君に捧ぐ変奏曲(きみにささぐへんそうきょく)
このシナリオは「新クトゥルフ神話TRPG」に対応したシナリオです。
推奨人数 | 4人 |
---|---|
難易度 | ★★☆☆☆(無謀な行動をしたり巡り合わせが非常に悪ければロストする) |
推奨技能 | 芸術/製作(楽器演奏系)、目星、聞き耳、図書館、対人関係技能(威圧or言いくるめor説得or魅惑) |
所要時間 | 約10時間(オンラインによるテキストセッション) |
推奨技能は重要度が高い順に記載しています。
芸術/製作(楽器演奏系)は必須、それ以外は初期値でもロストすることはありません。
所用時間はテストプレイを行った際にかかった時間です。
セッション形式やプレイスタイルによって所用時間が前後するので、あくまで目安程度でどうぞ。
記法
シナリオの見方をご確認ください。
Copyright
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright (C)1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION
01. あらすじ
「色々な業界の音楽家達で演奏会をやりたいんだ」
新進気鋭のバイオリニストが発案した、才ある者が集う演奏会。
完璧な天才とそれを追う秀才。
演奏会に招かれた探索者達は期せずして彼らの思惑に巻き込まれ、人智を超えた存在と相対することになる。
つまりトルネンブラと音楽でバトルするシナリオです。
探索者について
探索者は新規・継続どちらでも可能だが、探索者は演奏会の参加者であるため「プロアマ問わず多少なりとも演奏者として活動していること」が必須となる。
演奏会への参加にあたり、以下の情報は事前に把握しているものとする。
前提情報:一条と演奏会について
・探索者はバイオリン奏者「一条 陽(いちじょう はる)」が開催する演奏会に参加する予定である
・一条は世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者であり、非常に社交的で顔が広い
・演奏会は幅広いジャンルの演奏者の交流を目的としており、プロアマ問わず才ある者が多く招待されている
・探索者は一条から直接招待されたり、他の人の推薦で参加することになっている。参加の経緯や目的はプレイヤーが自由に設定して良い
・一条と既知関係であるかどうかは任意。親交があるかもしれないし、他の人の推薦で参加して完全に初対面かもしれない
探索者同士は初対面・既知関係どちらでもよいが、初対面の場合は導入シーンで偶然居合わせて一緒に行動することになるため、それが出来るだけの協調性は必要。
また、本シナリオではNPCから依頼を受けるシーンが何回か発生する。
良心、好奇心、打算、交渉して報酬を得る、周りの雰囲気に流される……その他どんな理由でも良いので、依頼を受ける理由が持てる探索者だと進行がスムーズになる。
芸術/製作(楽器演奏系)について
芸術/製作(楽器演奏系)は鍵盤楽器、弦楽器、管楽器、打楽器など、「非電源の道具を用いて音楽を奏でることが出来るもの」であればOK。
電子楽器に関しては、「代替できる非電源の道具があるかどうか」で判断する。
例えばエレキギターは代替でギターが使用できるためOKとなり、テルミンは代替できる道具が存在しないためNGとなる。
それ以外で音楽系でNGとなるものとしては歌唱(道具を用いないため)、作詞作曲(その技能に成功しても演奏したことにならないため)等が挙げられる。
02. 索引
概要
01. あらすじ
02. 索引
03. シナリオのコンセプト、背景情報
04. NPC
05. 導入
06. 一条の屋敷
07. 乾杯~演奏会
08. 一条からの依頼
09. 二階堂の部屋
10. 深夜の特訓
11. トルネンブラとの対峙
12. 音が去った世界
13. エピローグ
14. エンディング
15. 報酬
16. 利用規約・更新履歴
03. シナリオのコンセプト、背景情報
シナリオのコンセプト
トルネンブラに魅入られた一人の天才を巡る一本道シナリオ。
探索者は最終的にトルネンブラと相対し、音楽の力で退散を試みることになる。
このシナリオの主題はざっくり言うと「トルネンブラと音楽の力で戦うこと」である。
探索中に手に入る情報はシナリオの背景情報が大半で、情報の取りこぼしが原因で致命的な被害を被ることはない。
探索者やNPCがどのような結末を迎えるかはトルネンブラの退散結果で大きく異なる。
特殊ルールの戦闘処理、PCの選択や出目によるNPCの死、NPCの自己犠牲、NPCが理不尽な目に遭う、NPCが活躍する、人間以外の動物が酷い目に遭う、多眼や反転目などの人外要素
このシナリオには上記の要素が含まれているが、事前にPLに知らせるかどうかはKPの任意。
要素としての度合いが薄いもの、行動によっては発生しないものも存在するため、PLから相談があった場合はシナリオ本文を見て適宜対応すること。
また、これはシナリオ作者の主観で要素をリストアップしたものだ。ここにはないがPLに知らせたい要素があれば自由に付け加えて良い。
背景情報
姿を持たない生きた音「トルネンブラ」はその音で天球の音楽を作り、アザトースの眠りを保つ外なる神の一柱だ。
トルネンブラが地球に現れることは滅多にないが、音楽の天才に興味を持ち夢から侵食することがある。
世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者「一条 陽(いちじょう はる)」は、その才能故にトルネンブラに興味を持たれてしまった不運な存在である。
一条はまず夢でトルネンブラの音楽を毎晩聴くようになり、やがてそれは起きている間も続くようになった。
トルネンブラの常軌を逸した音楽はより深い音楽的知識を得る助けになったが、同時に一条の心を蝕んでゆく。
一条は同じバイオリン奏者で友人でもある「二階堂 秀治(にかいどう しゅうじ)」に相談するが状況が改善することはなく、やがてトルネンブラの音楽に魅せられ、トルネンブラの招来を目論む狂信者となり果てる。
一条は狂信者となっても高い社会性を有しており、より多くの才ある者をトルネンブラに会わせるために演奏会を企画する。
その一方で、二階堂は一条の異変に気付いており、一条からの相談内容を元に独自に調査を進め、音楽活動を投げ出してオカルトに傾倒していく。
海外から怪しげな本を取り寄せ、寝食を忘れて読みふけり、奇妙な道具を作る様子は、狂ったと噂されるには十分すぎるものだった。
しかし二階堂の目的は演奏会を止めて一条を解放するためであり、噂に反して彼は狂信者ではない。
探索者達は一条が企画した演奏会に招待された演奏者だ。
一条からの依頼をきっかけとして二人の思惑を知り、トルネンブラがもたらす被害を食い止めることが今回のシナリオの目的である。
04. NPC
NPCの職業は「ディレッタント」をベースに作成し、技能はキャラクター性の把握や進行に必要なもののみ記載している。
余った技能ポイントの割り振りはそのままでも自由に設定しても良い。
一条 陽(いちじょう はる)
ステータス | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
STR | 50 | CON | 55 | SIZ | 50 | DEX | 40 |
APP | 80 | INT | 70 | POW | 85 | EDU | 50 |
正気度 | 0 | 耐久力 | 10 | MP | 17 | 幸運 | 85 |
db | ±0 | ビルド | 0 | MOV | 8 | ||
技能 ※〈アイデア〉〈知識〉以外は50音順で記載 | |||||||
アイデア 70%、知識 50% 聞き耳 80%、芸術/製作(バイオリン) 99%、 信用 85%、 魅惑 60% |
(年齢:28歳/性別:男性/人称:僕、君、○○さん、○○君)
世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者。
明るく社交的な性格で誰にでも優しく、天才として名を馳せている。
興味を持ったことには押しが強く、ややデリカシーに欠けてしまうところが難点。
一見すると善良な人間だが、実際は常軌を逸した音楽への情熱を持ち、音楽活動のためなら何でもする異常者。
明るく社交的に振舞うのも、人間関係を良好に保ち音楽活動をスムーズに進めるための作業でしかなく、善意によるものではない。
ある時からその才能をトルネンブラに見出され、最初は夢の間だけ、やがて起きている間も常にトルネンブラの音を耳にし続けるようになる。
精神を摩耗させながらも自身の才能をさらに昇華させ、正気を失ってからは「世界中の音楽の天才を集めて皆でトルネンブラの元に行くこと」を目的に動くようになる。
真意を隠したまま振舞うことには慣れていたため、正気を失ってからの言動は以前とほぼ変わらない。
執着の対象が「音楽」から「トルネンブラ」に変わっただけで、今も昔もまともな振る舞いが上手いだけの異常者である。
「二階堂 秀治」のことを誰よりも信頼しており、トルネンブラの音を聞いて消耗していることも彼にだけ相談していた。
相当な負けず嫌いであり、音楽活動を続ける理由は音楽への情熱以外に「二階堂に負けたくない」ことが非常に大きい。
正気を失った者がまともに振舞えるか? という疑問もあるが、彼にとって「まともな振る舞い」は幼い頃から磨き上げ続けてきた技術である。
何年経っても自転車の乗り方を忘れないのと同じように、彼は「まともな振る舞い」という技術を失うことはなかった。
RP指針
本シナリオの黒幕だが、黒幕だと判明するのはシナリオの中盤以降。
「怪しんでいた二階堂が実は味方で黒幕は一条だった」という立ち位置の転換もこのシナリオの醍醐味であるため、怪しい動きはせず、明るく社交的で時折デリカシーに欠ける言動をする善人として振舞うことを推奨する。
黒幕と判明してからも振る舞いに大きな変化はない。二面性や裏の顔はなく、変わらぬ態度でトルネンブラを呼ぼうとするだろう。
