ゾンビサバイバル 61日目
【アクシデント】ゾンビに応戦中、弾が尽きた・・・! 拳銃、ライフル、ショットガンひとつを失う。持っていなければ苦戦を強いられ5のダメージ! いずれにせよ食糧:-3
(→5のダメージ)
かちり、と嫌な音がした。ここ最近は、ゾンビの集団を相手にする時はラウルが囮になり、集まってきたゾンビを老軍人が一気に狩る戦法を取っていた。ラウルがもう少し健康であれば蹴りや釣り竿を用いて近接戦を仕掛けていたものだが、今は本当にただの囮だ。ゾンビに抵抗する力も無い。
そんな状態で、今の音――弾切れはまずい。ラウルのすぐ傍のゾンビに向けて一丁のライフルが投げつけられるが、一瞬怯んだだけですぐにその手をラウルの首に伸ばす。
「ラウル!」
老軍人が予備のライフルを取り出し構える音がする。しかし、間に合わない。ゾンビの手がラウルの首を掴み、ぎりぎりと締め上げる。体に力が入らず、振り払うどころか腕を上げる事すらできない。その間にも他のゾンビがラウルの手足を掴み、思い思いに「解体」にかかろうとする。老軍人は予備のライフルでゾンビを片っ端から撃つが、それでも猛攻は止まらない。
このままでは間に合いそうもない――ラウルがそう感じた瞬間、銃弾が目の前のゾンビの頭を貫いた。的確に急所を狙った一撃を食らい、ラウルの首からゾンビの手が離れ倒れ伏す。支えを失ったラウルも同時に倒れるが、その眼は銃弾が撃ち出された方角を見据えていた。
「……今のは……」
老軍人が撃ったものではない。ラウルが見ている間も次々とゾンビは狙撃され、老軍人の撃ち漏らしを確実に仕留めていく。あっという間にゾンビの集団は壊滅し、狙撃が行われた方角から人の気配が消えた。物陰の隙間から服の切れ端が見えはしたものの、顔や体格は全く分からない。優秀なスナイパーがいたものだ。
「怪我は?」
辺りの安全を確認し、老軍人は早速荷物から包帯やガーゼを取り出した。それなりに潤沢だった治療用具も、今は残り少ない。
「全身に」
万遍なくゾンビに掴まれ、爪で引っ掻かれた。もはや怪我をしていない個所を探す方が難しい。長いサバイバル生活で疲労が溜まったのか、ここ最近は怪我の治りも遅い。
「歩けるか?」
試しに立って数歩歩こうとするが、足に力が入らず立ち上がる事すらままならない。
「……分かった。ここからはお前を背負っていく」
「…………」
ラウルが何も言わずにいると、老軍人はてきぱきと手当と荷物の整理を済ませ、ラウルに背を向けてしゃがんだ。
「乗れ。お前を背負うくらいならこの老いぼれにも出来る」
軍でもこういう訓練は嫌というほどしてきた。そう語る老軍人の言葉は確固たる意志に守られており、ラウルに拒否権は無い。大人しく重い体を引きずって老軍人の背に身を預ける。
「……世話をかける」
「気にするな。一般人を守るのは我々の役目だ」
HP2 食糧41/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
62日目
【休息】行けども死体の山とゾンビの群れ。心細さに負け、つい数日分の食糧に手を出してしまう。そうでもしないとやりきれなかった。HP:+7、食糧:-7
ヘリポートさえ見つければ。
それさえ出来れば、この地から飛び立てる。ゆっくりと睡眠を取り、怪我を治し、温かで味の整った食事を口にし、そして何より、フォルテに会える。
なのに、見つかるのは死体の山とゾンビの群ればかりだ。毎日が同じ事の繰り返しで、一つ一つの負傷は大した事は無いがじわじわと追い詰められていく。結局今日も、ヘリポートは見つからなかった。
「ほれ、食え」
老軍人が用意した食事を受け取る。ラウルの食糧を、食べやすいよう粥状にしたものだ。決して美味くは無いが食べ易い。
移動と言い食事と言い、老軍人には苦労を掛けてばかりいる。明らかに割に合わない取引だと言うのに、老軍人は文句一つ言わずラウルと行動を共にしている。
理解し難い。
「……俺が知る情報をまとめた紙が、鞄の底に入れてある」
「うん?」
「俺を連れるのが苦痛なら、それを取って一人で行ってくれ」
「バカかお前は」
老軍人は鞄に目もくれず、一言で切り捨てた。
「俺は一般人をここから連れ出す為にここにいる。お前という一般人を見捨てて一人で行くなんて選択肢はハナからない」
