空の旅人 挿話「青い鳥」
二十名程度の小さな集落の住民は、全員が私達に対して親切だった。怪我が治るまでここに滞在したいと申し出ると二つ返事で許可が下り、それどころかこの集落が気に入れば移住すればいいとまで言われた。寝る場所や生活用品、そして食事まで準備され、その代金分ぐらいは働こうと思い手伝いを申し出ても「怪我人は完治するまで大人しくするのが一番の手伝いだ」と断られる始末だ。
私の怪我はごく軽いもので、全身に鈍い痛みこそあるが目立った外傷は無く、治療は湿布を張るだけで事足りた。ガルバートもどうやら外傷は無いようで、食事と睡眠を取らせたら立ち上がって歩けるようになり、湖のほとりから私達が寝る場所として借り出された家の前まで移動した。相変わらず人見知りで集落の住民にはさっぱり心を開かないが、誰が来るとも分からない湖のほとりに待機させておくよりかは良い。
最も怪我が重かったのはラウルだった。銃創と骨折の治療は真っ先に行われ、一命は取り留めたが丸二日は医者の家で眠り続け、三日目の朝になってようやく意識を取り戻した。
「……ここは?」
「空の底、らしいですよ」
私は薬草採りの男からざっくりと教えてもらった内容を説明しようとしたが、その直後「ラウルさんが目を覚ましたんだって!」と張本人が飛び込んできた。肩には相変わらず青い鳥を乗せている。
「ああよかった! 二日間も寝てたからこのまま目を覚まさないんじゃないかって心配したんだ!」
男はラウルの肩を叩こうとしたが、そこに巻かれた包帯を見て手を引っ込めた。嬉しそうな男とは対照的に、ラウルは無表情にじっと肩にとまる鳥を眺めている。
「……その、鳥は」
「僕の相棒だ。青い鳥なんて実在しないと思ってたけど、こんな所に住んでたんだよなあ」
男が人差し指を差し出すと鳥はその指の上に移動する。ラウルが半身を起こして男を真似て人差し指を差し出すと、鳥は何の躊躇も無くラウルの指の上に移動してぴいと鳴いた。
「ラウルさんのことが気に入ったみたいだ」
「……驚いたな」
全く驚いているとは思えない声でラウルは呟き、鳥の頭を軽く撫でた。
「ここはどこなのか、お前達は何者なのか、教えてもらえるか」
鳥を男の肩に戻し、ラウルは真っ直ぐに男の顔を見据えた。男はその視線に動揺する事もなく、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「お安い御用だ」
この集落の住民は元々、とある国のとある事業――最新鋭の飛行船に乗り、空の底を探すと言う事業の元に編成された集団だった。当初は百を越える大人数での航行だったが、旅を重ねるにつれて空賊の襲撃で命を落とす者や、食糧難でやむを得ず降板して近隣の国に移住させられる者が現れて人数は次第に減っていった。
暴風に襲われてここに墜落した時、乗組員は五十名程度にまで減っていた。その乗組員もこの事故で半数以上が命を落とし、生き延びたのはここに住む二十名だけだった。
墜落の衝撃で飛行船は使い物にならなくなり、彼らは修理に使える物が無いか辺りの調査を開始した。間もなく地質が今まで訪れた島々とは全く違う事、そして、大地はどこまでも続いている事から、ここは途方もなく巨大な島か、あるいは――
「ここが空の底なんじゃないか、って意見はすぐに出た」
確証があるわけではない。地質は生態系が大きく異なるだけで、単なる一風変わった巨大な島なのかもしれない。しかし、厚い雲と暴風に覆い隠されて訪れる事も困難なこの地は空の底と言ってもいいような気がした。
彼らは空の底の発見に喜び、壊れた飛行船を仮宿として辺りの調査をより詳しく行った。その結果、この地は一生の生活に困らない程の豊富な資源を有している事が分かった。食用に利用できる動植物が数多く生息し、人間の天敵となるような存在も無い。あちこちに彼らと同じような目に遭ったと思われる飛行船の残骸があり、そこを漁れば日用品には事欠かない。桜咲く美しい世界は、何もかもが満ち足りていた。