二階堂 秀治(にかいどう しゅうじ)
ステータス | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
STR | 40 | CON | 50 | SIZ | 70 | DEX | 55 |
APP | 30 | INT | 60 | POW | 75 | EDU | 80 |
正気度 | 30 | 耐久力 | 12 | MP | 15 | 幸運 | 25 |
db | ±0 | ビルド | 0 | MOV | 7 | ||
技能 ※〈アイデア〉〈知識〉以外は50音順で記載 | |||||||
アイデア 60%、知識 80% 威圧 30%、聞き耳 70%、芸術/製作(バイオリン) 80%、芸術/製作(作曲) 50%、 信用 70% |
(年齢:28歳/性別:男性/人称:俺、君、呼び捨て)
世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者。
高慢で陰険な人間嫌い。「一条 陽」としばしば競い合うが毎回敗北しており、その性格も相まって嘲笑を込めてシルバーコレクターと呼ばれている。
一条とは幼馴染であり、同じ時期にバイオリンを初めてその頃からずっと競い合い続けている。
一条の才能を誰よりも理解し、魅せられ、彼の音楽を間近で聞きいつか打ち勝つためだけに音楽活動をしている。
一条の性根を見抜いている唯一の人間であり、「奴は友好的な振りをしているが人間に興味がなく、自分も取るに足らない存在である」と思っている。
トルネンブラの音を聞いていることを相談された時も、他の奴にも同じ相談をしているだろうと受け止めていた。
日に日に彼の様子がおかしくなることに気付いてからは、彼を救うために昼夜を忘れて魔術的な研究に没頭する。
他の奴に任せて失敗したら一条を失うことになり、それは何に代えても阻止したかった。
一条の人間性は毛嫌いしているが、彼の音楽の才能は失われてはならないと考えている。
RP指針
基本的にそっけない対応をしたり、嫌味を飛ばしたり、不快に思えば舌打ちをするなど、非常に態度が悪い。
【09. 二階堂の部屋】以降も態度の悪さは変わらないが、演奏の腕前があり一条に信頼されている探索者達には一定の信頼を置くようになる。
そのため質問には正直に答え、からかわれると怒ってみせる、探索者への正当な評価を口にするなど、性格が悪いなりに言動や感情表現が素直になっている。
二階堂のRPをする際は、過度に探索者を悪く言い心証を損ねることがないよう気を付けること。
なお、二階堂の二人称は「君」だが、クライマックスで一条に曲名を告げる時まで二人称を使わないことを推奨する。
探索者を呼び捨てで呼ぶ、目線や態度で示すなどで二人称を使わずRPを行える。
ただ、これはそうした方がタイトル回収が印象深くなる程度の要素のため、必須ではない。
05. 導入
一条の屋敷までの道中
一条の演奏会に招待された探索者達が彼の屋敷に向かうシーンから始まる。
時刻は午前中、お昼時の少し前。
一条の屋敷は都心から電車で1時間ほどの場所にあり、駐車スペースの関係で車での来訪は禁止されている。
探索者達は電車で来るか、車を駅前の駐車場に停めて徒歩で向かうことになるだろう。運の悪いことにタクシーも出払っていて、呼び出すのも時間がかかりそうだ。
なお探索者達がグランドピアノなど持ち運び出来ない大きな楽器で演奏する場合、楽器類は事前に屋敷まで搬入する手筈になっている。
KPは探索者達全員が知っていることとして、以下の前提情報を開示する。
この情報はセッション開始前の事前説明時にも開示しておく事を推奨する。
前提情報:一条と演奏会について
・探索者はバイオリン奏者「一条 陽(いちじょう はる)」が開催する演奏会に参加する予定である
・一条は世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者であり、非常に社交的で顔が広い
・演奏会は幅広いジャンルの音楽家の交流を目的としており、プロアマ問わず才ある者が多く招待されている
・探索者は一条から直接招待されたり、他の人の推薦で参加することになっている。参加の経緯や目的はプレイヤーが自由に設定して良い
・一条と既知関係であるかどうかは任意。親交があるかもしれないし、他の人の推薦で参加して完全に初対面かもしれない
一条の屋敷までの道中は、探索者達が出会い、会話をして、それぞれのキャラクターや関係性を把握するためのシーンだ。
互いに初対面であっても、同じ時間に同じ場所に向かうことからおのずと近くを歩くことになり、後述のイベントで知り合うことになる。
このイベントの都合上、駅からの移動手段は徒歩に限定しているが、探索者達が既知関係であり全員で一緒に向かうなら徒歩ではなくタクシー等の移動手段を用いても良い。
マラカス奏者の男
一条の屋敷は小高い丘の上にあり、探索者達が坂道を登っていると、前方から何本ものマラカスが転がってくる。
そしてそれを追うように一人の男が坂道を駆け下りてきて、探索者達に対してマラカスを拾うように大声で頼む。
「すみません、それ拾ってくださーーーーーい!!」
マラカスを拾う
男は探索者達に感謝し、演奏会についての話をし始める。
「ありがとうございます。助かりました!」
「皆さん一条さんの演奏会に参加されるんですか? 僕もそうなんですよ」
マラカスを拾わない
男は自力でマラカスを回収し、探索者達に冗談っぽく文句を言いながら演奏会についての話をし始める。
「どうして拾ってくれなかったんですか~!」
「一条さんの演奏会に参加されるんですよね? 招待者のよしみで助けてくれてもよかったじゃないですか!」
「改めまして、僕は忠人 理有(ちゅうと りある)と言います。マラカス奏者やってます!」
「一条さんの演奏会には知り合いの推薦で参加できることになって……皆さんはどういういきさつでこちらに?」
(探索者達の自己紹介。もし参加した経緯を決めているならそれも交えて話すと良い)
「へええ……! 皆さんの演奏も是非聞きたいです!」
「いやあ、かのバイオリン対決が見れるかもってだけでワクワクしてたのに楽しみがまた増えました! ではまた!」
忠人はそう言って、「バイオリン対決」についての説明はせず駆け足で一条の屋敷へと向かって行く。
探索者達は自分達のペースで一条の屋敷に向かい、到着するだろう。
忠人 理有はその名の通りチュートリアルRP用のNPCである。
シナリオ上これ以降登場することはないが、PLが気にしていれば会場の片隅にいたりマラカスの演奏をする様子が見られるだろう。
なお、探索者達が既知関係で顔合わせの必要がない場合はこのイベントは省略しても良い。
KPの探索者に音楽家がいるならその探索者を忠人の代わりにゲスト出演をさせても良い。
演奏会は2日目の一条の演奏で阿鼻叫喚となるが、危険を察知して逃げ出したことにすれば何の被害も被ることはない。
もしくは、共に事件を解決するメンバーとしてKPの探索者をここで合流させても良いが、トルネンブラとの戦いの際はKPの探索者の行動は他のプレイヤーの判断に従うなど、シナリオを知っていることによる有利な行動を取らないよう注意すること。
06. 一条の屋敷
一条の屋敷は小高い丘の上に建てられており、本館と別館からなる。
屋敷の周囲はレンガの塀で囲われ、正面の門扉は固く閉ざされている。
門扉のすぐ横には玄関チャイムがあり、これで来訪を知らせない限り中には入れないだろう。
チャイムを鳴らすと一条が対応して探索者達を出迎える。
RP例:一条に直接招待された場合
一条『はーい! ○○さん、○○さん、○○さん、○○さんだね。ちょっと待ってて!』
(すぐに玄関から一条が出てきて門扉を開錠する)
一条「(探索者達が初対面の場合)久しぶり。なんだか珍しい組み合わせだね。みんな知り合いだったの?」
一条「最近は君達の演奏を聞きに行けていなかったから、今日はとても楽しみにしていたんだ」
RP例:他の人の推薦などそれ以外の理由で参加した場合
一条「こんにちは! えーと……○○さん、○○さん、○○さん、○○さんですね。少々お待ちください」
(すぐに玄関から一条が出てきて門扉を開錠する)
一条「本日は演奏会にご参加いただきありがとうございます」
一条「僕は一条 陽(いちじょう はる)。この演奏会の主催で、普段はバイオリニストとして活動しています」
一条「皆さんの演奏はとても素晴らしいものだと聞いています。楽しみにしていますね!」
一条は探索者達と面識がある場合はラフな口調、初対面の場合は敬語で話す。
初対面の場合でもある程度会話をしたら徐々にラフな口調に切り替えても良い。
これ以降の一条の台詞サンプルはラフな口調のもので統一するが、一条と探索者達の関係性に応じて変更すること。
探索者達との挨拶を終えると、一条は会場とタイムスケジュールについて説明する。
一条「さて、簡単に会場とタイムスケジュールについて説明しておこうか」
一条「会場は本館の大広間を使うよ。チューニングやリハーサルをしたい時は空き部屋に案内するからスタッフに言ってね」
一条「タイムスケジュールについては、まず今回の演奏会は2日間やる予定だ」
一条「1日目はこの後すぐに、立食形式でご飯を食べたり飲んだりしながら夕方まで演奏会だ。皆の演奏を聞きながらの異業種交流会みたいなもので、それが終わったらこちらで用意した駅前のホテルで一泊してもらう」
一条「2日目の午前中は互いの業界の話をしたりちょっとしたゲームをしたり即興で合奏したり……交流を主軸にした感じだね。で、最後に僕が演奏して演奏会はおしまい」
一条「……以上。ざっくりだけどこんな感じ。コンクールみたいな堅苦しいものじゃないから、あまり気負わずにいてくれると嬉しいな」
一条「何か気になることはあるかな?(探索者達ひとりひとりの目をまっすぐに見る)」
一条への質問:ここに泊まれないのか?
一条「張り切って人を集めすぎちゃって……本館と別館を総動員しても全員を泊めるのは無理なんだ」
一条「だからといって一部の人だけ泊めて他はホテルでってのもよくないだろう?」
一条への質問:一条が演奏するのは2日目だけ?
