、救世の塔は我らを迎え入れます」
「あなた方に救いを! あなた方に裁定を!」
ぴしり、と鋭い音が辺りに響く。
堀田の全身に一瞬にしてひびが入り、歪み、音を立てて瓦解する。
視界が開き、通路の先にあるもの――大空洞があなた達の視界に映る。
円形の空間は青い光で照らされ、地面には背の低い結晶がびっしりと生えていた。
結晶を浸す程度の海水が一面を覆っており、瓦解した結晶が水面を揺らす。
そして……空間の中心には塔があった。
大空洞の天井に届かんばかりの巨大な塔は、全てが結晶で構成されていた。
ところどころが曲がり、無秩序な突起を生やした歪な塔の造形を、あなた達は目の当たりにする。
突起に見えたのは人間の頭部。人間の腕。人間の脚。
結晶で出来た人間は、塔として渾然一体となりながらも、誰もが穏やかな笑顔を浮かべていた。
地面に生えていた結晶が隆起する。
それは結晶で構成された触手のようにうねり、あなた達の動向を探るように動く。
おぞましい。美しい。混沌。救い。絶望。笑顔。
人間の尊厳など一顧だにしない冒涜の塔は、あなた達を明確に認知していた。
★正気度喪失【1D8/5D10】
正気度喪失後、キーザは探索者達を結晶とすべく触肢を伸ばしてくる。
小山は恐怖のあまりこの場から逃走し、この場から離脱するだろう。
その後キーザとの戦闘に移行するが、その前に探索者全員が〈目星〉をロールする。
小山がここで離脱するのは、キーザ戦で小山が死亡する事態を避け、探索者のみの力で乗り越えることが望ましいため。
刈海村まで車を運転してきたのは小山であり、小山が死ぬと少なからず面倒なことになる。
ただ、これはそこまで強い設定ではないため、シナリオ中のRPの流れやKPの好みで小山もキーザ戦に参加させても良い。
〈目星〉
「キーザの裏側、奥の方は入り江のようになっており、そこから青い光が差し込んでいる」事に気付く。
〈目星〉成功者は追加で〈アイデア〉をロールする。
〈アイデア〉
「青い光は太陽光が反射したもので、あの入り江を崩せばここに太陽光が入らなくなるのでは?」と気付く。
また、〈目星〉〈アイデア〉の成否を問わず「身体の結晶化という異常はキーザが引き起こしたものであり、キーザがいる限り結晶化は止まらないだろう」ということは察せられるだろう。
これらの情報を開示後、キーザとの戦闘に移行する。
「キーザ」
武器 | |||||
---|---|---|---|---|---|
触手 | 90% | 進行度が2段階進行する |
ステータスは「マレウス・モンストロルム(P.157)」に準拠するが、戦闘中の行動は下記に準じる。
基本的にランダムに決めた探索者1人に対して〈触手〉を使用する。
〈触手〉を受けた探索者は進行度が2段階進行するが、もし探索者の進行度が4の場合は5までの進行にとどまる。
進行度が5の時に〈触手〉を受けるとキーザの従僕と化す。
つまり進行度が4以下であれば、少なくとも1回はキーザの攻撃を受ける余地がある。
なおこの局面で従僕となった場合、【06.接触/進行度について】に従うほか、肉体はキーザの従僕と化すが精神はキーザの干渉を受けながらも探索者としての意志を保ち、戦闘に参加させても良い。
その場合、その探索者は全てが終わって洞窟から脱出したのち、肉体は朽ちてロストする。
キーザとの戦闘
通常の戦闘で取れる行動の他、「爆薬をキーザに投げつける」「爆薬を入り江の上部に投げつける」が可能。
ただし入り江の方は【イベント:最深部に潜むもの】の〈アイデア〉に成功するか、PLが提案しない限り提示しない。
キーザが最深部から出ることはないため戦闘からの逃走も可能だが、逃走したところで探索者達の身に起きた事態が改善することはない。
爆薬をキーザに投げつける
〈爆薬を使用する判定〉(【07.村長の家/調査:1F客間】のトランクケース参照)に成功した後「キーザに向かって投げつける」を宣言するだけで良い。
多少コントロールやタイミングがズレたところで、爆薬はキーザの巨体に引っかかりキーザにダメージを与えられるだろう。
「行動可能かつ爆薬を持っている探索者全員が、それぞれ爆薬を最低1つキーザに使用した」時点でキーザの身体は崩壊する。
〈爆薬を使用する判定〉は全員が成功する必要はなく、最低1人が成功すればよい。
逆に言えば爆薬を使用する判定が全て失敗すれば探索者達はキーザに対する対抗手段を失ってしまうだろう。
終了条件がやや複雑ではあるが、「動ける探索者全員に1回は見せ場を作ること」がこの戦闘の目標と言える。
