ゾンビサバイバル 0日目
面白い。
とある地域で起きている事象は非常に興味深い。生還者の話をまとめたレポートを眺めながら、カイゼルは目を細めた。
ゾンビという絵空事の生物が現実世界に出現し、その地域に住まう人々を次々に襲い仲間を増やしている。
軍がゾンビを排除しているという話もあり、軍がその地域の人間をゾンビもろとも皆殺しにしようとしているという話もある。どちらにしろ、軍の正体は不明。
一部の生還者の話では、この事象に関する真実が眠る「館」があるという。館の中には凶悪な罠とゾンビがはびこっており、館の複雑な構造は入ったものを迷わせる。
「……まさか、現実にゾンビがいるとはね」
ゾンビそのものに興味はないが、ヒトがどのようにしてゾンビとなるか、その過程は知りたい。その方法次第では、無数の死者を優秀な下僕として扱える。わざわざ生きた人間を騙す手間もかからない。
「やっぱりゾンビ事件が気になる?」
いつの間にか真横にジョーカーがいて、ぬっと顔をつきだしてレポートを覗き見ていた。カイゼルはレポートをしまい、にこりと微笑んだ。
「今日、君を呼んだのもその為です」
「君には『館』に行って、その危険性を測定してきて欲しい」
「ああー、館ね。噂に聞いたことはあるよ」
ジョーカーはうんうんと頷く。彼は少し前にかの地域に足を踏み入れ、脱出ゲームで暇を潰したらしい。カイゼルがこの事件を知ったのも、彼の報告がきっかけだった。
「危険性の測定って、具体的にはどんな感じ?」
「何の特殊能力も持たない人間が、精一杯生きる努力をした上で『館』で何日間生存できるかを測定してきて下さい」
「つまり、『鍵』みたいなズルは無しで館に行って、何日で死ぬか確かめてこいと」
カイゼルは頷いた。
「ただ館をさまようのも退屈でしょうから、館内の情報収集もついでにお願いします」
「それ、カイゼルが知りたいだけじゃないの?」
ジョーカーはいたずらっぽく笑うがカイゼルは沈黙で答えた。
「……で、お駄賃は?」
「このお手伝いで潰せる『暇』こそ君にとっての駄賃ではないですか」
長い時を生きてきた彼にとって金銀財宝は無意味。彼が何よりも欲しているのは「暇つぶし」に他ならない。
「全くもう、相変わらず人使いが荒いなあ」
ジョーカーはやれやれと呟くが、その顔には笑みが浮かんでいる。その手には黒い大きな鍵が握られている。
「まっ、いいよ。暇だし。カイゼル様のご命令とあらば、この駄犬は喜んで死地に馳せ参じましょう」
ジョーカーは大げさにお辞儀をし、次の瞬間には白い霧を残してその場から消えた。
1日目
【休息】汚染されていない綺麗な川を発見。まさに命の洗濯だ。HP:+2(あなたのフォロワーも、24時間以内にリプライすることで1人1回ずつHPを+2できる)
(→館入り)【探索】館の中にはそこかしこに激闘の痕が刻まれている。何者かが戦ったのだろうか・・・幸い、破壊された壁を利用してスムーズに探索を進めることができた。探索度+1、食糧:-3
「あっ、いたいた。ラウルくーん!」
久しぶりに訪れたこの街で最初にした事は、知り合いを探す事だった。カイゼルから館について調べるよう言われたけれど、僕は正確な場所を知らない。前にここでサバイバルごっこをした時は館なんて見つけずに終わっちゃったし。だから、知人を当たって館の場所を知らないか尋ねるのが手っ取り早い。鍵であちこち飛んで調べまわるのも面倒だしね。
で、ラウルは意外とあっさり見つかった。普段の行いが良いからだろう。
「…………」