一条「そうだね。大トリはちょっと緊張するけど今からとても楽しみにしてる!」
一条への質問:忠人が「かのバイオリン対決が見れるかも」と言っていた
一条「今回の演奏会、僕の友人も呼んでいてね。二階堂(にかいどう)って言うんだけど」
一条「僕と二階堂はしばしばバイオリンのコンテストで争っていて……今回も、勝敗を決める場があるなら参加してやるって言われてね」
一条「だから、2日目は僕の演奏と二階堂の演奏を皆に聞き比べてもらおうかなって思ってる」
一条「……これ、サプライズ企画だから他の人には内緒にしててね!」
一条は「どこから漏れたのかなあ」と零しつつ、人差し指を口に当てて内緒のポーズをする。
いくつかの質問と回答を挙げたが、それ以外のことを聞かれた場合はシナリオの背景情報に抵触しない、今後の展開と矛盾が生じない範囲で自由に設定して回答する。
これ以降もいくつかのシーンで質問と回答を挙げているが、それ以外のことを聞かれた場合は同様に対応すること。
質問が落ち着くと、探索者達は一条の先導の下で門扉を抜けて本館へと向かう。
本館は3階建ての洋館だ。汚れひとつない外観はよく手入れされていることが伺える。
門扉から本館までの間はちょっとした庭になっており、石畳の道に沿うように飾られた季節の花が見ごろを迎えている。
開かれた窓からは人の声が聞こえる。自分達と同じ招待客がいるのだろう。
その隣に建つ別館は2階建ての洋館だ。よく手入れされているが、本館と比べると小ぢんまりとした印象がある。
扉も窓も閉ざされており、中の様子を伺うことは出来ない。
〈目星〉
一条の顔色が少し悪いことに気付く。少し調子が悪そうだ。
〈調子が悪そうなことを指摘する〉
一条「えっ」
一条「いやあ、えーーーーっと……隠してるつもりだったのに、よく気付いたね?」
一条「今日の演奏会の準備が忙しいやら楽しみやらでね、あまり眠れていないんだ」
一条「でも大丈夫! 演奏会が終わったらゆっくり休むから! 心配かけてごめんね!」
一条の体調が悪いのはトルネンブラの音を聞き続けている影響。
狂信者と化してからの本懐を遂げることができる演奏会を楽しみにしていたのは事実のため、〈心理学〉を用いても彼の言葉や気持ちに裏がないことが分かる程度だ。
〈聞き耳〉
かすかにバイオリンのような弦楽器の音が聞こえる。
しかしその音の響き方はどこか歪で今までに聞いたことがないものだ。
〈別館に誰かいるのか聞く〉
一条「それは……たぶん、二階堂だろうね。彼は演奏会が始まるまでそっちにいるし、今日は別館に泊まる予定だ」
一条「特別扱いになっちゃってるけど、彼にはどうしても参加してもらいたかったからね。ここだけは大目に見てもらいたい」
〈二階堂は別館で何を演奏しているのか聞く〉
一条「さあ……。最近の二階堂は僕を避けていて、何をしているのかはよく分からないんだ」
一条「少し寂しいけど、僕は二階堂のことを信じてるから」
この時、別館では二階堂が退散のために用意した楽器を試しに弾いている。
彼は通常の楽器ではトルネンブラを退散できないと判断し、奇妙な改造を施した楽器をいくつか持ち込んでいる。
探索者が耳にした音の響きが歪なのもそのためだ。
07. 乾杯~演奏会
乾杯
探索者達は一条の案内で大広間に到着する。
大広間には様々な料理が並び、演奏会のスタッフが乾杯用のグラスを配っていた。探索者達にもシャンパングラスが手渡されるだろう。
前方には簡単なステージが組まれており、ピアノやドラムといった大型の楽器は既に設置されている。どうやらあそこで演奏を行うようだ。
一条は大広間の前方に向かい、探索者達が乾杯用のグラスを持って少し待っていると、一条の挨拶が始まる。
一条「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
一条「僕は普段、バイオリニストとして活動しています。クラシック音楽にはよく親しんでいますが、音楽はクラシックだけではありません」
一条「あらゆる分野の音楽に触れて、その道の最先端をゆく方々の想いを知りたい」
一条「その想いで企画した演奏会でしたが、これほど多くの方に集まって頂けたのは嬉しい誤算でした」
一条「この2日間が皆様にとって良い思い出となりますように」
一条「では……乾杯!」
一条がグラスを掲げると、あちこちでグラスが掲げられ、グラスが軽くぶつかる音がする。
昼食は立食形式。和洋中のフィンガーフード(手でつまんで食べられる料理)が揃っている。
その場で用意して盛り付ける料理もいくつかあり、生ハムをその場でカットしたり寿司を握ったりしてもらえるようだ。
飲み物もノンアルコール、アルコール共に様々な種類が取り揃えられている。
椅子も多く用意されており、数時間立ちっぱなしという事態は避けられそうだ。
二階堂の演奏
食事が始まって少し経つ頃、ステージに一人の青年が立つ。
陰鬱な雰囲気を纏った男だ。
目の下には深いクマが刻まれており、ステージから聴衆を見下ろす表情には愛想の欠片もない。
司会「それでは、最初の演奏はバイオリニストの二階堂 秀治(にかいどう しゅうじ)様です」
司会「二階堂様はこの演奏会の主催者である一条様の親友であり、トップバッターは彼に努めてほしいと一条様たってのご希望でした」
司会「一条様と競い合い磨かれた素晴らしい音色をどうぞお楽しみください」
二階堂はバイオリンを構え、弦に弓を添える。
一瞬の静寂の後に始まるのは静かな演奏――ではなく、強烈な音の波。
誰もが耳にしたことのある、激しく情熱的で聞く者を奮い立たせるドラマチックな旋律。
たった一挺のバイオリンが巻き起こす音色は一瞬にしてその場にいる者を巻き込み、踊り、燃え上がらせる。
時間にしてほんの数分。
しかしその数分は彼の実力を思い知るには十分なもので、バイオリンの構えが解かれると同時に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
司会「素晴らしい演奏、ありがとうございました!」
司会「普段はクラシックの中でも静かな楽曲を好まれていますが、今回は随分と趣向を変えられましたね」
二階堂「俺はトップバッターとしての仕事を果たしただけだ。無駄な言葉を重ねる暇があるならさっさと次に行く方がよっぽど耳障りがいいのでは?」
二階堂はフンと鼻を鳴らしてステージを降りる。
少しふらつきながらも手近な椅子に座って腕を組み、周りに興味などないと言わんばかりに目を閉じた。
二階堂が演奏した曲は葉加瀬太郎作曲「情熱大陸」をイメージしている。
二階堂は人当たりは最悪だが引き受けた仕事はきっちりこなす性分であり、「あらゆる界隈の音楽家が集う演奏会のトップバッターなら、誰でも理解できて盛り上がる曲が良いだろう」と自分の趣向とは異なる曲を選んだ。
また、少しふらついているのは連日の魔術的な研究による疲労のため。
演奏会
二階堂の演奏を皮切りに演奏会は始まる。
有名な曲もあれば聞いたこともない曲もあり、古今東西の様々な楽器がステージの上で輝いている。
いずれも素晴らしいものだったが、その中でも探索者達が印象に残ったものは何だろうか。
探索者達はそれぞれ1D10と1D100をロールする。
1D10の結果は以下の「印象に残った音楽表」を適用し、1D100の結果は数値が大きいほど良い印象を抱く。
なおこれは今後の展開には一切関係のない探索者間の交流要素のため、KP判断でこの処理は省略しても良い。
印象に残った音楽表(内容はKPの好みで変更しても良い) | |
---|---|
1 | クラシック |
2 | ポップス |
3 | ロック |
4 | ジャズ |
5 | ヒップホップ |
6 | EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック) |
7 | 演歌 |
8 | アカペラ |
9 | タップダンス |
10 | ボーカロイド |
ロール結果の例 | |
---|---|
1D10で1、1D100で100 | クラシックが物凄く良くて感動した。最高だ!!!!! |
1D10で5、1D100で50 | ヒップホップがわりと気に入った。いいじゃん! |
1D10で10、1D100で1 | ボーカロイドがよく分からなかった。何が良いんだろう……? |
多種多様な演奏を耳にして、探索者達の音楽家としての感性は大いに刺激されるだろう。
演奏を聞いて雑談を交わしているうちに探索者達の順番が来る。
探索者達がグループではなくそれぞれ別々に活動しているなら、順番に演奏していくことになる。
全員が〈芸術/製作(楽器演奏系)〉をロールする。
この〈芸術/製作(楽器演奏系)〉は必須ではないが、演奏会に参加する程度に実力も興味があるならば出来るだけ演奏してもらう方がいいだろう。
普段はグループで活動していて今回は何らかの事情で1人で来たなど、本来の演奏が出来ない状態で参加している場合、一条がやってきて他のグループで欠員が出たから手伝ってくれないかと頼みに来る。
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉に成功する
探索者の演奏はこの上ない成功を収め、万雷の拍手がその実力を称賛する。
人々の手が奏でる雨のような心地よい音色に耳を傾けていると……その音がふいに歪む。
拍手のようで拍手ではない得体の知れない音は、より注意深く耳を傾ける前に消えてしまう。
気のせいだったのだろうか……?
★正気度喪失【0/1D3】
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉に失敗する
探索者は演奏の中でわずかなミスをしてしまう。
こんな慣れない場での演奏だ。他の奏者も同程度のミスはしており、誰も気にする様子はない。
演奏を終えるとあなたの健闘を称える拍手が会場を包むだろう。
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉に成功した探索者が耳にしたのはトルネンブラの音色。
トルネンブラ招来の時が近づいている影響により、優秀な音楽家はトルネンブラの気配を感じ取りやすくなっている。
08. 一条からの依頼
一条からの依頼
自分達の番が終わり、席に戻って他の人の演奏を聴いていると一条がやってくる。
彼は探索者達に最近の二階堂についての調査を依頼する。
一条「みんな、お疲れ様! すっごく良い演奏だったよ!」
一条「あれだけの演奏が出来るなら、みんなで合奏したらまた面白いものができそうだ。合奏用の曲を作るのが大変そうだけどもね」
一条は軽く辺りを見渡して、それから探索者達に顔を近づけて声を潜める。
一条「実は……君達に頼みたいことがあるんだけど、聞いてくれるかな」
一条「頼みっていうのは、最初に演奏したバイオリン奏者……二階堂のことなんだ」
一条「彼は僕の昔からの親友でね。ずっと僕と競ってくれるいい奴なんだけど……最近はちょっと様子がおかしくて」
一条「練習の時間を削ってまで何かをしていて、日に日にやつれていって、何があったのか聞いても答えてくれないんだ」
一条「ここには僕の同業者も含めて色々な人がいる。二階堂に何があったのか調べてくれないか?」
一条への質問:何故探索者に依頼した?
一条「僕が他の友達に聞いても誤魔化されてしまってね。何かしがらみがあるのか、僕に気を利かせてくれてるんだと思う」
一条「君達も僕の大切な友達だけど、幸か不幸かそういうものはないだろう?」
一条「だから、君達ならまた違う情報が掴めるし伝えてくれると信じてるよ」
一条への質問:自分達のような素人に調査が出来るとは思えない
一条「まあまあ、臨時探偵でもやってくれると助かるんだ。もし分からなかったらその時はその時で考えるよ」
一条への質問:どうやって調べたらいい?
一条「簡単なところで言うと聞き込みかな? 僕が直接聞いても誤魔化されてしまうから、君達が聞く生の情報ならどんなものでも価値があると思う」
一条「あとは……インターネットを調べてみるとか。僕はそっちの方は全然ダメだから、ひょっとしたら何かあるかもしれない」
一条「二階堂に直接話を聞きに行くこともできるけど、取りつく島もないかもしれない。彼、シャイだから」
一条への質問:何かお礼はある?
一条「うーん……そうだなあ、何が良い?」
一条「誰かを紹介するとか、推薦するとか、僕や他のプロのコンサートに招待するとか……あとは、即物的になっちゃうけどいくらかのお金とか?」
一条は探索者の要求に可能な限り応えようとする。
結末にもよるが、ここで要求したものは【13. エピローグ】にて渡されるだろう。
一条への質問:一条と二階堂について
一条「彼は僕の昔からの親友だよ。幼稚園の頃からの付き合いだから、幼馴染って言ってもいいかも」
一条「ずっと一緒に演奏を楽しんでいてくれてね。彼がいるから僕はここまでやってこれたのだと思う」
一条「二階堂が僕をどう思ってるのかは分からないけど、彼に何かあったのなら知りたいんだ」
一条への質問:二階堂と親しくしている人は一条以外にいる?