見せ場であれば良いため、爆薬の使用ではなく〈精神分析〉など他の行動でも見せ場とカウントして良い。
ただしキーザが崩壊する契機となる衝撃は必要なため、最低1人は爆薬を使用し、その判定に成功すること。
終了条件を満たした時点で、爆薬の衝撃を受けたキーザの身体は傾ぎ、歪に積み上げた結晶の身体にひびが入る。
衝撃それ自体はキーザの破壊に至らなくとも、バランスを崩して自壊を誘発するに足るものだった。
ひびは次第に大きくなり、やがてキーザはバラバラに砕けてしまう。
キーザが砕けると同時に辺りの結晶が放つ光は消え、入り江から差し込む青い光だけが辺りを照らすだろう。
爆薬を入り江の上部に投げつける
入り江はキーザの背面にあるため、まず1ラウンドかけて入り江の近くまで移動する必要がある。
移動にあたって判定は不要だが、移動を行った探索者はキーザの次の攻撃の標的となる。
また移動後は、〈爆薬を使用する判定〉に加えて〈投擲〉に成功する必要がある。
〈投擲〉が必要なのは、入り江の上部に爆薬が引っかかるような返しがなく、コントロールやタイミングがずれると不発に終わるため。
こちらの行動の場合、判定に成功すればその時点で終了条件を満たし、入り江は崩落する。
終了条件を満たした時点で入り江の上部が崩落し、轟音を立てて岩が落ちて入り江を塞ぐ。
青い光が失われ、キーザの触手の動きは次第に遅くなり、やがて止まる。
キーザや辺りの結晶が放つ光も消え、辺りは完全な暗闇に包まれるだろう。
戦闘では上記の2ルートのどちらかを取ることになるが、まず入り江の爆破に挑戦し、失敗したら残りの爆薬を使用してキーザの破壊、という風に方針を変えても良い。
キーザ破壊の終了条件は曖昧にしているので、状況を見てKPが適宜判断すること。
イベント:最期の抵抗
戦闘終了後、大空洞から出ようとすると、キーザを構成していた結晶が無数の人々の顔や腕に変化し雪崩を打って襲い掛かる。
探索者は全速力で来た道を戻り、最終的に古井戸の辺りで無数の人々は力尽きてただの結晶の塊となる。
これはクライマックスの逃走シーンとして取り扱う。
【筒状の爆薬】がまだ残っているならばそれを使用して足止めをしたり、誰か1人が雪崩に呑まれかけて他の探索者がそれを助けたり、探索者達の状況やPLの提案、KPの好みで適度に危機感を煽る演出をすると良い。
洞窟から脱出し、村長の家を出るとすぐそこに小山の車が止まっている。
運転席から小山が顔を出し、探索者の無事を喜び早く帰ろうと車に乗るように促すだろう。
探索者達が車に乗り、小山が車を発進させたところで【09.エンディング】に移行する。
09.エンディング
ED1/探索途中で帰還(進行度0)
探索者達は何事もなく平穏な生活に戻る。
気になることと言えば、あれ以降小山とは連絡がつかないことくらいだろう。
何事もなく生還するが、シナリオ放棄に近い結末。
刈海村に残った小山はキーザの手にかかり結晶化して死亡する。
報酬なしでシナリオを終了する。
ED2/探索途中で帰還(進行度1以上)
探索者達は日常に戻るが、身体に生えた結晶は取れる気配がなく、逆にその面積を増してくるだろう。
数日後、探索者は多幸感に包まれ、より大きな幸福を得るために自らの意志で刈海村に赴き、キーザの手にかかり結晶化する。
キーザを無力化することなく帰還するとこの結末を迎え、該当探索者はロストする。
進行度1以上の探索者とそうでない探索者が存在する場合、進行度0の探索者に対してED1を描写し、その後進行度1以上の探索者に対してED2を描写すると良い。
ED3/キーザを破壊して帰還
刈海村から脱出して、あなた達と小山は日常に戻る。
身体に生えた結晶の除去には手間がかかるが、いずれ健常な身体を取り戻すだろう。
刈海村での出来事にどう折り合いを付けていくかはあなた達次第だ。
それを選択する時間と自由を、あなた達は無事に取り戻した。
……それから数か月後。
刈海村の地下深く、青い光で照らされた大空洞。
その中心部にあったものに光が宿る。
結晶がゆっくりと隆起し、ヒトの形を作り出す。
「うふふ」
誰もいないはずの大空洞に、うつろな声が響いた。
身体に生えた結晶を除去し、探索者達は日常に戻る。
その一方、探索者の手で崩壊したキーザは、青い光(太陽光)を浴びて身体を再構成して活動を再開する。
探索者の知らないところで、キーザは引き続き刈海村を訪ねる者を襲い続けるだろう。
ED4/入り江を破壊して帰還
