ゾンビサバイバル 21日目

【戦闘】同行者が突如苦しみだし、ゾンビ化して襲い掛かってきた! 噛まれていないはずなのに!? 【同行者】を1人失い、9のダメージ! いなければ何もない。食糧:-3
(→何もなし)

 全身が痛い。特に左腕が痛いけれど、治しようがないから耐えるしかない。耐えると言ってもそんなに辛い事でもない。痛みイコール生きてる証。これを感じている間、僕はまだ生きている。そう考えると痛みも気持ちよくなってこない? ああ、痛い、痛い、生きてる、痛い、きもちいい!

HP8 食糧57/探索4/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)救急箱(HP+10)/出口発見済

22日目

【戦闘】地下室で、鎖に繋がれたゾンビたちを目撃。中の一体が拘束された手を引きちぎり襲ってくる、9(フォロワーの助けを受けられれば7)のダメージ! 食糧:-2
(→二十日さん宅八木さんに助けて頂きました)

 階段を下りてみると地下牢のような場所に辿り着いた。土を押し固めて作られた壁は、触ってみるとひんやりと冷たい。それなりに年数が経っているのか、壁はところどころがひび割れていて、床には見た事も無い虫の死骸が散らばっている。
 壁には等間隔で鎖が垂れ下がっていて、ゾンビがそこに繋がれていた。僕を見てうーうー唸って鎖を揺らしているし、ゾンビとしての意思はあるようだ。ゾンビと僕の間にはかつては鉄の檻があったのだろうが、檻は無残に壊されていた。この部屋から逃げおおせたゾンビか、外部の誰かが破壊したのだろう。
「素晴らしいね」
 まるでゾンビの博覧会だ。ゾンビ達がギリギリ触れないほどの距離に座って彼らの様子をじっと観察した。腐臭が鼻を突く。腐肉の間から気味の悪い細長い虫が這い出す。辛うじてヒトの形をとどめている口から漏れだすのは意味のない呻きだ。
 なんて事は無いゾンビの風貌だが、こうして間近でゆっくりと眺めるのは初めての事だ。鞄から筆記具を取り出して、ゾンビの姿をスケッチする。下敷きも左手も無いのは描きにくいったらありゃしない。大雑把に形をとって、空いたスペースに文字で説明を書き加える。ミミズがのたうつような字になったけど、僕が読めたらそれでいい。
「あーあ、カイゼルにカメラでも借りておけばよかった」
 真面目に調査をするつもりは全然ないけれど、この暇つぶしの思い出作りにはなるかもしれない。作った所ですぐに忘れてしまうけれど。
 ペンをくるくると回しながらゾンビの様子を観察していると、目の前の一体が唐突に暴れ出した。があがあと喚きながら鎖を激しく揺らして、ついには両手首が千切れてしまった。ゾンビって、なかなか死なないくせに体は脆いんだよなあ。
 ともかく両手首が千切れて束縛から解放されたゾンビは、そのまま僕に向けて一直線に駆けてくる。僕はすかさず持っていた銃を――
「あ」
 持っているのはただのペンだ。ペンは剣よりも強しとはよく言うけれど、この状況ではそうも言えないだろう。いや、ペンは剣よりも強いけど銃よりは弱い、のかもしれない。これをどうにかしてじゃんけん的なルールにあてはめられないかなと思ったけど、銃はどう考えても剣よりも強いし、この条件だと剣が最弱です。本当にありがとうございました。
 向かってきたゾンビに向かってとりあえずペンを突き出した。ペンはゾンビの顔面に突き刺さったけど、怯む気配も無く僕に向けて腕を振るった。一切の手加減も無い一撃を喉に受ける。
(ああ、これは死ぬな)
 銃を手に取って撃つ暇も無く、呼吸が詰まって視界がぶれる。意識はふわふわと漂いながら離れていって、全身の痛みが快感にすり替わっていく。とても、とてもとても、気持ちいい。この快感だけは、死の直前でないと味わえない。
 病み付きになりそうな快感の中で、僕の思考は止まった。