「…………」
「お前を送り届けて、脱出経路をついでに確保して、この街に残された他の一般人も探して連れ出す。それが今の俺の任務だ」
だから辛気臭い事は考えるな、とラウルの頭を乱暴に撫でる。
「……そうか」
ずれたバンダナを直し、粥を流し込む。
「もし、本当に万が一、俺の力が及ばなかった時、いつぞやの頼みは任せろ。だからと言って自分の命を無駄にせず、這いつくばってでも生き延びる事を第一に考えろ」
「ああ」
「よし。それじゃあ、下らない事を考えた罰としてもっと食え」
老軍人は空になったボウルを奪い取り、新しく粥を作り始める。食糧の消費は最小限に抑えていたのだが、これでは数日分の食糧を今日一日で消費する事になるのではないだろうか。
文句を言いかけたが、思い直して口を閉じる。今日一日贅沢をした所で即座に飢えるほど食糧には困っていない。今日はしっかり食べて休息を取り、少しでも体力を回復した方が良い。飢えに慣れたのか腹はそれほど空いていないが、粥ならどうにか流し込めるだろう。
HP9 食糧34/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
63日目
【戦闘】商店街を移動中、不気味な人影! ゾンビか・・・なんだ、マネキンじゃないか。と、安心したのも束の間、背後から本物のゾンビが! 6のダメージ! 食糧:-2
廃れた商店街だ。服屋のマネキンが路上に転がり全ての店が荒らされている。街を歩き始めて間もない頃に訪れた商店街と似たようなもので、マネキンに紛れてゾンビが襲ってくるところまで同じだった。ゾンビ一体の処理も老軍人に任せなければならないとは、衰弱したものだ。
HP6 食糧32/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
64日目
【戦闘】エレベーターが開くと、中にはぎっしりゾンビが詰まっていた! 戦うしかない! 11のダメージ! フォロワーの助けを得られるなら8のダメージ。食糧:-2
(→しおんさん宅フェデーレさんに助けて頂きました)
肩が揺さぶられている事を感じ、重いまぶたをこじ開けた。どうやら少し眠っていたらしく、ここ数十分の記憶が無い。
「ここで暫く待っていてくれ。あれの安全を確かめる」
老軍人はそう言って親指でエレベーターを指した。そうだ、今日は高所からヘリポートを探す予定だった。老軍人に背負われて意識も途切れ途切れだったため過程は分からないが、この建物のエレベーターで高所に上ろうとしているのだろう。
ラウルの体は床に横たえられており、コンクリートの冷たさがじわりと体を侵食する。
「わかった」
ラウルが静かに頷くと、老軍人は護身用にと拳銃を握らせてエレベーターへ向かった。拳銃を持ち上げようとしてみるがひどく重い。撃てばその反動で体力を消耗してしまうだろう。この状態でさらに体力を失う事は自殺行為に等しいが、ゾンビに襲われた場合は撃つしかない。
ちーん、と軽快な音が鳴ってエレベーターの扉が開く。その瞬間、腐った肉の臭いが鼻孔を刺激した。見なくても分かる。ゾンビの群れだ。老軍人がショットガンを何度も撃つ。
エレベーターの中に詰まっているゾンビは銃弾の雨を浴びながらも前進し、老軍人はそれに合わせてじりじりと後退する。エレベーターから出たゾンビがじりじりと横に広がり、ショットガンの射程から一匹、また一匹と抜けていく。老軍人は射程から抜けたゾンビを優先的に撃っていくが、一人で処理するにはあまりにも数が多い。あのエレベーターの中に入っていたのが不思議な程の人数だ。
数匹のゾンビがラウルに向けて歩み寄ってくる。ラウルは上半身を起こし、拳銃を両手で支えて構えた。威力の低い拳銃ならば、頭を狙わなくてはならない。それは分かっていたが、地面と水平に構えるだけで精一杯の両手と、焦点を結ぶことも難しくなってきた目ではゾンビに当てる事自体が難しい。
引き金を引く。放たれた弾丸はゾンビとは程遠い空を射抜き、反動に耐えきれず両手は拳銃を放してしまう。かしゃんと乾いた音が響き、ゾンビは発砲に怯むことなくさらにラウルとの距離を詰める。
「……っ……」
来るな。
言葉が出てこない。指先に力が入らず、落とした拳銃を拾うことも出来ない。ぼやけた視界の中で、ゾンビの黒い影が視界を占めていく――