で、ラウルは相変わらず無愛想だった。普段の行いは……関係ないか。しかし女の子みたいな可愛い声を出したのに無反応とはどういう事だ。泣くぞ。
「ねえねえ、館の場所知らない? ていうか死にそうだけど大丈夫?」
「館の場所は知っている」
ラウルは口頭で館の場所を説明し始めた。と言ってもここからの方角と大体の距離を言うだけだから説明はすぐに終わった。
「ありがと。助かったよ」
「……館に行くのか?」
「うん。カイゼルの頼みでね」
ちょっとばかし死んでくるのだ、と大げさに言ってもラウルは「そうか」と返すだけだ。このノリの悪さは本当にひどい。凹むぞ。
「それじゃ、頑張って脱出してねー。死んだらカイゼルが困るし」
「頑張って死んでこい」
それは冗談の一種? と聞き返すのも面倒になってきたから、さっさと鍵を出して館へと向かった。
ラウルが教えてくれる情報はいつも正確だ。鍵を使って出た僕を出迎えたのは、禍々しくそびえ立つ一軒の館だった。
何か周りに落ちてないかと思って館の周りを探索してみたけど、見つかったのはきれいな水が流れる川だけ。それでもまあ、死ぬ前にひと浴び出来るんだから上出来かもしれない。
早速服を全部脱いで水浴びをした。あ、貴重なセクシーショットですよ皆さん。シャッターを下ろすなら今のうちですよ。健康な男の子の裸を見て興奮するのは健全な証で大変よろしいと思いますよ。オカズにされるのはちょっぴり恥ずかしいけどやぶさかではないよ。
水浴びを終えて濡れた体を乾かして服を着る。セクシーショットタイムは終了ですよ皆さん。後悔しませんね?
ともかくさっぱりした綺麗な体で僕は館に入った。こう言うと何か卑猥に感じ取れるよね。純潔を捧げるシチュエーションみたいな。
館に入って早々、派手に壊れた壁が僕を出迎えた。それどころかあちこちに弾痕やらひびの入った壁やらがあって、戦いの激しさが簡単に想像できた。こんな所に手ぶらで入るのはやっぱまずかったかな。でももう入っちゃったし。なるようになるだろう。
辺りを軽く探索してこの辺りの大まかな構造を把握する。とてもややこしくて迷いやすい構造の建物なのだろうと言う事はよく分かった。まあ別に迷っても構わないのだけれど。
それに、腐った肉や血と脂の匂いがあちこちからする。館の外でも似たような匂いはしたけれど、館の中はそれがまたより凶悪な感じがする。ここにはどんなゾンビがいるのだろうか?
「その辺も調査しながら散歩するかね」
ゾンビの外見にはどれだけのバリエーションがあるのだろうか。彼らと殺り合いながらそれを探るのも楽しいだろう。
気付けば僕は口笛を吹いていた。これはなかなか楽しい暇つぶしになりそうだ!
HP100 食糧97/探索1
2日目
【探索】中庭の倉庫でロケットランチャー(使い捨て。【戦闘】で受けるダメージ0。他にも使い道があるかもしれない)を発見。なぜこんなものが屋敷に・・・? 食糧:-3
パンパカパーン! ロケットランチャーを手に入れた! この手のゲームでラスボスを倒せると評判のロケットランチャーです! でも弾が一発しかないのは心細いね、でもロマンだね!! うーん……ザコゾンビに使うのも勿体ない気がするけど、温存しても重たいだけだしさっさと使おうっと。
HP100 食糧94/探索1/ロケットランチャー(戦闘ダメージ0・使い捨て)
3日目
【戦闘】油の撒かれた部屋でゾンビに囲まれた! 10のダメージ! もし手榴弾か火炎瓶を使用した場合、このダメージは0となるが代わりに引火で5のダメージ。食糧:-2
(→二十日さん宅八木さんのダメージ無効罠利用、八木さんにロケットランチャー譲渡)
何だか通路の奥が騒がしい。