 ……カビくさい。
 とろけるような快感に水を差すような臭いに僕は目を開けた。快感が痛みに戻り、僕はまだ館にいて「死んで」いないのだと気付いた。死んだのなら全身がこんなに痛むはずがないし、まずここに至るまでの状況を覚えているはずがない。
 目線だけを動かして辺りを探ってみる。随分ボロっちくて狭い空間みたいだ。天井には蜘蛛の巣が張っていて、壁にはよく分からない道具が乱雑に立てかけられている。このカビ臭さと言い、汚さと言い、長い間手入れされていない物置のようだ。
 ほんの少し身を動かしてみると、埃にまみれた棚の前で見慣れた黒い服の後姿があった。
「やぎやぎ?」
「目が覚めましたか」
 このまま目覚めなくてもよかったのに、と言いながらやぎやぎはこちらを向く。その手には紙の切れ端があって、やぎやぎは上着のポケットにそれをしまった。何か収穫でもあったんだろうか?
「やぎやぎが僕を助けてくれたの?」
「出くわしてしまったので、仕方なく」
「ありがとう、愛してる!」
 勢いよく起き上がってやぎやぎを抱きしめ――ようとしたけれど、起き上がった時点でバランスを崩してどさりと地面に倒れこんでしまう。
「今まで無茶してきた報いですよ」
 やぎやぎは心なしか楽しそうな声だ。ひどい。あんまりだ。でも助けてくれたしツンデレだ。
「……やぎやぎの……鬼畜……」
「何を言うんですか」
 やぎやぎは僕の目の前に荷物を置く。見覚えのあるそれは、間違いなく僕のものだ。
「あなたのような人に対してもこうして手助けをしているんです。鬼畜呼ばわりされる覚えはありませんね」
「じゃあ愛のあるドS」
「…………」
 ああんその冷たい眼差し! それこそドSの証! ありがとうございます!
 ……とは言わなかったけれど、僕の表情からそれを察したようでやぎやぎは大きく舌打ちをして物置を出て行った。舌打ちデレは健在みたいだ。よかった。

HP1 食糧55/探索4/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)救急箱(HP+10)/出口発見済

23日目

【休息】館内のものを利用して簡易トラップの製作に成功! 館内で次に引く【戦闘】ではあらゆるダメージを受けない(館内のフォロワー1人もこの効果を受けてよい)。食糧:-3
(→二十日さん宅八木さんにトラップ効果譲渡)

 カビくさい物置の中を探索してみると、ワイヤーと油が入った瓶を二本、それとライターを見つけた。単独だと武器にはなりそうもないものだけど、簡単な罠なら作れるかもしれない。物置を出て適当な場所を見繕って作業を始めた。この状態だと簡単な作業にも時間がかかるからヤダな。
 出来上がったのは、足元に仕掛けたワイヤーに獲物が引っかかると上方に仕掛けた瓶の蓋が開いて油が辺りに撒かれる。そんな罠だ。後はライターで火を点せば、罠を仕掛けた辺りはよく燃えることだろう。多少は使えるかもしれないし、余った分でもう一か所――裏庭にも同じ罠を作った。
 これでゾンビに襲われても安心! と思ったら、ふいに垣根の奥が騒がしくなった。見ているうちに垣根を突き破って飛び出してきたのはやぎやぎだ。続いて二体の大きなゾンビ。どう見てもピンチだ。罠のテストも兼ねて、助けてもらった恩返しと洒落込もう! 「やぎやぎカモーン!」

HP1 食糧52/探索4/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)救急箱(HP+10)/出口発見済【次に引く戦闘ダメージ無効】

24日目

【アクシデント】研究施設らしき区画。爆発の痕跡、その中心には何かの容器・・・凄まじい悪寒と体内の激痛! この場所はまずい! 探索度+2、HPが半減した(端数切り上げ)!
(→救急箱使用、6ダメージ)

 すっごく頭がふらふらする。一昨日死にかけた体だし、限界が近いのかなあ。荷物を漁って救急箱を取り出した。一般人として足掻くには、これを使うしかないだろう。やぎやぎの治療のやり方を思い出しながらやってみると、痛みは少しましになった。見よう見まねでも出来るもんだ。
 治療を終えて訪れたのは、研究施設みたいな場所だった。金属片が床に散らかっていて、黒い煤がそこここにこびりついている。その中でも大きな容器が一つだけ、無傷で残っていた。濁った水溶液の中を覗いてみようとしたけれど、ふいに体が痛んだから大人しく退散しよう。いのちをだいじに!