ぱん、と乾いた破裂音が響いた。
黒い影がうめき声をあげて倒れる。乾いた破裂音はさらに続き、ラウルの目の前に迫っていたゾンビは次々と倒れていく。
「騒がしいと思ったらこれか」
聞き覚えのある声とともに、視界に見覚えのある長髪が映った。
「……フェデーレか」
「ああ、生きているのか」
ゾンビに襲われて死んだのかと思った、と呟きながらフェデーレはゾンビの群れに向けて発砲を続ける。
「大丈夫ですか」
ラウルの傍に誰かが膝を突き、ラウルの生命を確かめるように肩を揺する。ほんの少し体を傾けると、ライフルを背負った女性の姿がそこにあった。恐らく、フェデーレの同行者だろう。
「死にかけはそこで大人しくしていろ」
こいつらは蛆虫よりタチが悪い。フェデーレの忌々しい声と共に放たれた銃弾は次々とゾンビを射抜いていく。
彼が来てくれて助かった。司祭らしからぬ口の悪さだが、少なくとも悪人ではない。
「すまない」
「礼は終わってから言え」
老軍人とフェデーレの手によって、ゾンビは次第に数を減らしていった。
HP3 食糧30/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
65日目
【戦闘】足の遅いゾンビが襲ってきた! だが、攻撃してもその歩みはなかなか止まらない! じわじわと追い詰められる! 4のダメージ! 食糧:-3
(→しおんさん宅フェデーレさんよりスナイパー支援でダメージ-2)
ゾンビは往々にして生命力が高い。体を撃ってもどこ吹く風で、頭部を破壊してようやく活動が完全に止まる。
今、ラウルを背負った老軍人が相手にしているゾンビは特に生命力が高い。頭を撃っても少し動きが止まるだけで、すぐに歩みを再開する。足が遅く余裕をもって距離を開けられるのは幸いだが、通常のゾンビであればとっくに死んでいる程の負傷をものともしない生命力の高さは厄介だ。
「至近距離でショットガンを撃つか」
ラウルを背負いながらだと片手で扱える拳銃しか撃てない。この状態では決定打に欠けるのは老軍人にもラウルにも分かりきっている事だ。
老軍人はゾンビの頭に向けて何発か発砲し、怯んだ隙にラウルを地面に下ろす。そしてショットガンを取り出して構える――前に、ゾンビがラウルに向かって一気に駆け寄った。
「このっ……!」
老軍人が咄嗟に回し蹴りを繰り出し、それを受けたゾンビは吹っ飛ばされる――ただし、下半身だけが。
蹴りによって分断させられた上半身は駆け寄った勢いで前に飛びつつも獲物の姿をしっかり捉えていた。鋭い爪がラウルの首筋に向けて振り下ろされるが、その寸前に別方向から飛んできた弾丸がゾンビの腕を吹き飛ばした。
「ラウルから離れろ!」
老軍人はゾンビの上半身を裏拳で打ち、数メートル先へ飛ばす。そしてショットガンを構え、ゾンビが地面に叩きつけられると同時に引き金を引いた。
「――お怪我は?」
ゾンビが完全に動かなくなったことを確認し終えた頃になり、物陰から声と共にライフルを担いだ女性が姿を現した。昨日フェデーレと共に現れた女だ、とラウルが認識していると当のフェデーレも同じく姿を現した。
「大人しくしていろ、死に損ないが」
フェデーレは忌々しげにラウルを指差した。怪我人は治療に専念しろという意味なのだろうが、言葉選びが悪すぎる。
「ご忠告どうも。……ただ、休んだだけで治る怪我とは思えないんでね」
応急手当や一般人が扱える薬で治せるレベルの怪我ではない。それは怪我を負っているラウル自身が最もよく分かっていた。意識を手放す機会は増え、この頃は景色もろくに見えない。生きて帰ると言う意志だけでどうにか命を繋げているようなものだ。
フェデーレは不機嫌そうな顔をしていたが、こちらの意思が変わらないと察すると小さくため息をついた。
「……女神の加護があらんことを」
胸の前で十字を切り、ラウルから背を向けて立ち去る。なんだ、司祭らしい事もするんじゃないか。
HP1 食糧27/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
66日目
【休息】満天の星空の下、仲間と生存を誓い絆を深めた。フォロワーまたは【同行者】がいる場合、あなたかフォロワーひとりのHP+5。どちらもいなければ孤独でHP-2。