人の声にしてはあまりにも意味をなさない呻き声と、何かが壁や床に打ち付けられる音がする。簡単に言えば、ゾンビが暴れているように聞こえた。
興味本位で音のする方に向かい、間もなく音の発生源である部屋を見つけた。部屋の扉は開かれており、ちらりと中を窺うと大量のゾンビが何かを取り囲んでいる。ゾンビとゾンビの間からちらちらと見える黒い服は、その場からあまり動かずに何かしらの銃器を撃っている。
「ピンチっぽいなあ」
たぶん、ゾンビに囲まれているのは人間だろう。何を撃っているのかは知らないけど、このままだと怪我をしてしまう。噛まれどころが悪ければ死ぬ可能性もある。初めて会う先輩様をむざむざ死なせるのも後味が悪い。僕はロケットランチャーを両手に抱え、静かに距離を取って、そして一気に駆けた。
「呼ばれて飛び出てー!」
勢いをつけて高く跳び、前方のゾンビに飛び蹴りを食らわせる。ゾンビは不細工な声をあげて倒れ、僕は華麗に着地をして黒い服の人の前で格好良くキメポーズを――ってあれっ。床が滑、あ、だめだこれ着地できない。
「ジャジャジャジャぁあああぁあああ……!」
何これ床が滅茶苦茶滑るんですけど。ていうかぬめぬめする。「ジャジャジャジャーン!」って言えずに床をぬるぬる滑って奥のゾンビにぶつかったんですけど。奥のゾンビがばたばた倒れてナイスストライクってか! ゾンビボウリングとか誰得だよ!
ロケットランチャーはいつの間にか僕の手を離れ、黒い服の人の足もとにぬるぬると滑っていた。
「…………」
黒い服の人は迷わずロケットランチャーを拾い上げて、それを僕の方に向けた。え。ちょっと待って。何で僕の方に向けるの。やめて死んじゃう。
「ちょっと待って落ち着いて話せば分かる僕は敵じゃないよお父さんゾンビさんとは清く正しいお付き合いを」
「邪魔ですどいて下さい」
黒い服の人はそれだけ言うと、ロケットランチャーを撃った。
いや、まあ、あの、死に物狂いで転がってロケットランチャーの直撃は避けられたから良しとしよう。僕がいた側から通路に出て逃げたくてゾンビを排除しようとしたのも考えとしてはアリだし良しとしよう。でもこのピッチピチのうら若い人間に向けてロケットランチャーを撃つとはあんまりではないですか! ドSなんですか! ドSは嫌いじゃないです! 抱いて!
ロケットランチャーの巻き起こす砂煙と爆音にくらくらしながらもそんな事を考えていた。僕の周りにいたゾンビは同じように倒れていて動く気配がない。しかしロケットランチャーの直撃を受けなかった方のゾンビの唸り声は聞こえる。
どうにかして逃げないと――と思った矢先、誰かの手が僕の首根っこを掴んで引きずり出した。
「ぎゃああ痛い痛い絞まるらめえ助けて逝っちゃううううう!」
「騒ぐ前にさっさと立って下さい」
あ、さっきの黒い服の人の声だ。首根っこを掴む手が緩んだので、さっさと立ち上がって並走する。背後からは生き残った(?)ゾンビ達が追いかけてくる。ロケットランチャーはもうない。
「ねえねえこれヤバくない? 何かいい武器持ってたり……」
「黙って走れ」
「こわーい」
並走しているとよく分かる。黒い服の人は小柄な男のヒトだ。僕だって決して身長は高い方ではないけれど、この人は僕よりも低い。小さいってのは可愛いのでとても良い事だと思います。でも眼鏡の下は仏頂面で可愛さ半減なのは勿体ないと思います。
この人、体のあちこちに包帯は巻いているし服もぼろぼろだ。走るのもなんだか辛そうで、早い話が死にかけに見える。
「ねえねえ」
「うるさい黙れ」