HP5 食糧52/探索6/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)/出口発見済【次に引く戦闘ダメージ無効】

25日目

【探索】焼け焦げた部屋でノートの断片を発見。『今夜決行す。私は大罪人として歴史に名を刻む。記録する者が残っていればの話だが。息子よ、愛している』探索度+1、食糧:-5

 肉が焼けた臭いが充満する部屋でノートの切れ端を見つけた。書いてある内容は要領を得ないけど、見る人が見れば手掛かりにはなるんだろう。鞄の中に切れ端を入れた。館に来てから見つけた資料も、体験した事を記した日記もこの鞄の中だ。
 次にゾンビに襲われたら死にそうな体調で日記を書くのも大変だけど、これをしないと後々面倒な事になっちゃうしなあ……。あーあ、さっさと五体満足の体に戻りたい。左腕が痛くて仕方ないんだって。

HP5 食糧47/探索7/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)/出口発見済【次に引く戦闘ダメージ無効】

26日目

【戦闘】廊下の先で何かを引きずる音・・・だんだん近付いてくる! 巨大なゾンビ蛇が君を丸呑みにしようと迫ってきた! 14のダメージ!(食糧10を捨てるならダメージ0)
(→罠を使用してダメージ0)

 廊下の角を曲がって出会ったのは、ヒトも余裕で呑み込めそうな巨大な蛇でした。
「……おおー……」
 ……縦笛持ってきておけばよかった! あっでもこの状態だと吹けないガッデム! いやでも片手で吹ける曲があればあるいは……とか考えてる間に蛇がじわじわこっちに迫って来てる!
 手元にあるのはゾンビ用の銃だけで、一発で蛇を仕留められるようなモノじゃない。お腹が空いてるなら食べ物をあげたら満足するかもしれないけど、もっと他に手段が無いかなあ……あ、あった。ひらめいた。ピキーン。
 蛇を刺激しないように、ゆっくりと後ろ歩きで来た道を戻る。僕の記憶に間違いが無ければ、あの場所はそう遠くないはずだ。
 口笛を吹いてみたけれども踊ってくれる様子もない。アレって実際の所笛の動きで蛇を刺激して威嚇させてるだけだから当たり前と言えば当たり前だけど、ノリの悪い蛇だなあ。蛇にノリを求めるなって話ですねすみません!

 後ろ歩きだと少しわかりづらいけど、目的の場所に辿り着いたようだ。窓の外から見える裏庭が何よりの証拠だ。
「蛇さんこちら、手の鳴る方へ」
 ぱんと大きく両手を打って、蛇から背を向けて走り出した。蛇が即座に反応して速度を上げてくるけれども、それこそ僕の思う壺!
「いらっしゃーい!」
 僕が今しがた跳び越えたワイヤーを蛇は思いっきり踏みつける。天井に仕掛けた瓶の蓋が開いて、油が蛇の体に降りかかる。その間に僕は懐からライターを出して振りかぶって第一球、投げました! 当たりました! なんということでしょう、あっという間に蛇が炎に包まれているではありませんか!
 蛇もやっぱり燃やされるのは痛いんだろう、辺りのものを全部壊す勢いで暴れまわっている。まあそうだよね。生きたまま焼かれるのは僕もあんまり好きじゃない。ヘンな臭いするし。
「……蒲焼にでもできないかなあ?」
 辺りを軽く見まわしてみたけれど、手頃な串もタレも無い。こんなにおっきな蛇の蒲焼は食べた事が無いから残念だなあ。そんな事を考えているうちに蛇は暴れるのをやめて死んじゃった。辺りには何とも言えない嫌な臭いに満ちていて、僕はさっさとこの場を後にした。ああ、罠を作っておいてよかった。

