揚羽蝶のエレジー [3]

「魔女は悪しき者だ」
 十八号と全く同じ声を持つ男が諭すように言う。十八号の目には今いる教会の景色は映らず、代わりに広々とした洋室が映っていた。家具のデザインはどこか古臭いが、古いものを使っているという訳ではなく、まるで新品のようだった。
 男は木製の机に向かっていた。机の上には羊皮紙の束が散らばっており、男の手には羽ペンが握られている。
「魔女を全て殺さなければ幸福は得られぬ」
 羽ペンが踊るように動き、羊皮紙の上に文字を連ねていく。書いている内容は読まなくても分かる。魔女狩り計画の概要だ。
「……魔女め……根絶やしにしてくれる……」
 男は魔女を呪う言葉を吐きながら、作業を進める。
 十八号はこの男と会ったことなど無い。あまり多くの人と関わってこなかったために、それははっきりと分かる。
 それなのに、何故これほどまでに鮮明な記憶があるのか?
 既に答えは出ている。出ているのだが、認めたくない。これは悪い夢であって、本当の自分は自室のベッドの上で昼寝をしているのだ。ディアナという女性も、魔女狩りという事柄も、魔女裁判も、全てが幻影だったのだ。そうあってほしいと願った。
 しかしその願いを打ち破るかのように、洋室に一人の召使がノックと共に入って来た。「アールグレイを持って参りました」と紅茶のカップを男の机の上に置く。
「お仕事の調子はいかがですか?」
 召使の質問に、男は「順調だ」と答える。「明日には出来上がる。私の人生を滅茶苦茶にしてくれた魔女共もこれで終わりだ」
 その言葉に召使がにこりと笑い、そして十八号が最も望んでいなかった言葉を吐く。

――今から何百年も前に活躍した貴族ね。
――何年にも渡って魔女を探して狩り続けて、彼が見つけた魔女は数百人とも数千人とも言われるわ。
――それで、魔女狩りも終わってこれで災いは無くなった、って拍手喝采のめでたしめでたし、ってわけ。

 やめてくれ。それだけは、あってはならない。
 十八号の声にならない悲鳴をかき消すように、召使は言った。

「無理はなさらないで下さいね、チェルムズフォード卿」

 * * *

 ダークマターは身元不明の死体から作られる。「生前」と呼ばれるその死体が持っていた記憶はゼロの手によって封印され、それが解けることは有り得ない。ダークマターとして生まれて間もない頃、十八号はそう聞いていた。
 それなのに、今、十八号の頭の中にはその記憶が完璧に蘇っている。チェルムズフォード卿――魔女狩りを行った偉人。それが十八号の「生前」だと、記憶が容赦なく十八号に現実を突き付ける。