「何の心配もしなくていい、まさに桃源郷と言ってもいい場所なんだ。ここは」
「……だから、国に帰って報告をする事も無くここで暮らし続けている?」
ラウルが先手を打つと「その通り」と男は頷いた。
飛行船を直して、あの暴風に負けないよう動力を強化すればここを出て国に帰ることも出来ただろう。しかし、報告をして得られるものを考えると、誰も飛行船を直そうとしなかった。それどころか、開けた場所に家を作ろうと土台を作り始める始末だった。
「報告をして得られるのは、一生安心して暮らせるとは言い難い額の賞金と、腹の足しにもならない名誉だ。そして、空の底には大勢の人々が押し寄せて資源を奪い尽くしていく。この理想郷を差し出して得られる対価としては最低だと思うね」
二十人と言う少人数だからこそ空の底は理想郷でいられる。いたずらに触れ回って住人を増やせば、それだけ一人当たりの資源量は減り理想郷から遠ざかっていく。
「お前達以外に住人がいる可能性は?」
「会えてないだけで、いるだろうね。でも、こうして平和で満ち足りた状態なんだから、彼らも僕らと同じような考えだと思うよ」
「だろうな。それじゃあ、この鳥はどういう経緯で見つけたんだ」
「どういう経緯って言われても……この辺りには沢山いるよ。それこそ、上の世界で言うスズメみたいに」
初めて見た時は驚いたなあ、と男はしみじみと呟く。おとぎ話のような存在の青い鳥が、こんな場所にスズメのように沢山いるのだ。餌を与えれば人間にすぐに懐き、肩にとまってぴいぴいとさえずる。信じがたい光景だ。
「……なるほど。大体分かった」
「色々気になる気持ちはよく分かるけど、ラウルさんの場合はまず怪我を治してからだね。先生の許可が出たら松葉杖で集落の中を歩くくらいは出来ると思うけど、とりあえずは安静に」
ラウルは左足に装着されたギプスを一瞥して、頷いた。
「……そういえば、一つお尋ねしたい事があるんですけど」
「なんだい」
男達の出自を知った時から、そうであれば面白いなと思っていた疑問が頭をもたげていた。
「旅をしていた時、食糧難で近隣の国に移住した人もいる、と仰ってましたよね」
「うん。それが何か?」
「目が見えなくなってしまって、占い師として移住した人もその中にいましたか?」
以前とある国で出会った、自らを占い師と偽って生活していた男の顔を思い出す。彼は確か、元々は空の底を探す集団の一員だったはずだ。
「ネムか! 君達はネムと出会ったのか!」
男は目を見開いて驚き、そして嬉しそうに笑った。
「世間は狭いですね」
なんという偶然だろう。私も男につられて笑い、彼が今も平和に暮らしている事を告げた。
* * *
「……なんか、夢みたいですねえ」
ちらほらと桜の花弁が舞い、青い鳥が地面にまかれたパンくずを一生懸命につついている。穏やかで牧歌的な空気を吸っていると心が洗われる気がする。
私とラウルは集落内のベンチに座り、桜と青い鳥を見物していた。昼食用にと持たされたサンドイッチは素朴な味がした。
ラウルは青い鳥をじっと見つめ、時折手の上に載せてその羽毛を指で撫でた。ラウルはよく彼らに餌をやっており、彼らからも顔を覚えられたのか外出するとどこからともなく青い鳥が現れてラウルの頭や肩にとまった。
「青い鳥、好きなんですね」
少し意外ですと呟くと、ラウルは手の平に載せていた青い鳥を地面に戻してゆっくりと瞬きをした。
「青い鳥を見つける為に、旅をしていたからな」
「それはまた」
ロマンチックな目的ですね、と言いかけた口を慌てて閉じて「どういう理由で」と言い換えた。
「昔、兄貴と旅をしていた。兄貴の旅の目的が青い鳥を見つける事だった。だからだ」