「それにしてもラッキーだったなあ」
 蛇と運命の出会いを果たした場所まで戻ってひとり呟いた。痛みや不快感でいっぱいのこの体で無事に罠の場所まで誘導して、火にかける事が出来た。気絶も怪我もしなかったのは奇跡に近い。
「ま、普段の行いが良いからこうなったのかな?」
 絶えず襲い来る痛みを感じながら、廊下の先へと進んでいく。ちょっと足元がおぼつかないけど、これはこれで悪くないものだよ。うーんキモチイイ。

HP5 食糧47/探索7/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)/出口発見済

27日目

【出口】巨大なハンマーじみた腕を持つゾンビに壁ごと吹き飛ばされた! 19のダメージ! 以降、ゾンビサバイバルに戻れる(館に再び来た時はもう1度出口を見つけること)。
(+ユツキさん宅ミラさんに食糧27譲渡、二十日さん宅八木さんに食糧20譲渡)

 何だか見覚えのあるゾンビさん、と思いきや館に来て間もない頃に出くわしたゾンビさんそのものだった。僕が初めて傷を負わされた相手で、ハンマーみたいな腕の一撃はとっても痛かった事はよく覚えてる。
 ゾンビさんも僕の事は覚えているのか、呻き声とも威嚇ともつかない声をあげてこちらに向かって突進してくる。殴られて吹き飛ばされる前に銃を撃とうとしたけれど、僕の右手から銃が滑り落ちた。
「あれ?」
 右手がうまく動かない。いつの間にこんなに衰弱してたんだろう? 銃を拾おうとかがんだ僕の目の前にゾンビの腕。
「あ」
 お腹にハンマーがめり込む。息が詰まって嫌な音がした。ゾンビさんが腕を振り抜いて血に塗れたハンマーが見えたのは一瞬の事で、僕の体は館の壁を壊して外に吹き飛ばされた。この館、本当に脆い所は脆いなあ。
 数秒間の空中遊泳の後、館の外の地面に乱暴に着陸した。というか落ちた。これで地面がふわふわのマシュマロなら楽しいんだろうけど生憎ただの土でした! 残念! 楽しくもないし痛いだけだ!
「あー、いたた……ゾンビさんったら愛が激しい……」
 地面に手をついて起き上がろう……としたけれど、手がピクリとも動かない。ああ、これはいよいよかなあ。津波のようにやって来ていた痛みも、少しずつ快感に変わってきている。
「……ああー……サイコー……」
 意識がふわりと宙に浮く。視界が少しずつ暗くなる。ああ、陽だまりで寝そべるよりも、手品で人を驚かせるよりも、えっちな事よりも、気に入った子をバラバラにするよりも……というか、生きている間に経験出来る事なんて比べ物にならない。
 ぼんやりとしか光が見えない。指一本動かない。呼吸ができているのかもわからない。木々のざわめきがやけに響く。この音が聞こえている間は僕は生きている。何も見えなくなって、聞こえなくなって、地面の感覚も分からなくなって、快感だけに満たされた世界が完成したら終わりだ。
「ふ、ふふ……あは、ははは……」
 しぜんと笑いがこみあげる。傍から見たら笑えているのかどうかわからない。けれども、この時、まちがいなく、ぼくはわらっていた。
――ああ、ぼくはなんて、シアワセなんだろう! こんなにキモチいいことを、なんかいもたのしめるんだ!
 いたい、しあわせ、きもちいい、ふわふわ、ひなた、きもちいい、いっちゃう、あはは、ぞくぞく、さいこう、きもち い