 十八号は数百年前の記憶から目を逸らすようにぱちぱちと瞬きを繰り返す。するとぱっと場面は変わり、十八号の前には笑顔の群衆がいた。それは先ほどまで魔女を殺せと騒いでいた連中で、その高揚した顔を見てどうやら教会まで意識が帰って来たらしいと分かる。
 知らぬ間に十八号もまたどこからか運ばれてきた丸太にくくりつけられていた。ここからだとよく見えないが、丸太の根元にはよく燃える紙や木の枝が配置されているのだろう。十八号がくくりつけられているすぐ横に、灰になった丸太が倒れていた。丸太の上には焼け焦げたよく分からない何かがあったが、十八号はそれが何であったかは分かりきっていた。分かりきっていたが、これが現実だと思いたくない。
「実に残念だ」
 十八号の前に老人が立ち、しおらしい表情を作って見せた。
「魔女一人だけ処刑して終わる、というのが理想的だったのだが、使い魔がいるとなるとそいつも処刑しなくてはならんのでな」
「……使い魔……? 俺が、あいつに使われてるって思うのかよ」
「現にお前は魔女を連行する際、彼女を守ったではないか。あれが使い魔である証拠だ」
「くだらねえ理由だ」
 そんな理由が通るなら、世の中には魔女だらけで使い魔だらけだ。
「あいつを守ろうとしたのは俺の自由意志だ」
「……救えない奴だな。その意志が魔女によって無意識のうちに操られていることに気付かないとは」
 老人は手をひと振りして従者に合図を送る。従者はつかつかと灰になった丸太に近づき、そしてそのブーツで丸太の上の焼け焦げた遺体を踏み潰した。ぐしゃぐしゃと、執拗なまでに隅々まで踏み潰していく。
「やめろ!」
 十八号が叫んでも従者は止めようとしない。それどころか、愉悦に満ちた笑みを浮かべながらますます激しく踏み砕いていった。踏み砕く度に群衆がどっと笑う。老人も笑みを浮かべている。十八号以外の全員が、笑っている。
 彼女を踏みにじって、笑っている。十八号の中の「生前」の記憶のショックがたちまち消え去り、憎しみが十八号の心を満たした。
「ぶっ殺してやる……!」
 お前ら全員ぶち殺してやる、と叫んでも周囲の笑みはくずれない。逆に、十八号の言葉にどっと沸く。できるわけねえだろ、使い魔ごときがいきがるんじゃねえぞ、などの野次が飛ぶ。十八号は今一度リアル化を試みるがやはり闇はひとかけらも現れない。手首を縛るこのロープさえなくなれば、リアル化はできる。
 十八号の手首は後ろ手に縛られ、丸太にくくりつけられた今、手首の位置は腰のあたりだった。暴れて引きちぎろうにも、丸太に固定するために使われたロープが邪魔で動けない。
「哀れな魂に救済を」
 老人が満面の笑みを浮かべながらマッチに火を点し、十八号の足元に火は移る。
「……お前らのやる事は間違ってる」
 木の枝が燃える臭いを感じる。
「間違っておらんよ。偉大なる先祖がやり残した仕事を我々がやり遂げるのだ」
 足元が炎によりほのかに温まる。
「目え覚ませよ。その仕事自体が間違ってんだよ」
 足元に感じる温度が、温かいから熱いに変わっていく。
「伝染病を流行らせる悪い魔女なんてもん、なんでお前ら信じるんだよ。伝染病を流行らせて魔女は何のメリットがあるのかとか考えねえのかよ」
 爪先が炎に包まれたのが分かった。熱さと痛みが襲ってくるが表情には出さない。
「哀れな使い魔よ、今更詭弁を弄しても無駄だ。お前の主はもう死んだ」
 炎が足を包んでいく。叫びたくなるほどの苦痛が押し寄せているが、十八号は叫ばない。苦痛にわめく姿を見せてしまったら、この場にいる全員の笑いものになるのは目に見えている。
「……死んだ、じゃなくて殺しただろうが」
 足の大部分を焼いた炎は腰のあたりまで浸食を進める。ぶすぶすと色々なものが焼け焦げる音がする。
「殺さなければ伝染病で殺されていた、ただそれだけのことだ」
 手首のロープがぶすぶすと焦げていく。
「……俺な、お前らみたいな真面目ぶった奴らがさ」
 手首を縛るロープがぷつりと焼き切れる。それと同時に十八号は闇を呼び寄せる。十八号の影の奥底から闇が沸き上がり、足元に群れる炎をかき消して十八号の体を包み込む。肩から背にかけて生やした魔法の翼が、十八号を縛るロープを切断した。
「この世で一番嫌いなんだよな」
 リアル化に成功した十八号は丸太から離れ、ふわりと宙に浮かんだ。

 従者達の反応は早かった。十八号が何らかの手段でロープを切ったと知るや否や銃を構え、一斉に発砲した。銃弾は十八号めがけてまっすぐ飛んでくるが、リアル化によって移動速度が格段に上昇している十八号にとっては避けるのは造作もないことだった。羽をほんの少しはばたかせ、一瞬のうちに従者達の横に移動する。そして彼らに向けて雷の槍を放った。従者達は綺麗に一列に並んでおり、雷の槍はその列全てを貫いた。雷には「突き刺す」といった物理的な殺傷力はないが、その衝撃は人を殺すには十分すぎた。雷の槍が消えると同時に、黒く焦げた従者達はばたばたと倒れた。死んだのは確認しなくても分かっていた。
 一瞬の出来事に群衆も老人も言葉を失っていた。しかし武器を持っていた従者達が死んだことが分かると群衆は悲鳴をあげて教会から逃げ出そうとした。放っておけば大部分は将棋倒しになって怪我を負い、逃げることは叶わなくなるだろう。しかし少数の人々は無事教会から逃げおおせてしまう。それを許すほど十八号は優しくなかった。
 十八号はもう一度雷の槍を放ち、教会の扉を破壊した。長い年月をかけて扉に彫り込まれた美しい模様はがらがらと崩れ落ち、その瓦礫の山は退路を塞いだ。その扉以外にも逃げ道はあるであろうことは予測がついていたので、雷の鞭を作り教会の壁に沿うようにそれを振るう。がらがらと崩れ落ちる壁や柱だったものが全ての逃げ道を塞いでいく。
「骨も残らねえと思え」
 雷の鞭を納めた後、十八号が静かに言う。大きい声ではなかったため全員が聞き取れたはずはないが、それでも群衆の全員が十八号がやろうとすることを理解した。
 群衆の全員が、悲鳴を上げた。許しを乞うた。魔女裁判は乗り気じゃなかったと嘘を吐いた。
「嘘を吐く奴も嫌いだ」
 十八号はため息をついた。手の平を返したような群衆の態度に呆れる。
 雷で一息に殺すつもりはなかった。苦しみのない死など、強い力に媚びへつらうような下衆には勿体ない。
 十八号の手から、どす黒い粘液のような闇が放たれる。闇は群衆の中に落ち、どろどろと彼らの足と足の間に広がっていく。群衆は得体の知れないものに恐れおののく。そうだ、もっと恐怖しろ。彼女を嗤った罪はその程度では償えない。
 闇が群衆の中に行きわたったことを確認すると、
「せいぜい恐れろ」
 十八号は指を鳴らした。