ラウルの実に簡潔な説明を咀嚼し、兄が亡くなったのを機に目的を継いで旅を続けたのだろう、と理解した。
「お兄さんはどんな人だったんですか?」
「自称、正義の泥棒」
正義と泥棒は相反するものではないか? と私が眉間にしわを寄せたのを見てかラウルは説明を加える。
「悪い事をしている金持ちから金品を盗むことで制裁を加えるんだ、とよく言っていたな」
「いや、制裁にしてもそういう犯罪じゃなくて、もっと他の手段があるんじゃないですか」
「ああ、罪悪感を減らすための言い訳だ。実際の所は正義でもなんでもないし、結局は盗んだものが原因で死んだからな」
あっさりと「死んだ」という言葉が飛び出して私は相槌の言葉を失う。ラウルはこの事について全く気にしていないのだろうが、私はそれ以上この話題を続ける事が出来ず違う方向に質問を投げる。
「旅の目的、達成しちゃいましたね」
「そうだな」
青い鳥をじっと見て、ラウルは静かに頷く。
「これからはラウルさんの好きな事で気ままに旅が出来ますね」
「好きな事」
ラウルは初めて聞いた単語のようにその言葉を呟き、鉄仮面のような無表情と温度の無い言葉で「そうだな」と相槌を打った。
ざあっと強い風が吹いて、地面に落ちていた大量の花弁が舞い上がる。花弁に紛れてラウルもふっと消えてしまいそうだな、と何となく思った。
私達が落とした旅荷物が、ここから少し離れた場所で見つかったらしい。狩りに出た住民が偶然発見し、集落まで持って帰って来てくれた。左足のギプスや包帯で動きが取りづらいラウルに代わって荷物を点検する。落下の衝撃で鞄の中身はぐちゃぐちゃになっていたが、大半はまだ十分に使える。
「これなら怪我が治ったらすぐに旅に出られますね」
嬉しそうに呟く私の様子を見て、荷物の検分を見守っていた薬草採りの男が「ここを出るつもりなのかい」と意外そうに言った。
「私の旅の目的は美味しいものをたくさん食べる事です。ここの料理もすごく美味しいのですが、まだ見ぬ美味が私を待っているのです」
「上の世界は醜い争いばかりで危険だよ。料理の為だけに命を危険に晒してもいいのかい」
「愚問です」
「……そっか。それじゃあ、一つだけお願いだ」
男が言いたい事は分かる。「大丈夫ですよ」と先手を打って微笑みかけた。
「ここの事は他言しません。というか、私達のようなただの旅人がここの話をした所でホラ話としか受け止められないでしょう。安心してください」
空の底は資源に恵まれた楽園で、青い鳥が住んでいる。何の根拠もないが広く流布している空の底のあり方と酷似したその真実は、仮に口にした所で信じてもらえる事は無いだろう。男もそのことが理解できたのか、「そういやそうだ」と笑った。
「ラウルさん、これからも引き続きご教授お願いします」
「……ああ」
呟くように返事をするラウルの様子はどうも上の空で、やはりふっと消えてしまいそうな感じがする。何の根拠もない動物的直感に過ぎないのだが、少し胸がざわついた。
* * *
桜の花弁が散り、若々しい緑の葉が集落を囲うようになった頃、ラウルの体に巻かれた包帯と左足のギプスは外された。ガルバートもすっかり元気になり、集落の住民とも馴染んで威嚇をする事も無くなった。
私とラウルは、あの湖のほとりに立っていた。すぐ隣にはガルバートも待機しており、背には旅荷物が暴風にも負けないようしっかりと括りつけられている。
「それじゃあ、行きましょうか」
この平和な世界から飛び出すのは少し勿体ない気もするが、美味しい料理の為だ。私はぱしんと両頬を叩いてガルバートの背に乗ろうと一歩踏み出した……が、ラウルの一言がそれを制止する。
「フォルテ、その前に少し話がある」
振り向くとラウルは湖のほとりに座り、水面をじっと見つめている。
「何でしょう」