黒い服の人はそれだけ言うとじっと前を見据えた。僕もつられて前を見る。通路の先は真っ暗で何も見えないが、黒い服の人は迷わずその暗闇の中に突っ込んでいく。僕も、そして後を追うゾンビも暗闇の中に入る。
しばらく暗闇を走ると唐突に銃声が響いた。その直後がらがらがしゃんと大きなものが落ちてくる音がした。何が起こったんだろうと辺りを確認するよりも早くもう一発銃声が響き、僕の背後がにわかに熱を帯びた。
振り向くと、鉄格子が燃えていた。鉄格子の中には僕達を追ってきたゾンビが入っていて、炎に包まれて苦しそうに呻きながら鉄格子の中を暴れまわっている。最初の発砲を合図にして鉄格子が落ちてゾンビを閉じ込めて、次の発砲を合図にして燃え上がる。恐らくそういう罠で、隣に立つ黒い服の人が罠を仕掛けた張本人なのだろう。
「……あっつ! 熱いよ! 燃えちゃう! 油でヌレヌレだから余計によく燃えちゃう!」
「それはゾンビも同じ事です。よく燃えてくれている」
横を見ると黒い服の人の顔が炎で照らされていた。笑ったら可愛いんじゃないかと思ったけど、うっすらと笑みを浮かべるその顔はどう見てもヤバめの電波っぽいです。本当にありがとうございました。
黒い服の人は八木と名乗った。ゾンビを殲滅する為に館に入り、戦い続けていると言う。
「何かゾンビに関する情報は持っていますか」
「全然。来たばっかりだし。むしろ僕がやぎやぎに手ほどきしてほしいくらいだよ」
「……やぎやぎ……?」
やぎやぎの顔が不快そうに歪む。可愛いニックネームなのに、何が不満なんだろう?
「まあ、色々教えてあげなくもないです」
「本当!?」
「その代わり手持ちの食糧半分下さい」
「やめてくださいしんでしまいます」
結局、大したことは教えてもらえなかった。どうもやぎやぎは僕の事が嫌いなようだけど「存在がうるさい人っているんですね」と冷ややかな目で言ってくれた。
「やだ……そんなに褒めなくてもいいんだよ?」
「…………」
僕が照れると、やぎやぎは何も言わずに舌打ちをした。何だろうこれ。舌打ちデレ?
HP100 食糧92/探索1
4日目
【出口】巨大なハンマーじみた腕を持つゾンビに壁ごと吹き飛ばされた! 19のダメージ! 以降、ゾンビサバイバルに戻れる(館に再び来た時はもう1度出口を見つけること)。
ハンマーでぶん殴られるような衝撃に襲われて、気付けば館の外まで吹き飛ばされていた。あんなハンマーみたいな腕を持つゾンビがいるなんて! 全身がみしみし言ってるヤバい痛い運悪かったら折れてたよこれ! しかし偶然にも外に出られたけど、館にいないとダメだから戻らないとなあ……。
HP81 食糧92/探索1/出口発見済
5日目
【戦闘】古美術品の並ぶ部屋で肥満体のゾンビに遭遇、長く伸びる舌で攻撃してきた! 7のダメージ、さらに6のダメージ!(アイテムの効果や使用回数はそれぞれ別々に適用せよ)
その長い舌で僕に乱暴するつもりでしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! とか言う余裕もようやく取り戻してまいりました。出血こそ少ないけど左腕とか確実に骨にヒビ入ってるぐらいに痛いです。全身涎まみれで「館には勝てなかったよ……」とアヘ顔ダブルピースも晒せるレベル。
HP68 食糧92/探索1/出口発見済
6日目
【戦闘】古美術品の並ぶ部屋で肥満体のゾンビに遭遇、長く伸びる舌で攻撃してきた! 7のダメージ、さらに6のダメージ!(アイテムの効果や使用回数はそれぞれ別々に適用せよ)
(+まだナイさん宅柏木眞樹さん支援)
