No.17
山岸さんと女体化波止場のSS 本編とはマジで何のかかわりもない
パチンコに行くと言って家を出て三日経った。
もちろん三日間ずっとパチンコをしていたわけではない。最初の数時間だけだ。ほどよく金を溶かして帰ろうかと思ったが、それと同時に、帰ったらダメだとも思った。
出前が多いけどたまに簡単な夕食が作られて、布団は柔らかくて、きれいなバスタブがあって、温かくて、胡散臭いが優しい手付きで触れてくる男がいる、あの部屋。
あいつとは安っぽいエロマンガのような出会い方をした。恋人ではなく、そういうことをする知人でしかなかった。そのはずだった。
どこからおかしくなったのか思い返すと、久々に再会したあいつが部屋の鍵を強引に握らせてきたところからだ。
知人を自分の部屋に住まわせて、あいつ自身は他の女の家に行って、たまに帰ってきて食事をしたり再放送の古いドラマを見たりする。「そういうこと」どころか、触れることすらしてこなかった。
果たしてこれは知人に対してすることなのだろうか。少しずつ分からなくなってきて、部屋で過ごす時間が増えて、こちらが手を握れば握り返すようになって、もう一度「そういうこと」をしたのはこの家出の前の日だ。
あれは、何だったんだ?
前と同じことをしたはずなのに、何もかもが違っていた。触れる肌は熱くて、指が這うと電流が走ったようになって、ただただ声を上げることしかできなくて、ぐちゃぐちゃになって、抱きしめられると安心して。
もう一度あれを経験したら、戻れなくなる。だから、帰ったらダメだ。
本当に帰ったらダメだと思うなら、さっさと遠くに行ってしまえばいい。
なのに、あの部屋から歩いて行ける小さな公園にいる。いつ来ても人気のない忘れ去られた公園だ。
三日間。積極的に探さないと見つからないような場所ばかりうろつきながら、自分の気持ちとこれからのことを考えた。
あいつは何でもないことのように「好きやで」と言う。
あれは、どういう意味なのだろうか。
本心からの言葉なのか、繋ぎとめるための鎖なのか、誰にでも注ぐ言葉なのか。それが分からないまま流されてしまうのは良くないし、このまま離れられるような強い意思はないし、薄い想いでもなくなってしまった。
だから、あいつが探しに来るかどうか、探しに来た場合はどんな言葉をかけてくるかで自分の気持ちの置き場所を考えなければいけない。
もう何日か待って、探しに来ないならそれでおしまい。お互いのことは単なる一時の暇つぶしだった、それだけのことになる。
探しに来たのなら、第一声は何なのだろうか。そこは分からないが、もしも連れて帰ろうとするのなら、伝えなければならない。
自分は期待に応えようとしても一時の欲に流されて裏切ってしまう、怠惰でどうしようもない、どれだけ大事にされても応えきれない、大事にする価値のない人間であることを。
それを知った上で本気で来るのなら、それでいい。いつかの未来であいつが傷ついたらそれを良しとしたあいつが悪いし、甘い嘘で遊ぶなら傷つくのは己一人だけのよくあることだ。
ブランコに座る。きいきいと耳障りな音が鳴る。葉が落ちた木々は寒々しく、吐く息は白い。日は少しずつ傾いていた。
今日の寝場所を探しに行こう。
ブランコから降りてざくざくと土を踏みしめる。公園の外からはかつかつとアスファルトを軽快に蹴る音。
そこには、一番会いたくて、一番会いたくない男の姿があった。
* * *
手を繋いで人気のない道路を歩く。
全てを吐露して、お前の気持ちを少しだけ聞いて、差し出された手を自然に取った。こちらは涙でぐしゃぐしゃなのに、お前はいつも通りの胡散臭い笑みを浮かべていて、ずるいと思った。
またどっか行ってまうんかと思った、首輪つけたろかな、とお前はいつもの調子で言う。
お前の言葉は本気なのか冗談なのか分からない。どっちなのかを探るのはもう面倒くさい。本気なら未来のお前が傷ついて、冗談なら未来の自分が傷つくだけだ。
ため息をついて、お前の顔を見ないように、自分の顔を見られないように、俯いて一言だけ返した。
「もうついてる」
畳む
パチンコに行くと言って家を出て三日経った。
もちろん三日間ずっとパチンコをしていたわけではない。最初の数時間だけだ。ほどよく金を溶かして帰ろうかと思ったが、それと同時に、帰ったらダメだとも思った。
出前が多いけどたまに簡単な夕食が作られて、布団は柔らかくて、きれいなバスタブがあって、温かくて、胡散臭いが優しい手付きで触れてくる男がいる、あの部屋。
あいつとは安っぽいエロマンガのような出会い方をした。恋人ではなく、そういうことをする知人でしかなかった。そのはずだった。
どこからおかしくなったのか思い返すと、久々に再会したあいつが部屋の鍵を強引に握らせてきたところからだ。
知人を自分の部屋に住まわせて、あいつ自身は他の女の家に行って、たまに帰ってきて食事をしたり再放送の古いドラマを見たりする。「そういうこと」どころか、触れることすらしてこなかった。
果たしてこれは知人に対してすることなのだろうか。少しずつ分からなくなってきて、部屋で過ごす時間が増えて、こちらが手を握れば握り返すようになって、もう一度「そういうこと」をしたのはこの家出の前の日だ。
あれは、何だったんだ?