 音も痛みもなく、群衆の一人一人の爪先が闇に溶けはじめた。闇は極めてゆっくりとした速度で住民の体を飲み込んでいく。ずぶずぶと闇に溶けていく自分の足を見て、群衆は情けない悲鳴を上げる。悲鳴の中には十八号に許しを乞う声も混じるが、十八号はその声を無視した。
「骨も残らねえと思え、って言っただろ」
 少しずつ少しずつ、闇に溶かす。それが十八号が選択した殺し方だった。痛みを感じさせたまま闇に溶かすこともできたが、その場合だと痛みの余り気を失う事も多い。最期まで意識を持ち、自分がじわじわと死んでいく感覚を感じながら死ぬ事を十八号は望んでいたため、痛覚は麻痺させた。
 群衆が恐怖に震え、涙を流し、醜くあがく。その姿は人間とは言えないほど醜く、十八号はその様子を見て笑い声を上げた。その時の十八号の心には、彼らが彼女に行った所業への復讐心はなく、恐怖に狂う群衆を嘲笑う快感だけがあった。
「……悪魔……」
 十八号の背後で老人の声がした。振り返ると、闇に足を溶かされながらも十八号を睨む老人の姿があった。
「何の罪もない住民を殺して楽しむ、だから俺は悪魔だとでも?」
 十八号が問うと、老人は静かに頷いた。
「だったら、てめえらも悪魔だろうが」
「何……?」
「魔女だなんだと言って、これまで何人の人間を殺した?」
 覚えてねえよな、と十八号は呟く。チェルムズフォード卿の記憶には、そんな数字はなかった。
「魔女狩りは偉大なる先祖の仕事を継いでいる。このような無差別殺人とは違う」
「ご先祖様は自分のしたことが偉大とは思ってねえんじゃねえの?」
「貴様に私の先祖の何が分かる」
「分かっちまうんだよな」
 魔女狩りを成した後、彼がどのような人生を歩んだか。彼は、一時的には憎き魔女を絶滅させたと喜んでいたが、それも長くは続かなかった。彼が手にかけた数多の命の重圧が喜びを奪った。毎夜のように魔女の悪夢を見、起きている時も様々な幻覚にさいなまれた。そして疲労が頂点に達した頃、彼は己が行った行為を悔い、自分自身に火を点けて死んだ。
 その後その死体をゼロか誰かが拾い、十八号が生まれた。焼死体を生身の肉体に復元する、ゼロの能力の恐ろしさを十八号は今思い知っている。
「魔女狩りは紛れもなく大量殺人だ。それぐらい、分かれよ」
 十八号の言葉に頑なに首を振る老人の体が、腹まで闇に溶けていた。
「悪魔の言葉になど、騙されるものか! 魔女狩りは正義の行為だ」
「使い魔から悪魔に昇格とは、ありがたいね」
 老人の体がじわじわと闇に溶けていく様を観察する。ひとたび闇に溶けはじめれば、その生物が完全に闇に溶けきるまで余程のことがない限り死なない。例え心臓が闇に溶けようとも、髪の先まで闇に溶けるまでは老人は生きる。
「恐怖に狂いながら死ね! ……はははははっ!」
 恐怖に満ちたうめき声の中、十八号は笑い声をあげた。

 * * *

 全員が闇に溶けきるまで、さほど時間はかからなかった。今、十八号の目の前に広がっているのは地面に広がる闇の海と、鳴り響いていた悲鳴の余韻だけだった。
 十八号が腕を上げると、それに呼応するかのように闇の海がざわめき、それは波となって十八号の手の中にするすると吸い込まれて収まっていった。闇が消えると同時に、悲鳴の余韻も消えた。
 誰もいない教会の祭壇で、十八号はリアル化を解くことなくぼうっとその場に浮かんでいた。
 何をすべきか、分からなくなった。彼女はいなくなった。敵討ちは終わってしまった。冷静に考えれば、焼け焦げて使い物にならなくなった両足と両手の治療に取り掛かるべきだとは分かっていたが、どうにもその気になれない。もっと他にやるべきことがあるような、そんな気がした。
 何も考えずに浮かんでいると、頭の中はチェルムズフォード卿の記憶でいっぱいになった。彼の幼少時代、少年時代、青年時代……忘却によるあいまいさはあるものの、彼の人生のおおよそは理解できた。魔女狩りという悪事を行った人物であるが、彼は彼なりに事情があったらしい。別個人の記憶がそっくりそのままあるというのは不思議な感覚だったが、十八号は客観的にその記憶を覗き見ていた。
 同じ体を使っているというのに、これだけ他人だとどうにもその実感はしない――そう思った瞬間、十八号はあることに気がついた。

――同じ体を使っている?