ラウルの隣に座り手頃な石を水面に向かって放り投げる。石は一度だけ水面を跳ね、水中に沈む。
「俺とお前の取引内容について」
ラウルは私の顔をちらりと見て、再び水面に顔を向ける。
「俺はお前に旅の知識を教える。お前はガルバートを用いて俺の旅の足となる。それで間違いないな」
「……はい」
忘れるはずもない。
「お前には一人旅に必要な知識は既に教えたし、それを実践するだけの技量もある。つまり、お前が俺を乗せた所で、もうこれ以上払える対価は無い」
「……え……?」
払える対価は無い。つまり、私とラウルが行動を共にする理由が無くなった。彼が言いたいのはそういう事だろう。
「……だ、だとしても、ラウルさんが一人で旅をする為の船を用意しないと駄目ですよね? その間ぐらいは」
「俺が旅をする理由は無くなった」
私の反論をラウルは一言で撥ねつける。
「大体、一人旅が出来るとしてもラウルさんと比べると知識も技術もまだまだですし」
「今まで教えた事を応用すればすぐに追いつける」
「ラウルさんの旅荷物も無事なんですし」
「売って金にすればいい」
「ガルちゃんもラウルさんに懐いてますし」
「取引とは無関係だ」
いくら反論を重ねてもラウルは頑として首を縦に振らず、淡々と反論を否定していく。旅をする目的も無く危険な世界に戻るのは確かに馬鹿馬鹿しい。これが他人事なら、私も素直にその選択に共感できただろう。
しかし、私はラウルの冷たい態度にいささか腹が立った。
「……分からず屋」
ぽつりと不満が一言こぼれると、一気に感情が溢れだす。
「バカ! 無神経! 冷血漢! 分からず屋! 取引マニア!」
目尻に涙が浮かび、ラウルの肩を力任せにばしばしと叩く。
「フォルテ」
「うるさい! もーラウルさんの理屈は聞きません! このまんまラウルさんがここに住むって言うのなら、私は駄々こねるガキに成り下がってやりますよ! もう!」
滅茶苦茶な事を言っているのではないか、と私の中の冷静な部分は警鐘を鳴らしたが、あえなくその警鐘も感情の波に飲み込まれてしまった。目尻に溜まった涙はいつの間にか決壊を起こしており、ぼろぼろと涙がこぼれてくる。鼻水もずるずると垂れてきており、ラウルから見るとそれはもうひどい顔になっているのだろう。
「嫌ですから! ラウルさんがここに残って私だけ旅に出るなんて、断固許しません! ラウルさんやお天道様が許そうとも私は絶対に嫌ですから!」
手元にあった石を乱暴に掴み、湖に投げつける。ばしゃんと大きな音を立てて水飛沫が散る。
「私はラウルさんと一緒に旅がしたいんです! 今まで通り、ラウルさんと一緒に色々なものを見て、美味しい料理を食べて、沢山笑いあいたいんです! 取引とか対価とかそんなのどうでもいいです。ラウルさんが傍にいてくれたら私はそれで充分なんです!」
「……笑いあった覚えはないな」
「そこは私の希望的観測、もとい妄想です!」
「随分とまあ、正直に」
正直に。ラウルの落ち着き払ったその声が一気に私の感情を冷ましていく。落ち着いていくにつれ、今しがたのあまりにも正直な発言に血の気が引いた。
「……あ、あの……」
「何だ」
「今言った事……忘れて下さい。無かった事に。駄々こねるガキなんていなかった。そういう事で」
「治ったばかりの傷口を遠慮なく叩くような奴にそんな権利があると思うのか」
ラウルはつい先ほど私が叩いた肩をとんとんと指す。穴があったら入りたいとは、まさにこの事だ。
「フォルテの気持ちはよく分かった」
「分からないで忘れて下さい」
目の前の湖に身投げして逃げてしまいたい。いつかきちんとした場で落ち着いて言おうと思っていた事なのに、涙と鼻水を垂らして怒りながら心情を言ってしまうなんて恥ずかしいにも程がある。どんな顔をすればいいのか分からず、三角座りをして顔を埋める。