刈海村から脱出して、あなた達と小山は日常に戻る。
身体に生えた結晶の除去には手間がかかるが、いずれ健常な身体を取り戻すだろう。
刈海村での出来事にどう折り合いを付けていくかはあなた達次第だ。
それを選択する時間と自由を、あなた達は無事に取り戻した。
内容としてはED3とほぼ同一。
入り江が破壊され、青い光(太陽光)が遮断されたためキーザが復活することは無くなる。
好奇心旺盛な誰かが大空洞に到達してキーザの破片を持ち出すなど、復活の可能性は厳密に言えばゼロではない。
とはいえその辺りを考慮し出すとシナリオフックに近い内容のため割愛する。
10.報酬
【筒状の爆薬】が残っていた場合、それは火薬が湿気ていて使用不可能の状態とする。
それ以外に刈海村で見つけた物品の持ち帰りに制限はない。
生還
条件 | ED3またはED4到達 |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | ・2D6の正気度回復 ・〈隠れる〉または〈忍び歩き〉に技能成長1回 |
キーザ破壊
条件 | ED3到達 |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | 1D3の正気度回復 |
入り江破壊
条件 | ED4到達 |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | 1D10の正気度回復 |
結晶化の治癒
条件 | ED3またはED4到達 |
---|---|
対象 | 進行度が1以上の探索者 |
内容 | 探索者は身体から生えた結晶を除去するために、日光を避けて生活しなければならない。 最短でも進行度*3日間は日光を浴びることができず、 もし日光を浴びた場合は完治により多くの時間がかかるようになるだろう。 |
11.補足
シナリオ上では直接関係のない補足情報。
結晶人形の生産はどのような流れで行われている? 破壊された結晶人形の処理は?
大まかに以下の流れで結晶人形の生産は行われる。
1.キーザ、地下の大空洞で自分の肉体の一部から結晶人形を量産する
2.結晶人形は大空洞→古井戸→村長の家を通って刈海村の各地に身を潜める(巡回する個体もいる)
3.人間を発見すると全ての個体がその人間を結晶化させることを目標とする
4.目標達成後、壊れた結晶人形は回収されキーザが再吸収し、1に戻る
キーザが青の洞窟の光で顕現できるのは設定上本当に可能なのか
キーザは晴れの日に活動可能ということは太陽光が活動のキーであり、青の洞窟に満ちる光も反射はしているものの太陽光なので、活動は可能と解釈している。
結晶人形の容姿について
シナリオに記載されている描写は、ワゴン車に乗っていた映画サークルの女性を想定している。
結晶人形の容姿はそれ固定ではなく、無理のない範囲で変更しても良い。
探索中に探索者達を襲う結晶人形達も、全て同じ容姿または全て異なる容姿、どちらでも問題ない。
無理のない変更先として挙げられるのは、
「刈海村の住人(老いた男女)」「映画サークルの人々(若い男女)」
「神社に手帳を残した刑事(年齢・性別未設定)」など。
小山のような物見遊山の若者でも良いが、シナリオ内に描写のない存在を出すのは推奨しないため、挙げた3例以外の人物を出す場合は情報を追加または修正をしてその存在をほのめかすこと。
12.利用規約・更新履歴
利用規約
こちらをご確認ください。
参考書籍
サンディ・ピーターセンほか(2004).『クトゥルフ神話TRPG』.株式会社KADOKAWA.
スコット・アニオロフスキーほか(2008).『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』.株式会社KADOKAWA.
連絡先
製作 | ミナカミ |
---|---|
HP | https://dara.sakura.ne.jp/ |
minakamiryu■infoseek.jp |
報告・感想等ありましたらHPのメールフォームやSNS等で送って頂けると有難いです。
更新履歴
2023/12/28 | 「03.背景」にシナリオに含まれる要素を追加 |
---|---|
2023/10/16 | 他シナリオとレイアウト統一 |
2021/10/16 | 著作権表記、参考書籍を記載 |
2020/07/12 | 利用規約を修正 |
2019/09/23 | 公開 |