前と同じことをしたはずなのに、何もかもが違っていた。触れる肌は熱くて、指が這うと電流が走ったようになって、ただただ声を上げることしかできなくて、ぐちゃぐちゃになって、抱きしめられると安心して。
もう一度あれを経験したら、戻れなくなる。だから、帰ったらダメだ。
本当に帰ったらダメだと思うなら、さっさと遠くに行ってしまえばいい。
なのに、あの部屋から歩いて行ける小さな公園にいる。いつ来ても人気のない忘れ去られた公園だ。
三日間。積極的に探さないと見つからないような場所ばかりうろつきながら、自分の気持ちとこれからのことを考えた。
あいつは何でもないことのように「好きやで」と言う。
あれは、どういう意味なのだろうか。
本心からの言葉なのか、繋ぎとめるための鎖なのか、誰にでも注ぐ言葉なのか。それが分からないまま流されてしまうのは良くないし、このまま離れられるような強い意思はないし、薄い想いでもなくなってしまった。
だから、あいつが探しに来るかどうか、探しに来た場合はどんな言葉をかけてくるかで自分の気持ちの置き場所を考えなければいけない。
もう何日か待って、探しに来ないならそれでおしまい。お互いのことは単なる一時の暇つぶしだった、それだけのことになる。
探しに来たのなら、第一声は何なのだろうか。そこは分からないが、もしも連れて帰ろうとするのなら、伝えなければならない。
自分は期待に応えようとしても一時の欲に流されて裏切ってしまう、怠惰でどうしようもない、どれだけ大事にされても応えきれない、大事にする価値のない人間であることを。
それを知った上で本気で来るのなら、それでいい。いつかの未来であいつが傷ついたらそれを良しとしたあいつが悪いし、甘い嘘で遊ぶなら傷つくのは己一人だけのよくあることだ。
ブランコに座る。きいきいと耳障りな音が鳴る。葉が落ちた木々は寒々しく、吐く息は白い。日は少しずつ傾いていた。
今日の寝場所を探しに行こう。
ブランコから降りてざくざくと土を踏みしめる。公園の外からはかつかつとアスファルトを軽快に蹴る音。
そこには、一番会いたくて、一番会いたくない男の姿があった。
* * *
手を繋いで人気のない道路を歩く。
全てを吐露して、お前の気持ちを少しだけ聞いて、差し出された手を自然に取った。こちらは涙でぐしゃぐしゃなのに、お前はいつも通りの胡散臭い笑みを浮かべていて、ずるいと思った。
またどっか行ってまうんかと思った、首輪つけたろかな、とお前はいつもの調子で言う。
お前の言葉は本気なのか冗談なのか分からない。どっちなのかを探るのはもう面倒くさい。本気なら未来のお前が傷ついて、冗談なら未来の自分が傷つくだけだ。
ため息をついて、お前の顔を見ないように、自分の顔を見られないように、俯いて一言だけ返した。
「もうついてる」
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