一条「少なくとも僕が見た限りだと……そういう人はいない、かな」
一条「二階堂、基本的に人が嫌いで人を寄せ付けないからね」
一条は二階堂が自分を止めるために何かを準備していることは察しているが、詳しいことは分かっていない。
仕掛けて来るならこの演奏会だと考えており、探索者達を使って探りを入れようとしている。
二階堂の真意が一条に伝わるのは【09. 二階堂の部屋】か【11. トルネンブラとの対峙】のどちらか。
【09. 二階堂の部屋】で真意を知った場合、阻止しようと思えばいくらでも阻止できるが、音楽での対決ならば止める理由がないため特に何も行動は起こさない。
音楽での勝負なら今までと同様に負けるつもりはなく、もし負けるならそれは己の実力は神を呼ぶに値しないと解釈しているからだ。
もしも暴力や参加者の避難という形での妨害を企んでいたなら、二階堂を拘束するくらいのことはしただろう。
二階堂についての調査
二階堂についての調査は「演奏会の参加者への聞き込み」「スマートフォン等を使ったインターネットの調査」の2種がある。
前者は〈交渉技能〉、後者は〈図書館〉で調べることが可能。
PLからそれ以外の方法での調査が提案された場合、その場で実行出来るものならKPは適切な技能を設定して許可してよい。一条の屋敷から遠く離れるような提案は不可。
全員が調査用の技能ロールを行い、成功数に応じて出てくる情報の量が変わる。
成功数0
二階堂のバイオリンの腕前は間違いなく一級品だが、コンクールで最優秀賞を取ったことは一度もない。
彼が出るコンクールは全て一条が1位、二階堂が2位という結果に終わっている。
いつしかついたあだ名は「シルバーコレクター」。彼を揶揄する意味合いでよく使われているらしい。
成功数1~2(↑に加えて追加で情報を出す)
二階堂は半年ほど前からオカルトに傾倒している。
怪しげな本を買い集め、難しい顔をしてぶつぶつと何かを呟きながら読みふけっている様子は異様なものだった。
海外の古本で何が書かれているのかまるで読めず、本人に聞いてみても無視されて教えてもらえなかった。
成功数3以上(↑に加えて追加で情報を出す)
バイオリン以外の様々な楽器を買い集めている姿を見た。
二階堂の自宅近くのゴミ捨て場には奇妙な改造が施された楽器が捨てられており、楽器作りの練習ではなく楽器を改造して新しい楽器を作ろうとしているように見えた。
二階堂に直接話しかけに行った場合
二階堂「……何か用か」
二階堂「(話を聞いて)一条からそう頼まれたとして、俺に直接聞きに来るのは呆れてものも言えん」
二階堂「ハイそうですかわかりましたと答えるわけがないだろう」
とだけ返して、それ以降探索者の言葉は全て無視する。
聞き込みを終えたところで一条と合流して報告を行うと、一条は二階堂の部屋の調査を提案する。
一条「教えてくれてありがとう。やっぱり核心は分からないか」
一条「じゃあ、もう直接確かめるしかないね」
一条「二階堂は今日、別館に泊まることになっている。僕に内緒でいろいろ持ち込んでいるみたいだから、それを見に行こう」
一条「正面から行っても見せてくれないだろうから……二階堂が風呂に行っている間にこっそり見ちゃおう。あいつ、長風呂なんだよ」
一条「とはいえ一人だと手が足りないかもしれない。今日はここに泊まっていいから、手伝ってくれないかな?」
一条が二階堂の部屋に忍び込むことを阻止したい場合
一条「そう? 二階堂の場合、気になることがあれば多少無理矢理にでも行かないとダメなんだけど……」
一条「でもまあ、そんなに止めるってことは僕に言えない事情があるのかな」
一条「みんなが僕の代わりに確認してくれる、ということでいい?」
一条「そろそろ演奏会が終わるから、その後で頃合いを見て動いてほしい」
一条は探索者達に同行せず、探索者達だけで二階堂の部屋を調査することになる。
探索者が調査を断ろうとした場合
ここで断った場合、一条は粘って引き留めようとするだろう。
探索者が二階堂の部屋の調査に参加しないということは、ここから先の展開に参加しないということになる。
状況によってはそのことをPLに直接伝えて参加を促すと良い。
演奏会(1日目)の終わり
二階堂の部屋の調査について話がまとまる頃、1日目に予定していた演奏が全て終了する。
一条は演奏会のスタッフからの連絡を受けて、1日目の終わりの挨拶のために壇上に上がる。
一条「楽しい時間はあっという間に過ぎるものです。ただいまの演奏をもって、1日目の予定がすべて終了しました」
一条「一口に音楽と言っても千差万別。どれもこれもが素晴らしく、優劣をつけられるものではありません」
一条「心の底からそう思える体験が出来たこと、本当に感謝しています」
一条「2日目もまた実り多い体験となることを期待しています。それでは、1日目お疲れ様でした」
一条の挨拶と参加者達の拍手で1日目の演奏会は終了し、参加者達は送迎のバスに乗って一条が用意したホテルへ向かって行く。
二階堂は拍手が納まると同時に会場を後にし、探索者達は一条の依頼を遂行するためにその場に残ることになる。
探索者達は一条と共に夕食を済ませ、別館の浴室に電気が付くのを確認してから離れに侵入する。
一条が探索に参加しない場合はマスターキーを借りて別館に侵入することになるだろう。
夕食シーンは用意していないが、必要であれば自由に描写して良い。
演奏会の立食を用意したスタッフが腕を振るい、素晴らしい食卓となるだろう。
二階堂はこの夕食には参加しない。別のスタッフが用意した食事を別館で取っている。
PLの希望によっては二階堂を参加させても良いが、終始無言で探索者が話しかけても無視か嫌味を返すくらいだろう。
09. 二階堂の部屋
二階堂の部屋の調査
その部屋には段ボールがあちこちに転がり、本の山が雑然と積まれ、様々な楽器が壁際に並べられていた。
人はたった一日でここまでものを散らかせるものなのか。
そう思えるほどに混沌とした部屋であった。
探索者達は〈目星〉〈図書館〉〈芸術/製作(楽器演奏系)〉のいずれかをロールする。
探索技能の違いは情報の見つけ方の違いだけで、出てくる情報は成功回数によって変わる。
目星なら何かを隠していそうな場所を見つけ、図書館なら雑然と積まれた本の中から記述を見つけ、楽器演奏なら音楽家としての知識を活かして必要な情報を見つけ出す。
以降の記述は一条が同行している場合のものだが、もし探索者達だけで調査に来ている場合は一条の台詞は省略し、二階堂の台詞は適宜修正すること。
成功数0
何かを見つける前に二階堂が戻ってくる。風呂に入ろうとして忘れ物をして戻ってきたようだ。
「二階堂の依頼」に進む。
成功数1~4
成功数に応じて以下の情報を提示する。
成功数1:【手記1】
成功数2:【手記1】、【手記2】
成功数3:【手記1】、【手記2】、【手記3】
成功数4:【手記1】、【手記2】、【手記3】、【古い楽譜】
【手記1】
信じがたいことだが、この世には「生きた音」というものが存在している。
それが現れると、その場に居合わせた者の頭を常軌を逸した音楽で満たし、その者は死ぬか異形となり果てるか消えてしまう。
出来の悪いオカルト話のようだが、それは確実に存在している!
過去の音楽家にまつわるゴシップを紐解くと、それが人々を襲った痕跡が見受けられる。
奇妙な楽器を手に取り曲を奏でて己や聴衆を病院送りにした者。
夜な夜な奇妙な音楽を耳にして正気を失い姿を消した者。
音楽の神の啓示だと主張し何かを放送しようとしたが謎の組織によって中止に追い込まれた者。
それは過去のゴシップだけの存在ではない。今もなおどこかにいるのだ。
【手記2】
過去の犠牲者が製作したという楽譜の写しを手に入れた。
だがこれは、既存の楽器では到底演奏できるものではない。
何もかもが人類が積み上げてきた音の歴史とは違いすぎる。
このような楽器を作れる職人など世界に1人もいないだろう。
最低限のノウハウは学びつつ、ひたすらに試行錯誤を繰り返し、完璧ではないが近い音を出す楽器が完成した。
だが、楽器1つで目的が達成できるはずがない。
あらゆる可能性を考え、あらゆる形態の楽器を作らなければ……。
【手記3】
過去の犠牲者に関する資料は少ない。
無名の演奏家であるか、不自然なまでに情報が断たれているか、そのどちらかなのだ。
犠牲者の行動を知る資料として唯一発見できたのは、無名の貧乏学生の手記で、エーリッヒ・ツァンというドイツ人のバイオリン弾きについて書かれていた。
手記には彼がエーリッヒ・ツァンの奏でる音に魅せられ、恐ろしい経験をして逃げ延びた顛末がつづられている。
彼らの身に何が起こり、具体的にどのような音が奏でられたのか、その詳細は一切不明である。
しかし現状と突き合わせて考えてみると、その内容はおそらく事実であり、近いうちに……そう、演奏会の時には「それ」が来るだろう。
【古い楽譜】
非常に古い楽譜を見つける。
そこに書かれている五線譜や演奏記号自体は探索者にとっては見慣れたものだが、音符も演奏記号も配置がめちゃくちゃだ。
それでも楽譜から想像できるメロディは、ひとつの「音楽」として成り立っている。
既存のどんなジャンルにも当てはまらない……不安を掻き立て、苛立ちを覚え、頭がおかしくなりそうな、そんな音であった。
★正気度喪失【0/1】
探索情報を出し終え、共有をしたところで二階堂が戻ってくる。
以下は情報共有を受けた時の一条のリアクションおよび進行例だ。彼の言葉を遮る形で二階堂を登場させると良いだろう。
一条「生きた音、か……二階堂はそれについて調べていた……?」
一条「こんな変わった楽器を作って、不思議な楽譜を見つけて、演奏会の時にはそれが来るって――」
二階堂「……何をしている」
一条の動向について
一条を連れてきている場合、ここで二階堂の思惑を知ることになる。
しかし【08. 一条からの依頼】にある補足通り、音楽での対決であるため二階堂の行動を止めることはない。
二階堂は長風呂だったのでは?