 十八号は腕を曲げて胸に当ててみる。心臓がどくどくと脈打っているのが分かった。この心臓は、魔女狩りという制度の諸悪の根源の心臓でもある。今動かした腕も、諸悪の根源の腕である。
 一気に頭が熱くなるのが分かった。この体は生きている。彼女の命を奪った原因と言える、最も憎むべき体がここにある。
「……てめえが……あんなことさえ始めなければ……」
 彼女は、両親を失うこともなく幸せな人生を送れたはずだ。
「てめえが……てめえが……っ!」
 自分の体を睨みつける。倒すべき敵は、ここにいる。じわじわと沸き上がる憎しみが、燃え上がるような怒りに変わるのに時間はかからなかった。
 十八号は雷の剣を作り出し、宙に浮かべて狙いを定めた。まずは足。
「魔女さえいなければ」
 頭の中でチェルムズフォード卿の声が響く。彼の声もまた憎しみに満ちていた。
「うるせえ!」
 雷の剣で両足を突き刺し、そして切り裂いた。どさり、と両足が地面に落ち、続いてぼたぼたと血がその上に降り注いだ。焼け焦げて死んだ足とはいえ、切断の痛みは言葉に出来ないほど大きい。しかし、この痛みこそが彼女を殺した奴への攻撃なのだ。痛みに歯を食いしばりながら、十八号は内心で笑った。
「魔女さえ死ねばみんな幸せになれる、そう思わんかね?」
 チェルムズフォード卿がそう言って笑う。
「それはてめえだけの幸せじゃねえか!」
 十八号はもう一度雷の剣を浮かべ、左腕に狙いを定める。両足を落としたぐらいでは、憎しみは収まらない。
「誰かを殺して皆が幸せ、ってそんなもんあるかっつうの!」
 肩から左腕を切り落とす。両足の上に左腕が重なり、新たな傷口から流れ出る血が落ちた腕を染め上げる。
「……どんな悪党でも、よ……」
 両足と片腕を切り落とした痛みと出血で、十八号の呼吸は荒れはじめた。しかしまだ、根を上げるわけにはいかない。こんなものでは、奴は死なない。
「……いるはずなんだよ……」
 十八号は少なくとも善人ではなかった。大勢の人を殺し、娯楽目的で殺した人も、とても人には見せられないような惨い方法で殺した人も、大勢いる。
 そんな救いようのない人殺しでも。
「死んだら悲しむ誰かが……いるんだ……!」
 チェルムズフォード卿は、それを理解していなかった。魔女を殺せば全員が幸せになれるなど有り得ない。理解していた十八号も、その事実に唾を吐いて娯楽の殺人を犯していたのだから、こんな台詞を言う資格はないかもしれない。
 それでも、言わずにはいられない。それほどまでに、彼女を奪った魔女狩りが、魔女狩りを生み出したチェルムズフォード卿が憎かった。
 雷の剣を三度浮かべる。右腕に、狙いを定める。
「てめえのエゴは、幸せなんか生み出さねえ!」
 両足と左腕の上に、どさりと右腕が落ちる。ほんの数分の間に四肢を失った痛みは気を失ってしまいそうだった。しかし十八号は意識を手放さず、その痛みに耐えた。これは、彼女の命を奪った者に対する報復だ。自分がどうなろうと容赦してはならない。例え、自分が死ぬことになろうとも。
 痛みに慣れるまでしばらく待った。その間も血は絶え間なく流れ続ける。全身から冷汗が噴き出て、体温が徐々に低下していくのが分かる。今は闇に包まれているため分からないが、リアル化を解除すればきっと顔面蒼白となっているだろう。出血はそれほどひどいものだ。
 出血のショックで気を失うのも面白くないため、闇を傷口のあたりに纏い直した。応急処置とも言えないような適当な処置だが、これで出血は収まる。
 痛みに慣れてくると、十八号はリアル化を維持したまま教会を後にした。ひとまずファイナルスターに帰り、それからどうすれば最も効果的な方法で「チェルムズフォード卿」に復讐を果たせるか考えよう。十八号はそう考え、ファイナルスターに向けてまっすぐ飛んだ。