 * * *

「…………」
 ここはいったいどこなのでしょう。
 目の前には見た事があるようなないような、あやふやな屋敷。周りの木がざわめく音がうるさいし、左腕が妙に寒い……って何で左腕だけ袖が無いの? 半袖? 半袖なの? これが今時のファッションなの?
「……ええと……」
 とりあえず状況把握だ。ぽくぽくぽく。ちーん。
 僕はカイゼルの頼みで館に行く事になった。出発の前にフシチョーさんの血を飲んで、そこから先は……覚えていない。ただ何となく痛かったり楽しかったり苦しかったり気持ちよかった感覚はぼんやりと残っている。
 という事は、僕はあの館に行って、色々な体験をして、ここで死んだ。ハイ謎は解けましたスッキリ!
 傍らに落ちていた鞄は見覚えがある。中身を探ってみると食糧は減っていて、見覚えのない紙がたくさん入っていた。どうやら館で見つけた資料と、館で体験した事のメモみたいだ。やるじゃん僕。僕になら抱かれてもいい。
 カイゼルのお手伝いは終わったけど、帰る前にもう少し詳しく状況を把握しておいてもいいだろう。紙をまとめてぺらぺらと目を通していく事にする。

「よっ」
 紙束に目を通し終えてそろそろ出発しようかと思った頃、木陰から知らないお兄さんが現れた。白いツンツンヘアーが決まってるナイスガイはミラと名乗った。ショットガンと珍しい形の銃という重装備がよく似合ってる。
「この辺に人のよさそうな連中来てねえか?」
「見てないなあ」
 僕が死んでから生き返って意識を取り戻すまでの間に通ってたのなら気付きようがないけれど、目覚めてからは誰もここを通っていない。
「そっか……あーくっそー、あいつら絶対許さねえ……!」
 ミラは憎々しげに自分の拳をぱしんと合わせる。何かあったのだろうかと話を聞いてみると、ある集団に騙されて食糧をたくさん持ち逃げされたらしい。なるほどそれは大変だ。飢え死には気持ちよくなるまでが長いしあんまり好きじゃない。
「そう言う事ならこれでも持って行けば?」
 鞄の中に入っていた食糧を半分くらい出した。どうせもうすぐ帰るんだからいらないものだ。これで誰かが飢え死にから遠ざかるならあげたほうがいいんでない? 今は博愛的な気分だし。
「……いいのか?」
 ミラが眉をひそめながらも食糧を鞄に入れていく。
「君が来なかったら適当にバラまいて帰るつもりだったから、丁度良かったよ」
「サンキュな」
 にかっと笑うと辺りの温度がほんの少し上がった気がする。うーむ、ナイスガイってすごい。

 * * *

 さて、この館のどこにいるのでしょう。鍵を使ってあちこち適当にぶらついてみるけれども、お目当てはなかなか見つからない。
 メモを見る限り、僕はこの子に随分お世話になったらしい。ならば帰る前にお礼をするのが筋ってモノでしょう。いや決して嫌がらせしたいって訳じゃないよ。とっても楽しい子らしいけど嫌がらせがメインで会いに行くわけじゃないよ。信じてね。
 ぶらぶらするうちに辿り着いたのは薄暗い礼拝堂だ。さっきまで人がいた気配がする。もしやと思って礼拝堂を出て辺りを見回してみると、黒いコートの後姿があった。うん、多分あの子だ。
「やぎやぎー!」
 大声で名前を呼ぶと、黒いコートの子は億劫そうに振り向いた。ああ成程、確かに可愛い顔つきを台無しにする無愛想さだ。
「貴方で――」
 やぎやぎは中途半端に言葉を留めて、目を見開いて僕を見る。どうした、僕がそんなにイケメンに見えるかありがとう。泣いて頼むなら抱いてあげてもいいよ。
「……その、腕は?」
 そう言って指差してきたのは僕の左腕だ。何の変哲もない左腕がどうしてそんなに気になるの?
「このナマ腕がどうしたの? セクシーで欲情しちゃった?」
 首を傾げる僕の眼前にやぎやぎの銃が突き付けられる。あ、やぎやぎの銃って言ってもやらしい意味じゃなく。大体体勢的に眼前は無理だし。
「……能天気に館をぶらついていたのも死なないからか?」
「はい?」
「ふざけるな」
「ふざけてないよ、真面目だよ」
 真面目にふざけてるだけだ。
「どうしたのやぎやぎ、顔が怖いよホーラいい子いい――」
「触るな!」
 頭を撫でてあげようとしたら乱暴に払いのけられた。同時に銃が発砲されるけど、飛び出してきたのは弾丸じゃなくてアンプルだった。額に突き刺さったアンプルは頭蓋を貫通して脳をかき回すほどの威力じゃない。半端な痛みは痛いだけだからどうせなら実弾の方がよかったなあ。
 人殺しに向かない銃だってことを失念してたのか、やぎやぎは凄く驚いた顔をしていた。なかなか嗜虐心をそそられる。やぎやぎは僕の左目をアンプルで撃ち抜いて、すぐに銃を捨てて廊下に落ちていたコンクリート片を手に取った。ていうか左目撃つとか何気にひどい。目潰しはご法度ってモノでしょう。アンプルの中の得体の知れない薬も体に入って来てるしさあ。ちょっと減点。
「善良な一般人にこの仕打ちは無いんじゃない?」
「どこの誰が善良な一般人だ」
 それだけ言うとコンクリート片で僕の側頭部を殴った。それはもう容赦なく。脳がぐらっと揺れて床に倒れると、やぎやぎは僕の上に馬乗りになって間髪を入れずにコンクリート片を打ち下ろす。馬乗りってシチュエーション自体はエロいのにこれはひどい。殺す気満々ではありませんか。
 すぐに右目も潰されて何も見えなくなったけど、やぎやぎが「馬鹿にするな」とか「化物が人間のふりをするなんて虫唾が走る」とか恨み言のような事を呟いているのは聞こえた。どうやらやぎやぎは、僕みたいな体質のヒトはお嫌いらしい。言葉にも、コンクリート片を振り下ろす手にも、体温も、全てが怒りの熱量を帯びている。もっと正確に言うと、怒りと――恐怖?
 ふふっ、僕の何がこわいんだろうね? こーんなにイイコなのにさ!