おそらく普段は一条の言う通り長風呂なのだろうが、一条を止めるための準備の大詰めということもあって早めに切り上げている。
二階堂からの依頼
声のした方を向くと、二階堂がそこに立っていて一条と探索者達を順にじろりと睨みつける。
一条「二階堂!」
一条「これは……その、僕のわがままだ。泥棒みたいな真似をしてごめん」
探索者達が謝罪や説明、抗議をするならばしても良い。
二階堂は最近の自分の様子がおかしいことは認めるが、それ以上の説明はせず一条だけ部屋から追い出す。
二階堂「一条は帰れ。こんなことをした理由は想像がつくし、演奏会の主催者様なら明日に備えてとっとと休んでおけ」
二階堂「一条の頼みを引き受けたお人好し共は残れ。少し話がある」
二階堂「どうせ明日は下らないじゃれあいしかないんだ、夜更かししても問題ないだろう?」
一条「……分かった、そうするよ」
一条「ごめん、彼に付き合ってもらえるかな。一度言い出したら聞かない人だし、僕の前では話しにくいことがあるかもしれない(探索者達に耳打ちする)」
一条が部屋を去ると、二階堂は探索者達を座らせて自分もその近くに座り、演奏会の阻止を依頼する。
二階堂「……よし、じゃあその辺に座れ」
(探索者達が座った後、二階堂もその近くに座る)
二階堂「泥棒まがいのことをしていたが、どこまで知った?」
1回も成功していない、または黙秘する場合
二階堂「運がないのか嘘つきなのか……まあいい」
二階堂「いいか、一条は得体の知れない化け物に魅入られて、2日目の演奏会でそれを呼ぶつもりだ」
探索で得た情報を一部でも話した場合
二階堂「分かった。それなら話が早い」
二階堂「いいか、一条は『生きた音』に魅入られて、2日目の演奏会でそれを呼ぶつもりだ」
二階堂「放っておけば一条も招待客も、ロクな目に遭わない。良くて廃人、悪くて行方不明だ」
二階堂「被害を最小限に抑える必要があるが、俺一人でやるより手が多ければ多いほどいい」
二階堂「手伝ってくれないか」
二階堂「どういう打算で一条の依頼を請けたのかは知らんが、肝心の一条が消えたら台無しだろう?」
二階堂はそう言って、ニヤリと笑う。
探索者からの質問があればそれに答え、その後手伝いの詳しい説明をするだろう。
二階堂への質問:いきなりそんなことを言われても信じられない
二階堂「だろうな。同情する」
二階堂「だがね、もしここで俺の言うことを妄言と断じて帰ってみるとどうなる?」
二階堂「これが妄言なら何も起きない。演奏会は至極平和に終わり、ああ楽しかったと人生の思い出の一ページになるだろう」
二階堂「真実かつ俺が失敗した場合、一条も、他の参加者も、諸君も良くて廃人、悪くて行方不明。人生の思い出の一ページどころか人生終了だ」
二階堂「俺としては、賢明な判断をしてくれることを願うよ」
二階堂への質問:なんで魅入られていると分かった?
二階堂「少し前だが、一条直々にそういう相談を受けた」
二階堂「あいつは荒唐無稽な嘘で人を弄ぶような趣味はない。だから真実だと思っている」
二階堂「今のあいつがそれを覚えているかどうかは知らんがな」
二階堂への質問:一条の様子はまともに見えるけど本当にそうなっているのか?
二階堂「魅入られて気が狂っているなら様子もおかしいはずだ、と?」
二階堂「一条はもともと『社会性のあるイカレ野郎』だ。一つの物事に異常なまでに執着し、それをスムーズにこなすためなら常人のフリなど容易くこなす」
二階堂「あいつにとっての社会性は幼い頃から積み上げてきた技術でしかない。信仰先が『音楽』から『生きた音』にすり替わったところで、技術は消えない。何年経っても自転車に乗れるのと同じだ」
二階堂「異業種交流だなんて建前をほざいて道連れにする奴らをかき集めることなんて朝飯前だろうよ」
二階堂への質問:オカルトに傾倒していたことについて
二階堂「被害を抑えるにしても敵を知る必要があるだろう」
二階堂「か弱い一般人がヒグマを素手で倒せるか? やるにしてもヒグマの生態を知り、銃を用意するだろう。そういうことだ」
二階堂への質問:一条についてどう思うか
二階堂「世界的に有名な新進気鋭のバイオリン奏者」
二階堂「明るく社交的な性格で誰にでも優しく、非の打ちどころのない天才として名を馳せている」
二階堂「そんなところだろう。なんだ、三流ゴシップ誌の飯の種でも探しに来たのか?」
二階堂への質問:一条を助けるためにそこまでする?
二階堂「…………(嫌悪感が混じった表情)」
二階堂「……何を考えているのかは知らないが」
二階堂「天才が理不尽に失われることは、大きな損失だろう」
二階堂への質問:何故探索者に依頼した?
二階堂「一人でやるつもりだったところに来たからだ」
二階堂「一日目の烏合の衆の中でまだマシな演奏をしていた連中が雁首揃えて来たなら手伝ってもらう方がいいだろう?」
二階堂の言葉通り、元々は一人でトルネンブラの退散を試みる予定だった。
成功率が非常に低いことは彼自身よく理解しており、それでもベストを尽くした結果が現状で、分が悪くとも可能性がゼロではないならやるしかない状況だった。
探索者への依頼はこの場の思い付きだが、探索者達の演奏は悪くなかったこと、狂人とはいえ人を見る目が確かな一条が頼ったなら悪い人間ではないと確信して依頼をしている。
二階堂への質問:何かお礼はある?
二階堂「……足元を見る奴らだ」
二階堂「何を望む? 内容によっては考えてやってもいい」
どんな内容であっても物言いは刺々しく、確約はしない。
しかし探索者の要求には可能な限り応えようとし、【13. エピローグ】にて渡されるだろう。
二階堂への質問:バイオリン対決を持ちかけていたことについて
二階堂「あいつ、サプライズにすると言っていた割に随分と口が軽いんだな」
二階堂「一条を止める場を作るための方便だ。対決を持ちかけたら断らないことは分かりきっていたからな」
二階堂「……もっとも、俺の目的など見透かした上でのことかもしれんが。かといって他に手段はない」
二階堂への質問:どうやって被害を抑えるのか?
二階堂「それはこれから説明する」
二階堂「他に聞きたいことが無ければそっちの話を始めるが、どうするね?」
質問がなくなると、二階堂はこれからやろうとしていることの説明を始める。
二階堂「いいか、相手は『生きた音』だ。肉体を持たない、空気振動だけの存在だ」
二階堂「どんな兵器も奴を追い払うことはできない。つまり奴に合わせた専用の武器が必要になる」
二階堂「目には目を、歯には歯を、音には音を(壁際に並んだ楽器に目を遣る)」
二階堂「奴に届き、奴が不快に思う音楽で以て追い払う。前例はないが、試す価値はある」
二階堂「普段の相棒に形状や奏法が似てるものを見繕ってやるから、諸君にはそれで演奏に慣れてもらう」
二階堂「一条の演奏は明日の昼。その時が『最初で最後のチャンス』だ」
二階堂「それまでに何としても演奏をある程度の形に整える。俺は他人の指導なんぞ苦手も苦手、大の苦手だが、まあ、ベストは尽くす」
二階堂「一条のような優しい優しい聖人君子を期待するなよ」
二階堂への質問:本当にそれで退散できるのか?
二階堂「理論的にはそうだが、本当に不快に思うかどうかは分からん。ぶっつけ本番で効かなかったらおしまいだ」
二階堂「一条に心配されるレベルで調べ上げて見つけ出した、俺が実現可能な唯一の手段がこれだ」
二階堂「他に勝算があるなら教えて頂きたいね」
二階堂の扱いについて
ここから二階堂が探索者達の味方として同行することになるが、二階堂は正気度喪失判定の対象外とすることを推奨する。
二階堂は探索者達のサポーターでありいざという時の命綱、シナリオを進行する役割も持つため、可能な限りKPがコントロールしやすい形で置く。
10. 深夜の特訓
深夜の特訓
依頼についての説明を終えた二階堂は、楽器の山から探索者達が持つ楽器に比較的似た形状の楽器を持ってくる。
ドラムやピアノなど持ち運びできない大きさの楽器を使っている場合、鼓笛隊が使うドラムやトイピアノのような似た形状の小型の楽器を渡されるだろう。
渡されたものは似た形状とはいえ異形の楽器。構えてみると違和感しかないし軽く音を出しても情けない音しか出ない。
二階堂「その状態からこれができるようになるまで、楽しい楽しい練習会だ」
二階堂はそう言って演奏する予定の楽譜を探索者達に見せる。
【古い楽譜】を見つけている場合、あれと似ているがその旋律は少し違うことに気付く。不快感が比較的少なく、なんとか馴染めそうなものになっている。
難易度自体はものすごく難しいと言う程ではないが、一からこれを演奏できるようになるのはかなりのスパルタだなという感想が出るだろう。
全員〈芸術/製作(楽器演奏系)〉を難易度ハードでロールする。
この場では二階堂の反応が少し違うだけだが、技能ロールに成功した探索者をKPはメモしておくこと。
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉に難易度ハードで成功する
二階堂「筋が良いな。オカルトの才能がある」
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉に難易度ハードで失敗する
二階堂「まあ、最初はそんなものだろうな」
小休止と会話
最初はたどたどしく奏でられた音は、二階堂の指導を経て次第に探索者達の意識した音に近づいて行くだろう。
練習を重ねているうちに夜は更け、深夜になる。
眠そうな探索者がいれば二階堂は容赦なく叩き起こし、自分の荷物からコンビニのおにぎりを出して探索者達に1個ずつ分けていく。
二階堂「合格点にはまだ遠い。今のうちに食べておけ」
おにぎりは二階堂が自分の食事用に持ち込んだもの。
一人で食べるには量が多いが、今日の夜食&1日目の演奏会が下らなくて途中で抜けた場合の昼食として多めに用意していた。
夜食を食べながら、二階堂は己の考えと探索者達への評価をぽつぽつと口にする。
二階堂「こういう、徹夜での練習はやったことがあるか」
二階堂「(探索者達の回答を聞いて)そうか」
二階堂「……俺の経験であり持論なんだが、『天才』というのはセンスの有無ではなく『それを楽しむ熱量の多寡』であると思っている」
二階堂「1日8時間練習したとして、義務感でやる奴と楽しんでやる奴は得られる経験値も継続力も異なってくる」
二階堂「一条は許されるなら嬉々として1日24時間練習する奴だ。音楽を楽しむためなら何だってする、根っからのイカれ野郎」
二階堂「そんな狂人であり音楽の天才が呼ぶ化け物。俺達が向き合うのはそういう相手だ」
二階堂「才能の有無はどうしようもないが、凡人であっても天才に食らいつけるだけの牙は研げる。俺がそうだからな」
二階堂「諸君がどういう人生を送って来たのかは知らんが、1日目の演奏を聞いて、確かな熱量を感じた」
二階堂「俺ができることは、今ここにいる全員ができる」
二階堂「俺はそう信じている」
悪夢
小休止を取ってからも夜通し続いた練習は、朝になってようやく終わりを迎える。