 * * *

 ファイナルスターは十八号が外出する前と何ら変わりない、平和な雰囲気に包まれていた。十八号は誰にも会わないように気をつけながら自分の部屋へと向かった。ここで誰かに会ってしまったら、四肢がない理由を尋ねられるだろう。そんな面倒は避けたかった。リアル化が持つ最大速度で廊下を進み、次の角を曲がれば自分の部屋にたどり着く、近づきつつある目的地に十八号が安堵した瞬間、その角からダークマター一号が姿を現した。
「あれ、十八号さん」
 一号の言葉は普段通りの穏やかなものだったが、十八号の尋常ならざる状態を視認した瞬間、その声は慌てたものに変わる。
「ど、どうしたんですか! 手足が……!」
 予想通りの鬱陶しい展開に十八号は舌打ちをした。
「うるせえな、通るからそこどけよ」
「どけませんよ! 早く医務室に行って治療しないと……!」
「どけっつってんだろ!」
 十八号は電撃をぶつけ、一号はまともにそれを食らい壁まで吹っ飛ばされる。一号の手元からばさばさと書類が落ちた。どれもが堅苦しい内容のもので、十八号は書類を拾うことなく自分の部屋に向かおうとした――が、そこでふと一枚に書類に目が留まった。その書類を重力の糸を切って浮かばせて、そこに描かれていたものを見た。

 書かれている内容こそ、予算やら収入やら支出やらを書いた面倒なものだったが、それを覆い隠すようにクレヨンで色々なものが落書きされていた。ケーキや太陽などが描かれており、お世辞にも上手とは言えない。
「これは誰が描いた?」
 まさか一号がこんなものを描くとは思えない。十八号が問うと、一号は身を起こしながらも「ゼロ様ですよ」と正直に答えた。「あの人、クレヨンを買ったから何か描きたい、って手当たり次第に落書きしていくんです」
 これもこれも、そうですよと一号は何枚かの書類を十八号に見せる。生真面目な書類がお菓子や動物などの落書きで鮮やかに台無しにされていた。
「……あの野郎」
 十八号の心に、ふつふつと憎しみが沸いた。チェルムズフォード卿という悪党の中に十八号を作り、これほど苦しい思いをさせているというのに、ゼロは部下の書類に脳天気な落書きをしている。十八号が苦しんでいるのに、親と言える存在であるゼロは十八号を気にかけることなく自由奔放に遊んでいる。
「……許せねえ」
 十八号の様子がおかしいことに一号も気づく。一号は警戒心を浮かべながら「十八号さん?」と問いかける。
「俺が、どんだけ、苦しいか」
「十八号さん!」
「あの野郎に……思い知らせてやる!」
 十八号がくるりと体の向きを変え、ゼロの部屋に向かおうとした――が、一号が十八号の前に立ちふさがる。迷いのある表情をしているが、その手には剣が握られている。
「どけよ」
「十八号さん、何をなさるつもりですか?」
「ふざけた野郎に俺の痛みを思い知らせてやる、それだけだ」
「……十八号さんがやろうとしている方法では、十八号さんの痛みは伝わりませんよ?」
「うるせえな、どけっつってんだろ」
「何があったか、私もゼロ様も聞きますから。落ち着いてください」
「黙れよ!」
 雷の槍を一号に向けて放つ。それは先程従者達に放ったものと同じもので、当たれば間違いなく死ぬ。だが、一号など死んでも構わない。十八号はそう思っていた。
 雷の槍が雷鳴をあげながら先程まで一号がいた空間を通り抜けた。その真横に、咄嗟にリアル化をしてその移動速度で窮地を逃れた一号が立っていた。
「……どうしても、やるおつもりですか」
 十八号が頷くと、一号はばちばちと手元に雷を集積させ始めた。それに呼応するように、十八号も雷を集積させる。雷の集積が終わると、二人は互いに隙を伺ってその場に硬直する。
 それほど長い時間は経っていないだろう。最初に動いたのは十八号だった。一号は隙を全く見せていないが、このまま待っていても恐らく隙は見せない。ならば、行動を起こして一号に隙を作らせるしかない。十八号は集積した雷を一号に向けて放った。
 一号は即座にそれに反応し、自分の手にある雷をそれにぶつけて相殺を図る。しかし一般ダークマターの平均程度の実力である一号と、ほんの少しではあるが平均よりも強い十八号では雷の威力にも差が出た。一号の雷を全てぶつけても十八号の雷は消えず、ほんの少しだけ雷が残り、それが一号めがけて飛んでくる。一号は上に飛んでそれを避ける――が、その避けた先に、十八号が待ちかまえていた。
「ばればれだ、バーカ」
 一号が構えるよりも早く、至近距離で雷をぶつけた。「ため」が少なかったため殺すには至らないが、その衝撃で一号は吹っ飛び、壁に叩きつけられた。一号は短くうめき声を上げ、地面に落ちてリアル化が解除される。
 十八号は倒れる一号の傍に浮かび、一号の無様な姿に笑った。
「俺より弱えくせに喧嘩を売るとかバカじゃねえの?」
 身の程をわきまえろよ、とだけ言って十八号はゼロの部屋へと向かった。