確かに昨日全身涎まみれで何たらかんたらとは言った。言ったけど、また長い舌ゾンビと出くわすなんてどういう事なの!? 君は僕に惚れたわけ? 種族を超えた愛を育みたいわけ? だからって無理矢理コトに及ぼうとするのはどうかと思うよ、逃げた今も全身痛いもん。あっ、貞操は守ったよ。
逃げた先には暗い廊下があった。何となく進んでみると檻があって、そこには知らないおじさんが閉じ込められていた。折角だから一緒に檻をこじ開けたけど、おじさんは微妙な顔でお礼を言ってきた。僕の何が不満だ。涎まみれの体か。それは僕も不満だ。早くどっかで水浴びしたい。
HP55 食糧92/探索1/出口発見済
7日目
【戦闘】広い浴室。濁った水の中からゾンビ化した魚が次々飛び出してきた! 6のダメージ、さらに6のダメージ!(アイテムの効果や使用回数はそれぞれ別々に適用せよ)
お風呂を見つけたから服を脱いで汚れを落とそうとするのは当たり前の事だ。そこを狙って魚ゾンビが襲ってくるなんてあんまりだ! 何とか倒す事は出来たけど、全身噛まれて出血がひどい。でも、服が切り裂かれてエロ衣装になる事も、股間が噛み切られる事も無かったのはラッキーかな、うん。
HP43 食糧92/探索1/出口発見済
8日目
【アクシデント】暗い廊下を進む君の前後で落下音。檻に閉じ込められた! 同行者がおらずフォロワーの助けも受けられなければ、脱出に時間がかかり食糧:-10。
(→phimaさん宅英一さんに助けて頂きました)
数歩先も見えない真っ暗な廊下の中を真っ直ぐに進んでいた。壁に手をつきながら歩いているのは、迷わない為と、そうした方が歩きやすいからだ。昨日浴室でゾンビ化した魚に襲われた時の傷は予想以上に多くて、出血量は多い。そのせいか、少し気分が悪くて足元がふらつく。単刀直入に言うと貧血気味だ。
「あーあ」
服にもしっかりと血が染みついている。お気に入りの燕尾服だったのに、こうなってしまってはいくら洗っても綺麗にならないだろう。体に傷が付くのは構わないけど、服は取り返しがつかないから困るんだ。カイゼルに洋服代をせしめるくらいはしても良いだろう。
壁に手をついて歩き続け、ようやく暗闇の終わりが見えてきた。明るい所についたらちょっと休憩するかな――と思った矢先、手が不自然な突起物を押した。かちりと音が鳴り、僕の前後でがらがらがしゃんと何かが落ちる音がした。数日前に聞いたような音で、咄嗟に辺りを見渡した。炎が上がる気配はないが、手探りで探索をしてみると案の定自分が檻に閉じ込められた事が明らかになった。
「ふっふーん、こんな時の……」
手品用のステッキを懐から取り出して高く掲げる。
「脱出ショー!」
しんと静まった空気が辺りを包む。やめてよこの冷めた空気。寂しさで殺しにかかってる。
「……なんて冗談は置いといて……」
ステッキをしまい、鉄格子を調べる。多分罠の構造自体は単純だろうけど、この暗闇の中だと解除には凄く時間と労力がかかりそうだ。貧血気味の体に鞭打つ鬼畜だ。この罠を仕掛けた人に謝罪と賠償を要求する。
しかし喚いても仕方がない。ため息をひとつついてからスイッチの前に立った。あんまり静かなので賑やかしの為に歌っておこう。
「あーるー晴れたー昼ー下がりー市場ーへ続ーく道ー……」
「ドナドナドーナードーナー……」
「……何てモン歌ってんだ」
悪戦苦闘しながら作業を続けていると、檻の外から人の声がした。寂しすぎてついに幻聴が聞こえたかと思ったけど「手伝おっか?」という声と共に檻を軽く叩く音が聞こえたので、どうやら幻聴ではないようだ。
……手伝う?