二階堂「……よし。やろうと思えばあと百は詰めれるが、こんなところだろう」
二階堂「よく付き合ってくれた。一条の演奏までまだ時間はあるから、仮眠を取ろう」
二階堂「空き部屋にベッドはある。適当に使って寝ろ」
二階堂「これ以上無理を通して練習するより、少しでも寝てコンディションを戻した方がよっぽどマシだ」
二階堂の提案を受けて、探索者達と二階堂は仮眠を取る。
PLが何らかの行動を望んだとしても、夜通しの練習で探索者達は疲労しており眠気が勝つだろう。
そうして仮眠を取っていると、探索者達は揃って同じ悪夢を見る。
あなたは闇の中にいた。
目を開けていても閉じていても代り映えのない空間には、音だけが響いていた。
フルートの単調な音と不安定なリズムで響く太鼓の音。
神経を逆撫でするようなおぞましく耳障りな音は、先程まで練習していた曲と似て非なるものであった。
あなたの音楽家としての鋭い感性は、不快な音の向こうに潜む何かの気配をも感じ取る。
この音を奏でる者、蠢くように踊る者……そして、それらよりも遥かに大きく、音に合わせて体をくねらせる何か。
あなたは反射的に息を呑み、身を固くする。
己よりも大きな生物と相対した時のような……いや、己の生命、社会、世界……全ての根底を握られているかのような恐怖。
「これは夢だ。そんなことが現実にあるはずがない」
あなたは耳を塞ぎ、真実から目を逸らし、ただただこの悪夢が終わることを願うことしかできなかった。
★正気度喪失【1/1D4】
そうして悪夢から逃避しているうちに、探索者達は目を覚ます。
二階堂も目を覚ましており、昨日以上に顔色が悪い。
全員が同じ悪夢を見ているようで、そのことについて話をしながら身支度を整え朝食兼昼食を取る。
二階堂「そろそろ時間だ。行くぞ」
死の気配
探索者達と二階堂は楽器を持って別館を出て本館へ向かう。
〈目星〉
本館への道から離れたところに何かが落ちている。
近付いて確認するならば、それはスズメの死骸であることが分かる。
しかし、その翼の片方はねじれ、もう片方は異様に大きい上に骨が突き出している。
自然にこのような姿になることはない。明らかに異常な死骸がそこにあった。
★正気度喪失【0/1】
スズメについて二階堂に共有する
二階堂「……この上は一条の部屋だったはずだ」
二階堂「『生きた音』の影響を受けた生物は異形となり果てることがある、と聞いたことはあるが……」
(スズメの死骸を見て目を閉じて小さく首を横に振る)
二階堂「行こう」
一条も異形化したのかと心配する
二階堂「異形になれば聴衆共が騒ぐだろう。それが無いということは、目立った変化はないということだ」
二階堂「今のところはな」
11. トルネンブラとの対峙
トルネンブラ招来
探索者達と二階堂が会場に踏み込むと、まさに一条がステージに上がりバイオリンを構えようとしていた。
聴衆達はさっと引いて探索者達に道を譲る。二階堂は当然と言わんばかりにカツカツと歩き、ステージに上がった。
一条「やあ、君達も来てくれたんだね」
一条「あれからどうしたんだろうと思っていたけど、二階堂と組むとは思わなかったな。どうしてそうしようと思ったんだい?」
一条「(探索者達の回答を聞いて)ふうん。なるほどね」
一条「……さて、ここからは僕と君達の演奏対決だ」
一条「先攻は僕が貰うよ。全身全霊の演奏を聞いてくれ」
一条はバイオリンを構え、弦に弓を添える。
一瞬の静寂の後に始まるのは陽気で軽やかな奇想曲。
様々なクラシック曲で聞いたようなフレーズが混ざり合うつぎはぎの奇妙な旋律。
演奏は徐々に速度を増し、不安定で予測できない、誰もが聞いたことのない曲調に変化する。
一条の穏やかな表情に反して、その弦が奏でる音は今や不協和音の塊だ。
その塊の奥底には何かを叩くような重いリズム。
明らかにバイオリンが奏でるような音ではない。
音程は滅茶苦茶で、技法も何もない。
それでも、何故かそれは「音楽」であった。
理解可能な理解不可能。
あなた達はその身と心で感じ取るだろう。
――見えずとも、そこに「生きた音」がいるのだと。
★正気度喪失【1D4/1D20】
ここで探索者が一時的狂気または不定の狂気に陥り狂気の発作が発生した場合、狂気の発作の内容は「演奏への執着」に固定される。
詳細は後述するが、基本的にはこの場から逃げ出さず演奏することに固執すると考えてよい。
二階堂「ッ……!! これが、そうか……!!」
二階堂「楽器を持て。俺はサポートに回る。やれるな?」
二階堂はバイオリンに似た楽器を構えて探索者達に声を掛け、それから一条の方を見やる。
一条「二階堂。君が対決のフリをして何かとんでもないことをやろうとしているのは知ってたよ」
一条「何をしてくるのか楽しみにしていたけど……演奏とはね! そりゃそうだ、僕達にはそれしかないんだ」
一条「これが最後の勝負だ。金賞はあげないよ」
二階堂「(大きくため息をつき、舌打ちをする)」
二階堂「……ずいぶんとまあ、悪趣味な課題曲にしてくれたものだ」
二階堂「一条の課題曲が神の旋律なら、俺の課題曲はそれを人間用に貶めた変奏曲だ。タイトルを付けるなら――」
二階堂「――君に捧ぐ変奏曲」
二階堂「君の足を引っ張って引きずり下ろすための書き下ろしで、今ここで揃えられる最高の演奏者まで連れて来たんだ。心して聞いていけ」
探索者達もまた各々の楽器を構え、トルネンブラの退散に挑む。
聴衆達は異様な状況に次々と逃げ出している。ここで行われる演奏を邪魔する者は、誰もいない。
トルネンブラの退散
トルネンブラの退散は戦闘ラウンドとして処理をするが、その流れは基本的な戦闘処理とは異なる。
トルネンブラは実体を持たない音であり、それ故にトルネンブラが放つ音波による攻撃は自動成功の全体攻撃として扱う。
探索者達は演奏を行いトルネンブラの音波を相殺し、凌駕して打ち勝たなければならない。
ゲーム的な処理は以下の流れで行う。
なお、特殊な流れではあるがあくまで戦闘であるため、プッシュ・ロールはできないことに注意。
1. トルネンブラが与えるダメージの決定
トルネンブラはコストとしてMPまたは耐久力を消費し、コストに応じたダメージを算出する。
詳しい内容については後述の「エネミーデータ:トルネンブラ」を参照。
2. 探索者達の奏法の宣言
探索者達はそのラウンドでどのように演奏をするか宣言する。
奏法に応じて下記の通りコストとダメージ量が変化する。
奏法 | コスト | 効果 |
---|---|---|
平静 | 4MP | 2D6ポイントのダメージ |
激情 | 6MP | 3D6ポイントのダメージ |
放棄 | なし | 耳を塞ぎ演奏を放棄する。ダメージは与えられないがトルネンブラからのダメージを半減(端数切捨て) |
支援 | 5MP | 二階堂のみ使用可能。任意の探索者の判定を1回だけ振り直す |
【10. 深夜の特訓】で〈芸術/製作(楽器演奏系)〉の難易度ハード判定に成功している場合、各奏法のコストとして消費するMPが-1される。
また、探索者が狂気の発作「演奏への執着」状態にある場合、奏法は「激情」で固定される。
二階堂は常に「支援」を行うが、状況によっては他の奏法を行わせても良い。この辺りはKP判断・PL提案による。
なお、MPが0になった場合はMPの代わりに耐久力を消費することが可能(ルールブックP.172)。
このルールを認識していないPLがいる場合は併せて説明しておくといいだろう。
3. 探索者達が与えるダメージの決定
奏法に応じたコストを消費した上で〈芸術/製作(楽器演奏系)〉をロールし、成功した場合は奏法に応じた結果が適用される。失敗した場合はコストを消費するだけで何も起こらない。
〈芸術/製作(楽器演奏系)〉でイクストリーム成功を達成した場合はダメージ量が最大となる。つまり「平静」の場合は12、「激情」の場合は18のダメージ。
4. ダメージの比較
トルネンブラが与えるダメージを探索者達が与えるダメージの合計値で相殺する。
相殺後の余剰分はそのままダメージとして適用される。
探索者側のダメージとなる場合は探索者達と二階堂の全員に適用され、逆の場合はトルネンブラにのみ適用される。
5. 戦闘終了条件
1~4の処理を行い、トルネンブラまたは探索者全員の耐久力が0になった時点で戦闘は終了する。
「1. トルネンブラが与えるダメージの決定」のコスト消費でトルネンブラの耐久力が0になった場合、その時点ではなくラウンド終了時に戦闘が終了する。
トルネンブラの耐久力が0になった場合は【12. 音が去った世界】、探索者全員の耐久力が0になった場合は【14. エンディング】内の「ED2:トルネンブラの退散に失敗する」に移行する。
備考:一条について
一条はこの戦闘処理におけるあらゆる対象から外れており、ダメージを与えることも与えられることもない。
その代わりに「5. 戦闘終了条件」を確認し戦闘が続行される場合、ラウンド終了時に一条の身体に以下の異変が現れる。
1ラウンド目終了時(第一段階) | 瞳の色が明るい茶色から鮮やかな虹色に、白目の部分が黒に染まる |
---|---|
2ラウンド目終了時(第二段階) | こめかみの辺りの皮膚が隆起し、触覚のようなものが生える |
3ラウンド目終了時(第三段階) | バイオリンと弓が床に落ちる。両腕が奇妙な形にねじ曲がり、それを重ね合わせることで歪んだ音を奏でるようになる。 |
4ラウンド目終了時(最終段階) | 全身が変形し、完全な異形の存在に成り果てる |
5ラウンド目終了時 | 戦闘終了条件を満たすため処理は発生しない |
戦闘終了時の一条の状態と二階堂の生死に応じてエンディングが分岐する。
最終段階の完全な異形の存在については「異形の神たち、下級の(マレウス・モンストロルム神格編P.43)」参照。
多様な風貌があり外見情報としては参考にならないが、一条はこれに近しい存在になっている。
備考:探索者の耐久力が0になりそうな場合
トルネンブラの攻撃で探索者の耐久力が0になりそうな場合、二階堂はひときわ強力な演奏を行いトルネンブラの攻撃を相殺する。
そのラウンドのトルネンブラの攻撃は無効化されるが、その代償として二階堂は鼻血を流し、血を吐いてその場に倒れる。
これ以降二階堂は戦闘に参加せず、戦闘終了後に二階堂は死亡する。
この戦闘は出目に左右されるところが大きいとはいえ、「支援」というカバー手段の存在と、幸運を消費することによる達成値の調整手段があることから、難易度自体は低い。
全滅を回避するための保険まであると緊張感に欠けると感じるなら、この処理はなかったことにしても良い。
備考:演奏に必要なコストが支払えない場合
コストとして支払えるだけのMPおよび耐久力が無い場合、耐久力を1まで減らした状態で〈芸術/製作(楽器演奏系)〉をロールし、成功した場合は1D6ポイントのダメージを与える。
それ以降は「放棄」のみ使用可能となる。
備考:他の人の耳を塞いだり覆いかぶさったりして攻撃からかばうことは可能か?