 * * *

「ゼロ……!」
 ゼロの部屋は、相変わらずごちゃごちゃしていた。ダークマター一族の誰よりも広い部屋を持っているにもかかわらず、そこここによく分からない機械や道具が散乱しているためその広さはあまり感じられない。
 部屋の中央、大きなテーブルの周りに置かれた椅子の一つに、ゼロは座っていた。いつも周りには誰かがいるのに、今は珍しくゼロ以外誰もいなかった。
「十八号か、どうした」
 四肢を失った体を見ても、ゼロは顔色一つ変えずににこりと微笑んだ。十八号は何も言わずに雷を集積させ始める。四肢を失った部下を見ても何とも思わない奴なんて、人の上に立つにふさわしくない。俺がここで、こいつの時代を終わらせないといけない。
「……お前のせいだ……」
 ばちばちと集積されていく雷を見ても、ゼロは構えることすらせず、ただ雷を見ているだけだった。そんな余裕の態度がまた気に入らない。十八号は普段以上に雷を集め、そして圧縮させていく。
「お前のせいで、俺は……!」
 今までで最高の攻撃を食らわせてやる。十八号は残っている力の全てを雷に注ぎ込んでいく。
「話があるなら聞くぞ。ほら、紅茶もある」
 ゼロはのほほんとした態度で、ティーカップを軽く持ち上げる。それを合図に、十八号は今できる最大規模の攻撃をゼロに向かって放った。ゼロの身の丈よりも遙かに巨大な雷の柱が、音速でゼロに襲いかかる。食らえば間違いなく即死である。未だかつてないほど集中していたからか、音速の雷がゼロに襲いかかる様子は、とてもスローに見えた。雷が距離を詰める中、ゼロは雷に向けて手をかざした。
 その瞬間、雷が消えた。

「……え……?」
 雷の音が止み、しんとした部屋の中、十八号の行き場のない呟きが宙に浮かぶ。
「……十八号、何があった?」
 ゼロが立ち上がり、十八号に一歩近づく。十八号は反射的に一歩退いた。
「……嘘だ……」
 あの攻撃は十八号が出せる中で最大の攻撃だった。ゼロを倒すことこそ出来ないかもしれないが、それでも傷をつけることぐらいは出来るはずだ。十八号の中の冷静な部分はそう考えていた。
 なのに、ゼロが手をかざしただけで十八号の攻撃は消え失せた。十八号の力では、ゼロに傷をつけることすら叶わない。その絶望的な実力差に十八号は恐怖を感じた。
「十八号」
 ゼロがまた一歩十八号に近づく。十八号は二歩三歩と退く。
「来るな……来るなっ!」
 十八号は小さな雷をいくつも放つ。それはゼロに向けて放たれたものではなく、恐怖のあまり乱射しただけの指向性のない雷だった。そんな中にもゼロに当たる雷はあったが、当たる雷は全てゼロの目の前で音もなく消えた。
「とりあえず、リアル化を解除しろ。話はそれからだ」
「嫌だ! 来るな来るな来るな!」
 リアル化を解除して今以上に無力な存在になってしまっては、ゼロに何をされるかわからない。十八号は雷を乱射し続けて必死の抵抗を続けた。
 ゼロは冷静な面持ちで十八号に少しずつ近づいていくが、近づいた分だけ十八号は退いていく。いつまでも続きそうなこの応酬は、ゼロが足を止めることで収まった。
「……十八号!」
 足を止めると同時に、ゼロは大きな声で彼の名を呼んだ。その今までと違う雰囲気に、十八号も雷を乱射するのを止めた。
「早くリアル化を解除しろ!」
 ゼロの目線は、十八号の顔ではなく胴の辺りに行っている。それにつられて十八号も自分の胴体を見る。
 腰が、闇に溶けて消えていた。
「……あ……」
 リアル化の致命的な欠点。それは、あまりに長い時間リアル化していると自分が呼んだ闇に体が食われて無くなってしまう、ということだった。その話を聞いた時、十八号は自分はそんな馬鹿な失態は犯さないと思っていた。しかし今、「そんな馬鹿な失態」を犯してしまっている。
 十八号がそれに気づいた後も、凄まじい速度で体は闇に溶けていく。群衆を闇に溶かしたあの時よりも数倍、数十倍速い。
「い……嫌だ……」
 満足行く方法でチェルムズフォード卿に復讐を果たすことも出来ず、ゼロに一矢報いることも出来ず、何も出来ずに闇に溶けてしまうなんて。こんな現実は、認めたくない。
「嘘だ……嘘だ……」
 腹が、胸が、闇に溶けて消えていく。痛みはなく、それがかえって恐ろしさを助長する。
 ゼロが十八号の元に駆け寄り、手を伸ばすが十八号は反射的に雷を発しその手をはじいた。今まで当たる前に消された雷が手に当たってはじいたのだから、ゼロからも余裕が消えている事は冷静に考えれば分かるのだが、今の十八号には今がゼロを討ち取るチャンスだとはとても考えられなかった。
 リアル化を解除しても、闇に溶けた部分は戻らない。心臓も闇に溶け切った今、もう助からないのは十八号も分かっていた。認めがたい現実にすっかり混乱させられた頭では、もはや何もできずただ残りの部分も闇に溶けるのを待つばかりとなっていた。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
 自分でも気付かないうちに、十八号はぶつぶつと「嘘だ」を連呼していた。ゼロの姿は最早目に入らず、ただぼうっと宙を見ていた。
「十八号!」
 ゼロが十八号の顔に向けて手を伸ばす。