「――えっ、手伝ってくれんの? 頼むよありがとう大好き愛してる!」
声の主に向けて真っ直ぐに駆け寄り、檻に顔面からぶつかった。鼻血が出た。
手伝ってくれたのは、英一と名乗る同い年ぐらいの金髪の男の子だった。この近くの部屋を調査していたところ、陰気な歌が聞こえてきたから調査を切り上げてここに来たと言うわけらしい。
「途中で切り上げて来ちゃうなんて……えーちゃんはそんなに僕の美声が気になった?」
「あれ以上探しても部屋には大したモンなさそうだったしな。……つーか、聞く奴全員を呪いそうな声で歌っといてよく言うな」
それにえーちゃんって何だよ、と苦笑する。やぎやぎとは違って心が広い。爽やか系イケメンと見た。
えーちゃんは軍人さんで、人助けの為にここに来ているらしい。やぎやぎとも知り合いで、それなりに戦い慣れているらしい。持っているショットガンもとても使い込まれているように見える。
「何か武器は持ってんのか?」
「股間のグングニルぐらいしか」
「……つまり、丸腰だと」
「丸腰ってなんかエロい」
きゃあ、と両手で顔を覆うけどえーちゃんの反応はそっけない。何だよ、ノってくれてもいいじゃん。
「……どういう事情でここに来たのか知らねえけど、武器もないのにここをうろつくのはやめた方が良い。出口は知ってるか?」
「ああ知ってる知ってる。道もちゃんと覚えてるよ」
ハンマーゾンビに吹っ飛ばされた時にできた穴だ。あの一撃は痛かったなあ。痛みに喜ぶ暇もないって感じだった。
「じゃあ」
「心配はいらないよ」
えーちゃんが僕の身を案じてくれているのは表情や口ぶりで分かる。全身血まみれで貧血気味だとやっぱり弱ってるように見えるものなんだなあ。軍人さんなら余計に気になるのだろう。その気遣いはとても尊くて温かなものだ。
でも、僕に限ってはその気遣いはいらない。
「僕は絶対に死なないから」
えーちゃんは何か言いたそうだったけど、僕がにこにこと笑っていると「……本当に、本当にヤバくなったらさっさと逃げろよ。命あっての物種って言うだろ」と渋い顔をした。
「えーちゃんは良い人だねえ。僕が女だったら既成事実を作りに行ってるところだったよ」
「……お前みたいな女はイヤだ」
HP43 食糧92/探索1/出口発見済
9日目
【戦闘】雷鳴が轟き、全身に機械を移植された巨大ゾンビが実験台から起き上がりあなたを襲う! 12のダメージ! フォロワーの助けを得られれば探索度+1。食糧:-2
(+まだナイさん宅柏木眞樹さんより対ZV銃頂きました)
雷鳴! 実験台! そこに寝かされた全身機械だらけゾンビ! これだけフラグビンビンだと起き上がっても何の不思議もないよねー! いやでも丸腰でこんなの勝てるわけないです。逃げるっきゃないです。やっぱり武器はあったほうが良いのかなあ……。
とか思いながら逃げおおせた先で、何日か前に会ったおじさんと再会する。同じのは二つもいらないからと変わった形の銃をくれた。ゾンビには効果絶大のステキな銃らしい。「ありがとうマサちゃん!」とお礼を言うと「……マサちゃん……」と複雑な顔をした。なんだよう、何が不満なんだよう。
HP31 食糧90/探索1/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)出口発見済
10日目
【探索】館の中にはそこかしこに激闘の痕が刻まれている。何者かが戦ったのだろうか・・・幸い、破壊された壁を利用してスムーズに探索を進めることができた。探索度+1、食糧:-3
(+phimaさん宅辿助さんより救急箱頂きました)
館には至る所に戦闘の傷跡があった。五体満足な壁を探す方が難しい。これだけ傷ついても依然として立ち続けているこの館の頑丈さには感服する。これをどうにかしてブチ壊したらそれはそれで楽しいショーになりそうだけど、今はそんなに飽いてないから別に壊さなくてもいいか。
探索を進めるうちに、薬臭い部屋を見つけた。そこには辿助と名乗る同い年ぐらいの男の子がいて、余った救急箱を僕にくれた。えーちゃんの知り合いらしく、その心の広さはまさに「類は友を呼ぶ」を連想するものだった。えーちゃんもスケさんもかっこいいよね! 抱いて!
HP31 食糧87/探索2/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)救急箱(HP+10)/出口発見済