(→自身のHP+5)
ふと目を覚ますと、辺りは夜の闇に包まれていた。草の匂いが強く空気は冷えている。自然が多いが街を外れるほどの距離を移動した覚えはない。恐らく、公園の一角なのだろう。
目の前に老軍人の背中があった。身を起こして老軍人の隣に座ると「動いて平気なのか」と眉間にしわを寄せた。
「今は調子が良い」
今日はゾンビに襲われる事も無く、老軍人に背負われてゆっくりと休息を取っていたからだろう。相変わらず全身は重いが、意識は明瞭で視界もきちんと焦点を結べている。
見上げると満天の星空が広がっていた。地上の陰惨な光景とは対照的な美しさにしばし目を奪われる。
「ラウルは、帰ったら会いたい人はいるのか」
「何だ、その質問は」
「個人的な興味だ」
会うべき人は何人かいるが、会いたい人は一人しか思い浮かばない。
「恋人」
端的に答えると老軍人は「ベタだな」と笑った。
「どんな子だ? 美人か?」
「美人ではない」
「性格は? お前の恋人が務まるくらいだから活動的なタイプか?」
どういう理屈だ。というか、何故こうもフォルテの事を聞きたがる。
「今のこの状況とは関係ない事だ」
これ以上聞くなという意志を込めて睨むと、老軍人は「はっ、出過ぎた真似を致しました」とわざとらしく敬礼を返す。
「いやしかし、関係ないとは言えない事だぞ」
「……その根拠は」
「思い出したら会いたくなっただろ。じゃあ、死ぬわけにはいかないな?」
それが狙いか。ラウルはため息をついて首を振った。
「生憎、その思いはずっと前から持っている」
「なんだ、残念」
老軍人は肩をすくめ、しばらく星空を見上げた後に「もう少し寝てろ」とラウルを促した。
ラウルはその言葉に従って大人しく老軍人の背後で寝ころんだ。
「……ちなみに、お前には会いたい人はいるのか?」
「機密事項だ」
「卑怯者め」
こちらに話させておいて自分は黙秘とは。
その後もラウルが意識を失うまで、老軍人と途切れ途切れの会話の応酬は続いた。
HP6 食糧27/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)釣り竿(HP-1食糧+1、1日につき最大3回使用可)/クリアフラグA・B/館発見済
67日目
【探索】元医者らしき生存者と遭遇。食糧10を渡せば治療薬(ゾンビ化しつつある者を元に戻す。使い捨て)か救急箱(使用者のHPを10点回復。使い捨て)をくれる。食糧:-2
(→救急箱と交換、即使用+しおんさん宅ツィガロさんに食糧5譲渡)
「食べ物くれたら治療してあげる」
白衣を着た天然パーマの男は、こちらが無害と知るや否や取引を持ちかけてきた。人を食ったような笑顔で全身から発する雰囲気は非常に胡散臭い。白衣から漂う消毒薬の匂いや鞄から治療道具を取り出す慣れた手つきを見る限り、ギリギリのラインで本物の医者ではあるらしい。
医者に会え、治療の機会が得られるだけでも幸運だ。人相風体にまで文句はつけていられない。ラウルは荷物から食糧を取り出し、医者に渡した。
「オッケー。それじゃ、横になって。あと、完治は無理だからね。あくまで一般人がやるよりちょっと進んだ応急処置レベルだよ」
「分かっている」
寝転んだラウルの怪我の具合を医者は大まかに調べ、次々と処置を施していく。傷口は消毒し、血で汚れた包帯を取り換え、場合によっては縫合も行う。あっという間に処置は終わり、医者は「おじいちゃんも」と老軍人を無理やり座らせて怪我の手当てを行った。
綺麗に巻き直された包帯を見ていると精神的にも楽になる。相変わらず倦怠感や眩暈はあるが、これで一晩休めば歩けそうな気もする。
「おじいちゃんはまだ怪我軽いね。これからも元気でね」
「こいつはどうだ」
老軍人がラウルを指差すと、医者は「そうだねえ」と腕を組んだ。
「止血と消毒はしておいたけど、無理に動いたら傷口がまた開いて出血しちゃう。ゾンビと戦うのは避けた方が良い」
それに、と医者は人差し指を立てる。
「この男前を治すのに一番大事な治療……輸血はここではできない。鉄分を摂ろうにも食事を選り好みできる状況じゃない。このままだといずれ死ぬよ」
「分かっている」
だから無理を押して探索を続けている。
「戦いはしないでこの頼もしいおじいちゃんに任せて、脱出ルートを探す。君が生き残る道はそれだけだね」