 その手が頬に触れる直前、十八号はこの世界から消えた。

 * * *

 なにも、見えない。
 彼の周りに広がるのは深い、吸い込まれそうな黒ばかりで、光などひとかけらもない世界だった。失った手足の感覚があるが、それらを動かしてもこの黒の中では見ることができない。触れば分かるだろうか、と思って足や胴に手を伸ばしてみたが、何かに触れたという感覚すら得られなかった。触覚が麻痺しているのか、手足は失ったままなのか分からないがどちらでも良かった。
 自分が闇に溶けてしまったこと、ここが「闇」であることは理解していた。闇に溶ければすぐに死んでしまうと考えていただけに、こうして闇の中で存在できていることに少し驚いた。
 あの世界にダークマターとして生まれてから闇に溶けるまでの様々な出来事が、次々と思い出された。振り返ってみると、人間より長い時間を生きてきたのに、楽しかったと言える思い出は数えるほどしかなかった。あらゆることを蔑み、ないがしろにし、馬鹿にしてきた。
 そんな人生でも、悪くなかった。楽しい思い出は少ないが、その分ひとつひとつがきらきらと輝いている。少ないからこその美しさがそこにはある。
 ゆるゆると、眠気が押し寄せてきた。眠気と同時に意識の端から少しずつ闇に侵食されていくのが分かった。きっと、眠ってしまえば完全に闇と同化し、「彼」として目覚めることはもうないのだろう。
 闇に溶ける直前の混乱は完全に消えていた。あるのは、ただただ穏やかな気持ちだけだった。
 さあ、眠ろう。
 彼はゆっくりと、瞼を閉じた――

――が、意識が完全に消える寸前、胸元で何かが光るのを彼は感じた。この闇の中で「光」が存在するなんてあり得ない。彼は重い瞼をこじ開けて、胸元を見た。
 そこには、白く光る揚羽蝶が舞っていた。その眩しさに彼は思わず目を細める。
 この完璧なる闇の中に、どうやって光が紛れ込んだ。彼の疑問を無視して揚羽蝶はひらひらと彼の周りを飛び回り、その体を光で照らしていく。彼がじっと見守る中、揚羽蝶は彼の目の前で羽ばたいた後、ひときわ大きな光を放った。彼は思わず、目を閉じる。
「……あ……」
 再び目を開けると、そこには揚羽蝶ではなく彼女の姿があった。姿、と言っても肩から上だけで輪郭もぼんやりとしている。
 彼が驚きに目を見開いている中、彼女は顔を近付け――そして額にそっと口づけをした。
「――――」
 彼女が何かを呟いたが、あまりにもか細い声で彼はそれを聞き取ることが出来なかった。
 彼の戸惑いを無視して、彼女はふわり、と彼の体を抱きしめる。彼女は肩から上しかない存在なのに、抱きしめられるという感覚が感じられた。
「……ア……ナ……」
 上手く言葉が出ない。もどかしさを感じながら彼は手を伸ばすが、彼女はするりとその手をすり抜けて、
「ディアナ!」
 あの憎たらしい笑みを浮かべて、消えた。

 再び、世界が闇に満たされた。
 先ほどの光景が嘘だったかのように、しんとした黒が彼の周りを包む。
 今の現象は何だったのだろうか、彼は腕を組んで考え――すぐに腕に触れているという触覚があることに気がついた。先程まで、体に触れても何の手ごたえもなかったのに、今は胴に触れるとそこに存在していることが分かる。
 頭を、顔を、手足を触ってみる。触覚だけではよく分からないが、以前とは違う風体になっているような感触がする。
――ここではよく分からない。どこか他の場所へ。
 彼がそう思った瞬間、目の前の闇がふるふると揺れた。不思議に思って手をかざすと、揺れる闇の中に手がぬるりと入り込むのが分かった。
 ここから他の場所へ行ける。直感的に彼は理解し、その揺れの中に飛び込んだ。