――僕は今、この子に殺されまくっているらしい。黒いコートを着た子が僕の上に馬乗りになってコンクリート片を握りしめている。その子の様子や、ぼんやりと残っている撲殺された記憶がそれを物語っている。
 あちこちに包帯を巻いたその体だと、コンクリート片を振り回すのもさぞかし疲れる事だろう。そろそろ殺人ループから抜け出させてあげるのが人情ってものかもしれない。
「気が済んだ?」
「誰が」
 彼の手がぶるぶる震えている。ああ、やっぱり限界みたいだ。おおよしよし、よく頑張った。無駄な努力だけど。
「そろそろ休みなよ」
 影から鍵を取り出し、底面で彼の腹を打つ。彼は小さく呻いてがっくりと力なく倒れた。この程度で倒れるなんて本当に追い詰められてるんだなあ。
 倒れた彼を押しのけて立ち上がって、僕の鞄の中身を点検した。見慣れないメモを読むと彼がやぎやぎと言う事、帰る前に彼にお礼をすると言う事が書かれていた。ああなるほど、それで会ったはいいものの殺されまくったって訳ですね。
 僕は鞄から残りの食糧を全て取り出してやぎやぎが持つ食糧の中に混ぜ込んだ。あの様子だと普通に渡しても受け取ってもらえるはずもない。同じようなパッケージのものだし、こうして混ぜ込んでおけば食べざるを得ないだろう。我ながらグッドアイディア。
 すっかり軽くなった鞄を肩に引っ掛けて辺りを軽く巡回する。気絶するやぎやぎがゾンビに襲われたらお礼が台無しだから、近くにいるのは倒しておこう。鍵を使って倒すとあちこちに肉片が飛び散るから景観は損ねまくるけど、そこはご愛嬌って事で。
「……よしっ」
 これでバッチリだ。ああ、僕は本当いい子だなあ。カイゼルのお手伝いもちゃんと果たして、一瞬だけの知り合いにこれだけ尽くしてあげている。嫌われるのは悲しいけれど、長く付き合うわけでもないし気にはならない。
 鍵を空中に突き刺す。白い霧が溢れ出して世界の境界があやふやになる。白い霧に包まれると、家に帰ってきたなって感じがする。ああ、これはフシチョーさんに良い土産話が出来たかな?
「――ただいま」

HP0 食糧0/探索7/対ZV銃(対ゾンビ戦闘ダメージ-4)/出口発見済
【DEAD END】

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