「俺は、恐らくフォルテの事を大事に思っている」
――が、ラウルのその一言でがばっと顔を上げてラウルの方を見てしまう。緑の瞳と視線が交錯し、慌てて顔を埋め直す。
「……お、恐らくって、何ですか」
「ここに落ちてくる時、俺はフォルテを二度かばった。一度目は銃から、二度目は落下の衝撃から」
私が何も言わず黙っていると、ラウルはさらに言葉を続ける。
「理屈で考えれば、一度目は撃たれようとも運転手を守る事で最終的に生き残る為だと考えると納得できる。しかし、二度目は不可避の落下から生き残る為ならフォルテをクッション代わりに使えばいい話だ。実際には、俺の取った行動はまるで逆で、そもそも一度目も二度目もそんな理屈は働いていなかった。完全に咄嗟の反応だ」
「…………」
「フォルテを異性として好いているのかは分からない。ただ、身を挺して守りたいと思えるほどに、俺はお前の事を大事に思っているらしい」
「らしいって、随分頼りないですね」
口ではそう言いつつも、ラウルの言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。ラウルにとって私はただの取引相手だと思っていたのに、大事に思われていたなんて。
「こういう物事の判断は苦手だ。ただ、大きく間違ってはいない筈だ」
「そ、それに、大事に思うならどうして私一人だけで旅に出そうとしたんですか」
「取引と感情は切り離して考えるべきだろう」
ラウルの淡々とした言葉にまた頭が熱くなってくる。
「……分かりました。そこまで言うなら、今までの取引はここで終了としましょう。で、また新しく取引をしましょう」
そこまで取引に固執するなら、新たな取引で縛ってやる。
「私はラウルさんと一緒にいたい。ラウルさんは私を大事に思ってる、イコール、一緒にいたい。二人で旅をすれば互いの要求が満たされるじゃないですか。これを、新たな取引としましょう」
「随分と曖昧な条件だな」
「お金に換えられない物事でも、互いの同意があれば取引は成り立ちます。旅の理由が無いってゴネるなら、私の旅についてきて理由を探せばいいじゃないですか」
「…………」
ラウルは黙って私の顔をじっと見た。相変わらず鉄仮面のような無表情だな、と思っていると、ふいに仮面が緩んだ。左手が伸びてきて、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「取引成立だ」
ラウルはそう言って、眉尻を下げて、笑った。
「……っ」
今までも笑う事はあった。しかしそれは、依頼を遂行する為に必要な時だけで、何の依頼も絡んでいない時は一切笑わなかった。
取引成立と言っても、私が相手では笑う必要はないはずだ。なのに、笑った。それも、今まで見た事も無いような柔らかな笑顔。温度を感じない冷たさの裏に隠れていたものが表に出てきたのだと頭では理解しても、心臓は動揺で激しく脈打っていた。
私が顔を真っ赤にしている間にラウルは普段の無表情に戻り、湖のほとりから立ち上がる。
「暴風域を抜けた先、どこに島があるか分からない。さっさと行って日暮れまでに野営できる程度の島を見つけるか」
この切り替えの速さは何なのだ。私は未だ熱を持つ顔をぺちぺちと叩き、腰を上げる。
「私はガルちゃんへの指示で精一杯ですから、荷物が飛んでいかないようにしっかり見張っておいて下さいね」
努めて事務的な声を出しながら、ガルバートの背に乗る。
「分かった」
ラウルもガルバートの背、私の後ろに乗った事を確認する。私達が移動する際の定位置なのだが、改めて意識すると距離が近い。また顔に襲いかかってきた熱を追い払うように頭を軽く振り、手綱をしっかりと握り締める。
「行きましょう!」
私の声に呼応するようにガルバートが「ぷええ!」と鳴き、大きく羽ばたいて無限の空へ飛び出した。