 * * *

 闇の向こうは、暗い木のうろの中だった。うろから這い出て周りを観察する。かすかな風の音と、それに揺らめく葉の音が聞こえる。夜の空気は夜独特の涼しさに満ちており、風が吹くとかさかさと葉が揺れた。緑に満ちた空気が肌を通して伝わってくる。
 見覚えのある景色に、彼は立ちすくんだ。ここは、この場所は。
「……りゅうせいぐん……」
 初めてこの星に降り立った場所、彼女と流星群を見たあの丘だ。
 自然に漏れた声がかつての自分とはまるで違う声だったが、気にならなかった。それよりも、蘇る彼女の言葉で頭がいっぱいだった。
「トウヤ、私があげたあのネックレス、今つけてる?」
 胸元を探った。その時、動かしているのは手ではなくて細長いぼろぼろの布きれだったが、それも気にならない。
「ま、付けてるんなら大丈夫。なんとかなるわよ」
 服の下から、するりと揚羽蝶のネックレスが姿を現した。しかし、貰った時のような銀のきらめきは消えており、錆びてぼろぼろになってしまっている。あれ、と首をかしげている間にその揚羽蝶が音もなくぼろりと崩れ落ちた。
「流星群見に行ったとこ覚えてる? あそこの一番高い木の根元にね、その意味を書いたメモが隠してあるから」
 次々と蘇る言葉の数々に、彼は慌てて辺りを見回してこの辺りで最も高い木を見つける。その根元に向かって駆け寄る際、足はなくふわふわと浮いて移動していたが、気にならなかった。布きれを手のように動かして、ざくざくと根元を掘る。
「うちの家だけかもしれないけど、揚羽蝶にはね、ある意味が込められているの」
 掘り進めると、土の色の中に灰色の箱が姿を現した。
 掘り出した灰色の箱は、片手で持てるほどの小さな箱だった。重さもほとんどない。相当長い間埋められていたのか、あちこちに錆が付いている。
 彼は箱についていた土を払い落してから、恐る恐る蓋を開けた。

 箱の中には、紙切れが一枚だけ入っていた。端が反り返り、黄色く変色したその紙にはたった一言だけ、書かれていた。
「愛する人の幸せを」
 それが、彼女の願い。

 * * *

 暴力を振るってばかりで、言動もめちゃくちゃで、色気も何もなかった。何があってもこいつだけは最後まで生き残るだろう、と無根拠ながら考えていた。それほどまでに、彼女はふてぶてしく不敵だった。
 それなのに、彼女はあの流星群の夜、揚羽蝶のネックレスを渡すことでトウヤの幸せを願った。魔女裁判の直前、ネックレスを付けていればなんとかなると言っていた彼女が、このネックレスの特異性に気付かないはずがない。ネックレスさえ付けていれば、あの魔女裁判からも生還できたかもしれない。
 それを、彼女はトウヤに託した。自身はどうなってもいいから、トウヤを幸せにして欲しい。彼女にはとても似合わない献身的な願いが、あの流星群の夜にされていた。

 ネックレスの力で彼は生還できた。手足を失い、外見も大きく変わったが、この世界に戻ってこられた。
 戻ってきた。これからどう生きるべきか。答えは決まっている。
「シアワセ……?」
 彼女の願いを叶えるため、幸せにならなければならない。しかし、それはとても難しいことのように感じられた。
 今にして思えば、彼女との生活が正に幸せそのものだった。彼女がいない今、どうやれば幸せになれるかなど分かるはずもなかった。
 それに、あの町の人々を全員殺害した。あの時、彼は彼女の敵討ちではなく、ただ楽しいから群衆をいたぶり殺していた。彼女は自らの身を捨てて幸せを願ってくれたのに、彼はそれを感じることなく殺人の愉悦に浸っていた。彼女と彼の圧倒的な差、自分の卑しさ、罪悪感、それらがより一層彼を幸せから遠ざける。こんな奴が幸せになってはならない、と。
「……しあわせ……」
 闇の世界で溶け切りそうだったあの瞬間、彼は幸せに逝けそうだった。もしあの時、ネックレスが光ることなく溶けていれば彼は幸せだったかもしれない。
 でも、それは彼女が望んでいた幸せではない。彼女は、彼に「生きた」まま幸せを感じて欲しいはずだ。だからこそ、あの瞬間ネックレスは光り出し、彼を闇から救い出した。

 この世界で、生きて、幸せを手にする。
 とても無理だと感じた。でも、死ぬ事は出来ない。死んで逃げることは彼女が許さない。きっと殴られる。彼女の殴りは冗談ではないほど痛い。それだけは避けなければならない。
 彼は木のうろの中に戻った。うろの奥に手を伸ばすと、闇が震えた。闇を通じてならどこへだって行けることは直感的に理解した。

 でも、とりあえず今は眠りたい。これからのことは、眠ってから考えよう。
 深い闇の中、空っぽの闇――ダークゼロは目を閉じた。

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