トルネンブラの音波は耳栓などで軽減はできるが、完全なシャットアウトは魔術的な手段でのみ可能。
そのため、他者の耳を塞ぐ、覆いかぶさる等を行った場合はトルネンブラからのダメージ半減(端数切捨て)のみ可能。
なおかつかばった探索者は次のラウンドで改めて楽器を構え直す必要があるため、〈芸術/製作(楽器演奏系)〉にペナルティー・ダイスが1個付与される。
NPCデータ、エネミーデータ
NPCデータは【04. NPC】からの再掲。
NPCデータ:二階堂 秀治(にかいどう しゅうじ)
ステータス | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
STR | 40 | CON | 50 | SIZ | 70 | DEX | 55 |
APP | 30 | INT | 60 | POW | 75 | EDU | 80 |
正気度 | 30 | 耐久力 | 12 | MP | 15 | 幸運 | 25 |
db | ±0 | ビルド | 0 | MOV | 7 | ||
技能 ※〈アイデア〉〈知識〉以外は50音順で記載 | |||||||
アイデア 60%、知識 80% 威圧 30%、聞き耳 70%、芸術/製作(バイオリン) 80%、芸術/製作(作曲) 50%、 信用 70% |
上述の通り、毎ラウンド「支援」を行う。
もし他の奏法を行う場合、消費するコストは記載通りのもの。消費MP-1は適用されない。
エネミーデータ:トルネンブラ
ステータス | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
STR | - | CON | - | SIZ | - | DEX | - |
APP | - | INT | - | POW | 300 | EDU | - |
正気度 | - | 耐久力 | 60 | MP | 60 | 幸運 | - |
db | - | ビルド | - | MOV | 音速 |
1ラウンドに1回強力な音波を放つ。
ダメージはコストとして支払ったマジック・ポイントに応じる。
例えば4MPを支払えば1D4、10MPを支払えば1D10、100MPを支払えば1D100のダメージになる。
このシナリオにおいては、1~3ラウンド目は20MPを、4~5ラウンド目は30MPをコストにする。
MPが0になった後はMPの代わりに耐久力を消費する。
つまり、どれだけ長くかかっても5ラウンド目が終了する頃にはトルネンブラは耐久力を消費し尽くして退散される。
もしも探索者の出目が良く4~5ラウンド目よりも前に耐久力が削り切られそうな場合は、上記のペースに従わずもっと早いタイミングで30MPをコストにしても良い。
12. 音が去った世界
トルネンブラの猛撃に応えるように探索者達の演奏が響き渡り、そして一条の手が止まる。
構えていたバイオリンが地に落ちる。二階堂と探索者達が演奏の手を止めると、周囲は完全な静寂に包まれるだろう。
参加者達は全員が逃げ出しており、この場には探索者達と一条と二階堂しかいない。
以下は二階堂が生存している場合の会話だが、もし二階堂が死亡している場合は会話の内容や描写を適宜調整すること。
1~4ラウンド目で戦闘終了した場合
一条はその場にへたり込む。
探索者達と二階堂が駆け寄ると、一条は強く睨みつけてくるだろう。
一条「どうして……どうして止めたんだ!」
一条「あれだけ色々調べたなら君達も見たんじゃないか? あれを起こしたらいけないんだ! 子守唄を奏でる人が必要なんだ!」
一条「僕だけじゃなくて、多くの才ある者達を連れて行かないと、そうしないと、もっともっとたくさんの犠牲が出る」
一条「これは才ある者の責務なのだと、頭の中でずっとずっと声がするんだ!」
一条「だから、そうしようとしていたのに……声が、聞こえなくなってしまった(俯いて顔を覆う)」
一条「僕は見捨てられたのか」
(探索者達のRPの後、二階堂が一条に語り掛け始める)
二階堂「……見苦しい。君は本当に一条なのか?」
二階堂「君は音楽さえできたらそれで良くて、面倒事を避けるために上っ面だけはやたら良くて、そうやって俺や他の奴の人生をぶち壊してきたクソ野郎だろう」
二階堂「それを全部無視して今更善人ぶろうとするなら、全力で引きずり下ろしてやる」
一条「……はは」
一条「音楽さえできたらいいのは確かだけど……僕がここまで来られたのは、どこまでも食いついてくる幼馴染がいたからだよ」
一条「君だって君が思う以上にクソ野郎だ」
二階堂「……は?」
一条「ごめん、疲れた。後はよろしく」
予想だにしなかった言葉に二階堂は固まり、一条はその場に寝転がって静かな寝息を立てはじめる。
探索者達は逃げたであろうスタッフを探す、救急車を呼ぶ等して事後対応に当たることになるだろう。
5ラウンド目で戦闘終了した場合
周囲が静寂に包まれると同時に、一条の姿が消える。
二階堂は疲れた体を引きずって探し回るが成果はない。
二階堂「……やっぱり、俺があいつを止めるなんてできるはずがなかった」
二階堂「凡人がどれだけ努力したって天才には叶わないんだ」
二階堂はしばらく俯いていたが、やがて探索者達の方に向き直って頭を下げる。
二階堂「改めて礼を言おう。一条は消えたが、それ以外に被害が無かったのは君達のお陰だ」
二階堂「ありがとう」
その後、探索者達と二階堂は逃げたであろうスタッフを探す、救急車を呼ぶ等して事後対応に当たることになるだろう。
演奏会の終わり
こうして演奏会は幕を閉じる。
一条の演奏で起きたことを気にかける者も多くいたが、誰もが真相を語らず、仮に語ったところで到底信じられるものではなく、謎は謎のまま皆の記憶に埋もれて行く。
一条と二階堂の今後については、戦闘終了時の一条の異変の段階および生存状況により以下の通り分岐する。
一条に異変が起きなかった(1ラウンド目で戦闘終了した)
一条はしばらくの休養の後にバイオリン奏者としての活動を再開する。
以前と比べて演奏に落ち着きがあり、それを成長と捉える者もいれば情熱の喪失と捉える者もいた。
しかしそれでも一条は変わらず天才であり、二階堂が彼を追い越すことはなかった。
一条の異変が第一段階まで到達した
一条はしばらくの休養の後にバイオリン奏者としての活動を再開する。
しかしどんな時もサングラスをかけ、それを外すことはなく、それ故にドレスコードが求められる正式な場に出ることはなかった。
二階堂は正式な場においては向かうところ敵なしではあったが、何らかの非公式の場で一条と競うことがあれば、やはり一条が勝っていたという。
一条の異変が第二段階まで到達した
一条はしばらくの休養の後にバイオリン奏者としての活動を再開する。
しかしどんな時もサングラスをかけて帽子を被り、それらを外すことはなく、それ故にドレスコードが求められる正式な場に出ることはなかった。
二階堂は正式な場においては向かうところ敵なしではあったが、何らかの非公式の場で一条と競うことがあれば、やはり一条が勝っていたという。
一条の異変が第三段階まで到達した
演奏会を最後に、一条は表舞台から姿を消す。
彼は人里離れた場所にある小さな別荘で隠遁生活を送り、世間的には行方不明の扱いとなっている。
二階堂は現在もバイオリン奏者を続けており、ごくまれに気が向いた時に一条と通話をしたり彼のもとに赴いているようだ。
一条の異変が最終段階まで到達した
一条は行方不明となり、ほどなくして二階堂はバイオリン奏者を辞した。
新進気鋭のバイオリン奏者を2人も失った衝撃は大きく、二階堂を引き留める声も少なくなかった。
しかし二階堂の意志は固く、やがて彼は作曲家・編曲家に転向し、その才を発揮することとなる。
一条の異変が第三段階以下、かつ二階堂が死亡している
二階堂は死亡し、ほどなくして一条はバイオリン奏者を辞した。
新進気鋭のバイオリン奏者を2人も失った衝撃は大きく、一条を引き留める声も少なくなかった。
しかし一条の意志は固く、やがて彼は作曲家・編曲家として細々と活動することとなる。
(※一条の異変が第三段階で戦闘が終了した場合は隠遁生活を送り、匿名の作曲家・編曲家として活動する)
一条の異変が最終段階まで到達、かつ二階堂が死亡している
一条は行方不明となり、二階堂は死亡する。
新進気鋭のバイオリン奏者を2人も失った衝撃は大きく、彼らがいた業界は暫くの間悲しみと混乱に見舞われるだろう。
13. エピローグ
概要
演奏会が終わってからしばらくして、一条や二階堂と再会して近況について語り合うシーン。
以下の描写は一条と二階堂の両方が生存し、一条が隠遁生活を送っていない場合のものだ。
一条が隠遁生活を送っている場合、彼はビデオ通話で会話に参加する。
もし一条が行方不明かつ二階堂が死亡している場合はエピローグそのものを省略する。
PLの希望があれば探索者達が集まって会話をするシーンを入れても良いが、この辺りはKP裁量になる。
一条と二階堂との再会
演奏会が終わり、探索者達もまた変わらぬ日々を送っていたが、ある時、二階堂から連絡が入る。
海外での仕事を終えて帰国する、一条も呼ぶから会えないかというものだ。
幸いにも彼が提示した日程と探索者達の休日は一致しており、2人と会うことになるだろう。
二階堂が指定したのは都内の高級ホテルのラウンジだ。
指定された時間に着くと、先にいた一条があなた達に軽く手を挙げる。
一条「久しぶり! 元気そうでよかった」
一条「二階堂ももうすぐ来ると思うよ」
そんなことを言っていると、カツカツと不機嫌な靴音を響かせて二階堂がやってくる。
二階堂「相変わらず仲良しこよしで結構なことだ」
二階堂は勢ぞろいした姿を見てフンと鼻を鳴らす。
給仕を呼んでクラブハウスサンドとコーヒーを頼み、メニューをテーブルに放り投げて「常識の範囲で好きなものを選べ」と探索者達に注文を促す。
探索者達が注文すると一条も「じゃあ僕もお言葉に甘えて、コーヒーとアイスクリームにしようかな」と便乗する。
二階堂は探索者達の注文は素直に給仕に頼むが、一条の注文には「諸悪の根源が厚かましいな」と顔をしかめるだろう。
しばらくするとそれぞれが注文したものが運ばれてきて、それらを飲み食いしながら互いの近況を話すことになる。
探索者達からの問いかけがあればそれに答え、それがない、あるいは話題が無くなれば二階堂から探索者達に問いかけや謝礼の手渡しが行われる。