それじゃあ頑張って。医者はそう言って立ち上がり、食糧を大事そうに抱えてその場を後にした。
医者と別れた後に探索を続けたが大した収穫は無く、あっという間に夕暮れ時に入った。今日の野営場所を探していると、見知った顔と偶然出くわした。
「おや」「貴様か」
長髪の司祭服の男……フェデーレと、黒コートの男は確か……ツィガロという名だ。随分前に技術者の男達に武器を強化してもらった時に居合わせた男だ。
「……治療を受けたのか」
フェデーレが真新しい包帯をじろじろと見ながら問いかけてきた。ラウルが素直に頷くと「そうか」と素っ気ない返事を寄越す。
「この間は世話になったな」
ラウルは鞄から少しの食糧を取り出した。「礼だ」
「いらん。こっちにくれてやれ」
フェデーレは親指でツィガロを指差し、当のツィガロは「ああ、それは助かります」と微笑みを浮かべた。
「無性に何か食べたくて仕方がないんですよ」
餓死の前兆ですかねえ? と冗談っぽく笑うツィガロに食糧を渡す。これで先日からのフェデーレに対する借りは返したと見ていいだろう。
「じゃあな」
いつまでも雑談をしていては野営場所を見つける前に日が暮れてしまう。それは向こうも同じ事で、軽く別れの言葉を掛け合って別々の道を歩き出した。
HP16 食糧10/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)/クリアフラグA・B/館発見済
68日目
【探索】戦車の残骸を発見。こんな兵器まで持ち出してもどうにもできなかったのだろうか・・・。手榴弾(【アクシデント】ひとつ無効化。使い捨て)を得た! 食糧:-3
銃は使えないが、これなら使えるだろう。戦車の残骸の中で見つけた手榴弾をラウルは上着のポケットに突っ込んだ。治療を受けたせいか体の調子は良く、自分の足で立って歩く事が出来ている。相変わらず眩暈がして足元は時折ふらつくが、これで老軍人の負担も多少は減るはずだ。
HP16 食糧7/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)手榴弾(アクシデント無効化)/クリアフラグA・B/館発見済
69日目
【戦闘】「俺にも武器をくれよ」と付きまとう青年。だがいざ戦いになると逃げ出して即食われた! 7のダメージ! 拳銃、ライフル、バット、日本刀ひとつを失う(持っていれば)
大切な友人がゾンビに殺された、敵討ちがしたいから武器をくれ。そう言った青年の眼差しは真剣そのものだが、こちらもリスクを冒して貸せる武器は無い。ならば協力してくれとゾンビの群れに立ち向かっていったが、あっという間にゾンビに襲われ死んでしまった。この状況で敵討ちなど、するべきではない。
HP13 食糧7/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)手榴弾(アクシデント無効化)/クリアフラグA・B/館発見済
70日目
【アクシデント】暗い眼をした刹那主義の生存者が、食糧を賭けたゲームを持ちかけた。今が深夜2時~14時なら賭けに勝ち食糧+9。それ以外なら負けて-9。
(→0時に診断、手榴弾使用して無効化+二十日さん宅ベルクさんお借りしました)
「ゲームをしようぜ」そう持ちかけてきた男には見覚えがあった。森から抜けた時に出会い、今と同じように話しかけられた。男の身なりは多少汚れが増しているが相変わらず元気そうで、脇には食糧を抱えている。この男のしつこさは印象深い。さっさと賭けを済ませた方が精神的に楽だろう。
「食糧の代わりにこれを賭ける」そう言って手榴弾を差し出すと「グッド」と男は満足げに笑った。肝心の賭けの内容は、次にこの場に訪れるのは男か女かという単純なものだ。「好きな方を選びな」と男が言うので「男」と答えた。完全に運否天賦の内容であるから、深く考える必要もない。
――結果、賭けには負けた。「ありがとよ」と男は手榴弾を手に取って笑う。「じゃあな」賭けは終わりだ。これ以上男と関わっていても面倒事が増える。「もう一度賭けて手榴弾を取り戻さないか」という老軍人の提案も却下した。手榴弾一つで面倒事を回避できたのだから、安いものだ。
HP13 食糧7/歴戦の老軍人(戦闘ダメージ最大3)/クリアフラグA・B/館発見済