二階堂からの問いかけ
二階堂「……あの後身体や耳に変化はないか」
探索者達および二階堂に後遺症はない。そのことを伝えると、二階堂はほっと息を吐くだろう。
二階堂「そうか、それは何よりだ」
依頼の謝礼
依頼に対して何かしらの報酬を要求していた場合、一条と二階堂は要求された報酬を用意して探索者達に手渡す。
特に何も報酬を要求していなかった場合、二階堂は探索者達それぞれに札束が詰まった封筒を渡す。
封筒をつき返そうとしても頑なに断り、探索者達に無理矢理持たせるだろう。
二階堂「あれだけのことをさせてタダ働きは俺の沽券にかかわる」
二階堂「理由を付けて突き返された方が困る。無償であんなことをするとか……」
(※そのような信頼を持たれる方が困る、と言いかけて言葉を濁している)
一条のこと(異変が起きなかった場合)
一条「何も変わりはないよ」
一条「あの音を聞き続けていると体が変になる可能性があったんだってね?」
一条「じゃあ、こうして僕が五体満足でいられるのは君達のおかげだ」
一条「ありがとう……と言えばいいのかな。ちょっと複雑な気持ちだよ」
一条のこと(異変が第一段階まで到達した場合)
一条「目は……うん、あの時変わったままだ」
一条「信頼できる医者に診せても匙を投げられてしまってね」
一条「でも、サングラスで隠して、もしバレても病気だと言い張ればなんとかなるものだよ」
一条「視界が虹色なのも慣れたしね。これはこれで綺麗で面白いよ」
二階堂「何でそれで平気なツラしてるんだ……」
一条の視界は元の色にうっすら虹色のフィルターがかかったような状態になっている。
現在はすっかりそれに慣れており、演奏に支障はないからとまったく気にしていない。
一条のこと(異変が第二段階まで到達した場合)
一条「目も頭に生えたものもそのままだよ」
一条「信頼できる医者に診せても匙を投げられてしまってね」
一条「目はサングラスで、頭も帽子を被っていればうまく隠せる」
一条「とはいえ公式の場に出るには説明が難しいから、活動は制限されてしまうけどね」
一条のこと(異変が第三段階まで到達した場合)
一条「この姿を誰かに見られたら大騒ぎになっちゃうからね、田舎で隠遁生活を送っているよ」
一条「そんなの無理なんじゃないかと最初は思ったけど、案外どうにかなるものだね」
二階堂「どうにかした君の実家の太さに感謝すべきだな」
一条のこと(異変が最終段階まで到達し、行方不明になった場合)
二階堂「傷口に塩を塗りこんで楽しいか? 素晴らしく凡庸で反吐が出る趣味だな」
二階堂「…………」
二階堂「嵐のような奴ではあったが、それに振り回されるのは悪くはなかったよ」
一条は今もトルネンブラを呼びたいと思う?
一条「思うよ。あの音は今はもう聞こえないけど、才ある者はあの楽団に加わるべきだ」
一条「でもそうする手段もないし、万が一やろうとしても君達が止めてくるだろう? だからやらないよ」
一条「それに、僕は頭がおかしい冷血野郎だけどね、君達と二階堂が命懸けで止めてくれたという事実を無碍にするほど薄情じゃないんだ」
二階堂のバイオリン奏者としての生活について(異変が第三段階以下まで到達した場合)
二階堂「稼げるようにはなったが、他の奴はどいつもこいつも張り合いがないな」
二階堂「精神的な充足感は、シルバーコレクターをしていた時の方が間違いなくあった」
二階堂「俺が張り合う相手は今も一条だ。機会があった時に聞く一条の演奏は今も色褪せていない」
二階堂の作曲・編曲家としての生活について(異変が最終段階まで到達し、行方不明になった場合)
二階堂「食うには困らず、こういう場所で知人をもてなせる程度には稼げている」
二階堂「バイオリンの演奏と比べるとつまらん仕事だが、苦痛ではない。多少なりとも向いているということだろう」
二階堂は何故バイオリン奏者を辞めたのか(異変が最終段階まで到達し、行方不明になった場合)
二階堂「…………」
苦虫を噛み潰したような顔をして、しばらくしてからため息をついて小さくこぼす。
二階堂「一条がいない世界でゴールドコレクターになったって仕方がないだろう」
一条の今の生活について(二階堂が死亡している場合)
一条「作曲や編曲の仕事をしているよ」
一条「幸か不幸か、そういう才能があったらしくて。ホラー方面にウケがいいんだ」
一条「慎ましやかな生活を送って、たまにちょっとした贅沢が出来るくらいには稼げているよ」
一条は何故バイオリン奏者を辞めたのか(二階堂が死亡している場合)
一条「僕は音楽さえできたらそれでいいと思ってたんだよ。でも、実際は違ったみたいだ」
一条「二階堂がいなくなってしまったら、なんだか張り合いがなくなってしまってね。自分の手足のようだったバイオリンが途端に重くなってしまった」
一条「バイオリンの演奏は楽しいよ。でも、それ以上に、二階堂と競い合うのが楽しかったんだろうな」
14. エンディング
ED1:トルネンブラの退散に成功する
【13. エピローグ】からの続きとなる。
一条が行方不明かつ二階堂が死亡している場合もエンディングの分類としてはここになるが、エピローグが省略されることに伴いエンディングの描写も省略される。
この場合、演奏会の顛末や一条と二階堂の結末を述べてシナリオ終了となるだろう。
会話がひと段落すると、二階堂が探索者達に問いかけをする。
二階堂は探索者達の回答を受け止め、探索者達の今後を祈り、シナリオは終了する。
もし二階堂が死亡している場合、一条が問いかけを行い、探索者達の今後を祈るだろう。
二階堂「……ひとつ聞く」
二階堂「俺は、真っ当な音楽性を否定するようなとんでもない災難に君達を巻き込んでしまったと思う」
二階堂「それでも、音楽を愛しているか?」
探索者が肯定的な答えをした場合
二階堂「そうか」
二階堂「せいぜい、その意志を貫いてみせることだな。気が向いたら見守ってやらんこともない」
二階堂はそう言って、小さく柔らかく笑った。
探索者が否定的な答えをした場合
二階堂「そうか。……申し訳ないことをした」
二階堂「君が、音楽に代わる新たな太陽を見つけられるよう祈っておこう」
二階堂はそう言って、探索者達に向けて静かに頭を下げた。
ED2:トルネンブラの退散に失敗する
圧倒的な音の暴力を受けて、あなたの手から楽器が落ちる。
一条が奏でる音以外は何も聞こえない――かと思いきや、ばつんと何かが切れるような音がして、耳から液体が伝う感覚がした。
嘘のような静寂が広がった。
視界が混濁し、意識も遠のいて行く。
――美しい旋律が聞こえる。
先程までの理解不能な暴力ではなく、優しく寄り添い、無償の愛を囁きかけるような音色。
目を開けると、極彩色のマーブル色に染まった会場の中で、一体の怪物がその音色を奏でていた。
ああ、ああ、なんと素晴らしい子守唄なのだ!
あなたは彼に縋るようにその触手を伸ばす。
探索者達は〈芸術/製作(楽器演奏系)〉を難易度イクストリームでロールする。
失敗した場合はそのまま死亡し、成功した場合は才ある者と認められて一条とアザトースの元に行くことになる。
失敗した場合
伸ばした触手は彼に届くことはなく、彼は神に連れられて行った。
行き場を失った触手はやがて床に落ち、あなたの意識もまた永遠の眠りに落ちて行く。
愛に満ちた子守唄は、最期の瞬間まであなたの脳裏に響き続けていた。
(探索者ロスト)
成功した場合
彼は振り返り、あなたが伸ばした触手を取った。
顔などないのに、彼が微笑を浮かべて歓迎していることは分かった。
ふと気づいた時には、あなたは宇宙の中心にいた。
周囲には己と似たような者達が美しい音楽を奏で、そのリズムに合わせてゆるやかに踊っている。
宇宙の中心に存在する「それ」の安らかな眠りのためにそうしているのだ。
彼もあなたも、その役割を果たすためにここに来た。
その身を動かして至上の音楽を奏でているうちに、人間としての意識も記憶もほどけて消えてゆく。
恐怖はなく、ただただ幸福だけがそこにあった。
「それ」が目覚めるまでの一瞬とも永劫とも言える時間を、あなたは子守唄を奏でて過ごしていく。
(探索者ロスト)
二階堂もこの場に存在するが、彼が才ある者と認められることはなく、必ず怪物と化してその場で死亡する。
彼がどれだけ努力しようとも、神に認められるような才能はない。
15. 報酬
報酬
生還
条件 | ED1到達 |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | 1D10の正気度ポイント回復 |
二階堂の生還
条件 | 二階堂が生存した状態でED1に到達する |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | 1D3の正気度ポイント獲得 |
一条の生還
条件 | 一条が行方不明になることなくED1に到達する |
---|---|
対象 | 全員 |
内容 | 1D10の芸術/製作(楽器演奏系)成長 |
遭遇した超自然の存在
全員「トルネンブラ」を記載する。
16. 利用規約・更新履歴
利用規約
こちらをご確認ください。
参考書籍
サンディ・ピーターセンほか(2019).『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』.株式会社KADOKAWA.
マイク・メイソンほか(2021).『新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム Vol.2 神格編』.株式会社KADOKAWA.
また、本編に深い関わりはありませんが、【09. 二階堂の部屋】の手記3に記載されている「無名の貧乏学生の手記」は、ラヴクラフト著「エーリッヒ・ツァンの音楽」をイメージしています。
連絡先
製作 | ミナカミ |
---|---|
HP | https://dara.sakura.ne.jp/ |
minakamiryu■infoseek.jp |
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更新履歴
2025/02/15 | 公開 |
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